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2011.11.01

LS-DYNAによる繊維強化樹脂積層板の損傷進展解析

カテゴリー
: 構造解析
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LS-DYNA

繊維強化樹脂は近年、航空・宇宙分野のみならず広い分野で使用されるようになり、その強度評価方法の確立が求められています。そこで、代表的な繊維強化樹脂であるUD樹脂材積層板と織物積層樹脂板に関して、繊維の大きさ・形状やその割合をパラメータに各積層樹脂板の損傷進展挙動をLS-DYNAを用いて解析検討しましたので、その結果をご報告致します。

UD樹脂材積層板の構造強度解析

厚さ1.0mmの一方向繊維配向樹脂を層毎に90°方向を変えて積層させた5層板の表裏にt0.5mmの樹脂層を付加した多層板(20.0×10.0×t6.0mm)を対象に図1のように引張変位(0.2mm)負荷を与えた際の繊維部各方向応力分布を図2に示します。

なお、繊維はカーボン(ヤング率:5.0GPa、 ポアソン比:0.23)でφ=0.84mm、樹脂部はエポキシ(ヤング率:2.0MPa、 ポアソン比:0.3、 降伏応力:80MPa)で1層t=1.0mmです。

図1 引張解析概要 図1 引張解析概要

図2 繊維部の応力分布(0°/90°配向多層板引張時) 図2 繊維部の応力分布(0°/90°配向多層板引張時)

さらに引張変位を加えた場合に発生する破損進展挙動を図3に、多層板引張時の反力変位曲線を図4に示します。ここでは多層板を透明表示し、損傷部を色付け表示しています。この解析では、主応力が破損応力に達した要素を消滅させる方法で破損進展挙動を解析しています。(本来樹脂の破損については各方向応力の影響を考えるべきですが、簡単のため破損に対して最も大きく寄与すると思われる引張方向の主応力を破壊基準と致しました。)

図3 破損進展挙動(0°/90°配向多層板引張時) 図3 破損進展挙動(0°/90°配向多層板引張時)

図4 反力変位曲線(0°/90°配向多層板引張時) 図4 反力変位曲線(0°/90°配向多層板引張時)

図3、図4に示すように、引張方向に対し0°と90°で繊維配向されたUD樹脂材積層板では、引張負荷を掛け続けると90°配向繊維間樹脂の1ケ所が破損の起点となり、次にその隣の90°配向繊維間樹脂から順番に90°配向繊維間樹脂全体に破損が一気に広がり、引張時の反力が低下します。この時、他の樹脂部の破損は発生していません。

次に、先と同様に、引張方向に対して45°および-45°に繊維配向させた積層板引張時の損傷挙動を以下に示します。引張変位(0.2mm)を加えた際の繊維部各方向応力が図5です。

図5 繊維部の応力分布(45°/-45°配向多層板引張時) 図5 繊維部の応力分布(45°/-45°配向多層板引張時)

さらに引張変位を加えた場合に発生する破損進展挙動を図6に、多層板引張時の反力変位曲線を図7に示します。ここでも多層板を透明表示し、損傷部を色付け表示しています。

図6 破損進展挙動(45°/-45°配向多層板引張時) 図6 破損進展挙動(45°/-45°配向多層板引張時)

図7 反力変位曲線(45°/-45°配向多層板引張時) 図7 反力変位曲線(45°/-45°配向多層板引張時)

図6、図7に示すように、引張方向に対し 45°と-45°に繊維配向されたUD樹脂材積層板では、引張負荷を掛け続けると、ある繊維間樹脂端部の破損がきっかけとなり破損はその両繊維間を伝播していきます。さらにその破損が関連する繊維樹脂間に伝播し、それ以外の繊維間破損では発生しないので、0°および90°配向UD樹脂材積層板の場合とは破損伝播形態が異なっています。

織物積層樹脂板の構造強度解析

図8のような厚さ0.6mmの平織樹脂シートの5層板(24.0×12.0×t3.0mm)を対象に、長手方向に面内引張変位負荷を与える解析をLS-DYNAを用いて実施致しました。茶色部が縦糸繊維、緑色部が横糸繊維、青色部が樹脂で、材料物性値は先のUD樹脂材積層板の構造強度解析時と同じです。

図8 平織シート5層板概要 図8 平織シート5層板概要

引張変位を加え続けることにより発生する破損進展挙動を図9に、多層板引張時の反力変位曲線を図10に示します。図10は長手方向中央断面のみをコンター表示させており、白く見えるのが破損した部分です。

ある樹脂部が破損するとその破損はそのまま面外方向に広がり、その破損パターンが等間隔ピッチにある同様の配置形態場所に伝播していく様子が判ります。

図9 破損進展挙動(平織5層多層板引張時) 図9 破損進展挙動(平織5層多層板引張時)

図10 反力変位曲線(平織5層多層板引張時) 図10 反力変位曲線(平織5層多層板引張時)

次に、平織繊維のうねり周期を変化させることで含有率を変えた場合の破損進展挙動を解析し、図11に示す反力変位曲線にまとめてみました。

図11 平織ピッチ(繊維含有量)と反力変位特性 図11 平織ピッチ(繊維含有量)と反力変位特性

うねりのピッチが小さく繊維含有率が大きい程、立ち上がりの剛性が高く、破損に至る応力(強度)も高くなることが判ります。一方本条件では、繊維含有率が小さい程、伸びやすく破損に至る変位は大きくなることも判ります。なお、破損モードはどの場合も同様です。

おわりに

繊維と樹脂の間の相互作用を考慮した解析評価が困難であった繊維強化樹脂積層板の破損強度をLS-DYNAによる損傷進展解析により評価してみました。繊維と樹脂を正確にモデル化することで、破損に至る挙動を明確にすることができます。

繊維と樹脂の間の界面強度の知見や破損基準の定義についての知見を考慮すれば、実験との定量的な対比も可能となり、軽量で機能性に富むことからその適用範囲の拡大が見込まれる繊維強化樹脂積層版の強度設計が加速することが期待されます。

また、多数の設計パラメーターを持つ繊維強化樹脂積層板の生産・設計にはCAE解析の援用が必要不可欠でもあります。

今後、繊維樹脂積層板の強度設計手法確立に向け、その強度評価がより重要である曲げ挙動、衝撃挙動についてもLS-DYNAを用いた解析例を近々ご紹介する予定に致しております。

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