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事例インタビュー:山口大学 大学院 創成科学研究科、医学部附属病院

医学・工学連携による医療用「人モデル」の研究

山口大学では、医学部と工学部が組織レベルで連携し、「人モデル」を用いた未来の医療の発展のために、医療画像からの人体モデル構築と術中採取した生体材料の研究を進められています。医工連携を進める上でのご経験談や今後の計画についてお聞きしました。

医学・工学連携による医療用「人モデル」の研究

山口大学 医学部附属病院 整形外科 助教 西田周泰 先生(写真右)
山口大学 大学院 創成科学研究科 機械工学系専攻 教授 陳献 先生(写真中央)、教授 大木順司 先生(写真左)

山口大学の医工連携
山口大学は、2001年応用医工学系専攻を立ち上げ、全国に先駆けて医工学連携推進に取り組んで参りました。整形外科は、運動器官を構成するすべての組織、つまり骨、筋、靭帯、神経などの疾病を対象とし、その病態の解明と治療法の開発および診療を行う専門領域です。
対象器官は脊椎(脊柱)・脊髄、骨盤、上肢(肩、肘、手、手指)、下肢(股、膝、足、足指)、末梢神経など広範囲に及び、バイオメカニクス研究が不可欠な領域です。当整形外科教室は臨床の疑問点を基に、2001年以前より脊椎脊髄の病態解析を主に取り組んでまいりました。
この確固たる連携の下、山口大学発のモデル構築に取り組んでおり、今回その一例についてご紹介します。
山口大学 医学部
名誉教授 田口敏彦 先生

Q01 山口大学様では、医工連携を進めるにあたり、医学部と工学部で密接な連携をされておりますが、その歴史を教えていただけますか。

大木先生 : 山口大学で組織的に医工連携が始まったのは2001年頃です。全国の大学に先駆けて連携する組織を作り、脊髄や脊椎の実験や簡単な2次元解析からスタートしました。

西田先生 : 私は2010年に大学院に入学して、それから有限要素法を始めました。当時は、臨床医でFEMのソフトウェアを扱うことに限界を感じていました。

JSOL : 医学部の先生が臨床と兼任しながら、有限要素法を行うのには限界があり、工学部と医学部が本格的に連携するようになったということですね。

西田先生 : はい。2014年頃でした。他の大学の講演を聞いたときに、今、工学部と連携してモデル作成にあたらなくては、どんどん遅れていってしまうとちょうど思っていた頃でした。

大木先生 : 以前は、大学で独自プログラムを作り解析をしていた先生もいました。脊髄の実験と脊髄圧迫の2次元解析を行っていましたが、西田先生が加わった今では、3次元解析も行っています。

Q02 医工連携を進めるにあたり、どのようなハードルがありましたか?

医学部と工学部の目標が一致。どんなハードルも相談しながら進めていける。陳 献 先生 医学部と工学部の目標が一致。
どんなハードルも相談しながら進めていける
陳 献 先生

陳先生 : ひとつは(医学部と工学部が)コミュニケーションをとる上での共通言語ですね。工学部でモデルというと、部品やパーツなど形状のことですが、医学部では、糖尿病モデルや癌モデルなど、病気の症状や処置に関することを指します。また、研究を進める上で、考え方やスピード感も違います。理工系では、積み重なる課題をひとつずつ着実にクリアしていくのが一般的ですが、医学部では、病気の原因を特定して、すぐに治すことを優先的に考えていないとなりません。シミュレーション結果を見た場合でも、工学部側は山積みと考えている課題を解決するための一歩目がやっと踏み出せたと考えますが、医学部の先生は、病気を治すことを最優先に考え、すぐに結果をださなければならず、それは文化の違いですね。さらに、医学部の先生は反力とか応力、ひずみなど、そういう(工学的な)知識からスタートしなければならず、苦労されたと思います。

JSOL : 医学部側はいかがでしょうか。

西田先生 : 何かの形状を作らなければならないときに、工学部側に精巧な3次元のモデルを作っていただけていることに感謝しております。しかし、そのモデルを医学部の他の先生に見せると、「この形状は解剖学的におかしい」と言われることもあります。私は、ひとりで有限要素法をやっていたときに、モデルを一から組み立てる難しさや限界を知りましたので、双方の認識のずれを埋め合わせることが自分の役割だと思っています。

JSOL : 解析のためにモデルを簡略化することが重要になることがありますがそれを説明するのは難しいですね。実物とそっくりなモデルを作らないと説得力がないと言われることもあるかと思います。

西田先生 : 私はどこかで妥協点を見つけて、それが臨床に合っていれば、良いと考えています。他の大学の工学部の先生に聞いても、(医学部側に)すぐに臨床の結果を求められるとか、あるいは、工学部の先生があまりにも詳しすぎて、(詳細なモデルを作りすぎてしまうとか、)そういうギャップはあるようです。少し話がそれましたが、(工学部側に)作ってもらったモデルでも合わないところは合わないので、どういう条件に(設定)したら、臨床に合うのかを探りながら、最終的には臨床に合うモデルですと言えるようになればよいと考えています。

Q03 今後の研究内容と目標について教えてください。

山口大学の医工連携は2001年頃に脊髄や脊椎の実験や2次元解析から始まる。大木 順司 先生 山口大学の医工連携は2001年頃に
脊髄や脊椎の実験や2次元解析から始まる
大木 順司 先生

陳先生 : 医学部、工学部それぞれで、具体的な目標を定めることが大事だと思っています。西田先生は、山口大学のモデルとして、筋骨格モデルを作られております。それは、まさに工学部側の目標と一致しており、お互いの部にとって良いことだと思っています。どんなハードルがあっても相談しながら、進めていけると感じています。

JSOL : 同じ目標を持って医工連携への取り組みを進められているのが素晴らしいですね。人体組織の材料物性試験やFEMモデルを作られている側からのお話もお聞かせいただけますか。

大木先生 : はい。私はもともと、金属材料やセラミックスなど、工業材料の研究をしており、8年前から医学系の実験を始めました。金属材料はひとつに特定してしまえば、2、3回の引っ張り試験で材料物性がとれますが、医療分野は取扱いが難しく、ひとつの検体でもかなりばらつきます。その理由は、年齢や病変などさまざまで、うまく考慮して、その物性を有限要素法のプログラムにいれるようにしています。

JSOL : なるほど、年齢別にも物性が大きく異なるのですか。

大木先生 : 最近は手術でとった黄色靭帯という脊髄のまわりの靭帯をもとに実験しています。かなりの数を実験しているのですが、有意差検定をすると、やはり年齢差はあるようで、研究により年齢別の物性の違いが分かってきました。おそらく、靭帯だけではなく、脊髄も同じで、今後はさまざまな箇所を調べていかないとならないと思っています。

JSOL : 全身まで調べていくご予定はあるのでしょうか。

西田先生 : 80歳以上の方の手術をすると、若い方よりも成果がでないことがあります。同じ手術をほかの高齢者や病状が進んでいない方にしても結果は同じで、エイジングが原因ではないかと言われています。組織や細胞レベルについて研究される方はいますが、その物性について、研究されている方は殆どいないと思います。人体モデルを作る上では、若い人のモデルや年配の方のモデルなど、年齢ごとにモデルを作らないと実験と合わないと思います。今まで手術した後に必要がなくなった部位は廃棄していました。以前から研究に活かせないかと考えていたのですが、(大木先生に)相談したところ、「やってみます」と言っていただきました。乾いてしまったものをお渡しすることが多く、いつも申し訳ないと思っているのですが、研究のために手術の方法を変えることは絶対にしてはいけないので、手術中に採取できる可能性がある部位と日取りを事前に工学部に連絡しておき、工学部で実験しています。現在は陳先生に骨格モデルのFEMモデルを作っていただいています。臨床に合ったさまざまな部位のモデルを僕らで作る必要があると考えています。私はたまたま自分でFEMをしていたので、その経験を活かし、脊椎の実験をする中で、必要な組織や足りないものを集めることができました。この経験を他の組織にも広げ、他の科の先生も巻きこみ、整形外科の全パーツを作りたいと考えています。

Q04 医工連携に関する今後の展望を教えてください。

臨床に合ったさまざまな部位の骨格モデルを私たちは作る必要がある。西田 周泰 先生 臨床に合ったさまざまな部位の骨格モデルを
私たちは作る必要がある
西田 周泰 先生

西田先生 : 最終的には山口大学の人モデル、人に近似したモデルを作りたいと考えております。さまざまな骨格モデルを作り、それをコンピュータシミュレーションできるようになれば、各骨格に応じて、手術中にどこまで金属で固定すれば良いか分かりますし、「この人はここまで固定や除圧をした方が安全だ」とか「これ以上操作すると危ない」など手術前に言えるようになります。手術の術式をコンピュータシミュレーションで手術前に予測できれば、最小限の手術ができるようになります。そのようなモデルを作ることにより、介護用品はもちろん日用品、ビス、ベッドなど、骨格に応じたテーラーメイドのものを作れるようになります。それが僕の中の最終成果で、そのために山口大学のモデルを作ることを目標にしています。

JSOL : 山口大学の骨格モデルにより、インプラントや医療機器メーカーへのアドバイスあるいは医療機器の設計までご計画ですか?

西田先生 : さまざまな骨格モデルでシミュレーションが出来れば良いかもしれません。医療機器メーカーには、山口大学で作ったモデルを見せ、メーカーの作ったスクリューのモデルを使った解析をするつもりがないかを聞いたりしています。そこまで広げていければ、面白いですね。

Q05 JSOLにリクエストがございましたら教えていただけますか。

モデル画像

大木先生 : 学生は御社のソフトのトレーニングや使い方のアドバイスなどで大変お世話になっています。先ほど西田先生がお話された全身の人モデルを早くモデリングしたいので、ソフトウェア側で出来るだけ自動化できれば良いと思います。

陳先生 : 医学者と工学者が一緒にデータをみて、シミュレーションソフトウェアを操作し、リアルタイムで病気の判断が出来るようになれば、実用的になります。そのため我々も研究により、さまざまな手法を開発しますが、インターフェースや画像処理、高速ソルバーなどは、JSOLのような解析の専門会社にしかできないので、JSOLには、そのような時に大きな役割を期待しています。

事例インタビュー協力
山口大学
・大学院 創成科学研究科
・医学部附属病院

所在地:〒753-8511 山口県山口市吉田1677-1
連絡先:083-933-5000
公式サイト:http://www.yamaguchi-u.ac.jp/

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