
CAE Technical Library 注目機能紹介 - CAE技術情報ライブラリ
2009.06.01
車両の衝突安全に関する法規・アセスメントは厳しさを増してきており、それに伴って乗員や歩行者の傷害値予測シミュレーションは近年非常に重要視されるようになりました。
こうしたシミュレーションの中で必要となるのは、図1に示すようなダミーや衝突試験用バリア、歩行者保護試験用インパクター等の高精度な有限要素(FE)モデルです。弊社では、様々な安全基準で使用することが定められているダミーやバリアなどのFEモデルを各種取り揃え、これまでに多くのユーザー様にご提供してきました。最近では宇宙・航空分野用ダミーモデル、後突スレッド用ダミーモデル、あるいは車両の軽衝突用バリアモデルなど、車両大衝突や歩行者保護とは異なる分野での使用を想定したFEモデルも開発されてきました。今回はこれら新たに開発されたFEモデルをご紹介します。
図1 各種FEモデルと解析事例
FTSS Hybrid II 50th%ile ダミーモデル
航空機の内装開発では、自動車開発と同様に開発期間の短縮化と検定試験コストの低減を図るため、CAEが活用されつつあります[1]。実機ダミーメーカーであるFTSS社(米国)が開発したHybird II 50th%ileは、航空機内装開発、特にSAE SEAT Committeeが提案している航空機シートの検定試験用に用いられるダミーモデルです(図2)。このモデルを用いることで、図3に示すような航空機事故時の乗員の挙動(拘束装置の有用性の確認)をはじめ、頭部等の主要部位における加速度計・荷重計をもとに傷害値を計測することが可能です。
図2 HYBRIDII 50th%ileダミーモデル
(Hybrid II 50th%ile テクニカルレポートより)
図3 シートスレッド試験と解析結果との比較
(Hybrid II 50th%ile テクニカルレポートより)
BioRID II ダミーモデル
後突事故によって発生する乗員頚部の鞭打ち傷害は死亡事故や重篤な傷害には至らないものの、自動車事故の傷害件数の約半数を占め、莫大な保険料や医療コストを要します。
2009年から主要アセスメント試験であるEuroNCAP(European New Car Assessment Program)においてBioRID IIによる鞭打ち傷害レイティングが公開され、日本でもJNCAP(Japan New Car Assessment Program)の実施が予定されています。EuroNCAPの試験では負荷速度が高い(High Severity Sled Pulse)のが特徴で、他より厳しい評価になります[2]。鞭打ち傷害防止技術は自動車安全性能の評価項目として今後ますます重要になることが予想されます。
BioRID IIダミーモデルは、DYNAmore社(ドイツ)およびFAT(German Research Organization for Automotive Industry)で開発された、上記後突スレッド解析用のダミーモデルです(図4)。例えば図5のように、BioRID IIダミーモデルを用いてヘッドレストの高さに応じた頚部傷害値(NIC、Nkm、LNLなど)を計測することにより、シミュレーション上でヘッドレストの最適な位置を検討することができます。
図4 BioRID IIダミーモデル
(BioRID IIダミーモデルテクニカルレポートより)
図5 BioRID IIダミーモデルとSpine部拡大図
ヘッドレスト位置が高い方が、後突時の頚部へのダメージが小さい
RCARバンパーモデル
IIHS(Insurance Institute for Highway Safety=米国保険会社協会が運営する車の安全性評価機関)の報告によると、米国で発生した車両衝突事故のほとんどは軽衝突事故であり、その修繕に多くのコストが費されていることが明らかにされています[3]。そのため、軽衝突時における車両のダメージ軽減は各国の自動車メーカーに重要視されています。
このような背景から、自動車の修理の容易性を研究する国際組織RCAR(Research Council for Automobile Repairs)とIIHSは、軽衝突時の車両のダメージを評価する独自の試験方法を確立しました。RCARバンパーモデルは、これらの試験で用いられるバンパーバリアのFEモデルであり、Arup社(英国)によって作成されました。RCARバンパーモデルを用いることで、RCARやIIHSによって提案されている軽衝突試験そのものを解析上で再現することが可能になり、図6に示すように軽衝突時に発生するバンパー部やフェンダー部のダメージを評価することができます。
図6 RCARバンパーテスト解析事例
(上図:RCARバンパーテスト解析モデル / 下図:バンパービーム、フェンダーの相当塑性ひずみ分布)
まとめ
今回は、Hybrid II 50th%ileダミーモデル、BioRID IIダミーモデル、およびRCARバンパーモデルをご紹介させていただきました。近年、開発期間の短縮化、また試験コストを低減するために、こうした高性能FEモデルを用いた解析の需要が非常に高まっています。FEモデルのご利用をご検討の際にはお気軽に弊社までお問い合わせください。
- 参考文献
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- [1] Gerardo Olivares : Certification by Analysis, Federal Aviation Administration Joint Advanced Materials & Structures (JAMS) Center of Excellence 4th Annual Technical Review Meeting, 2008.6
- [2] EuroNCAP : The Dynamic Assessment of Car Seats for Neck Injury Protection Testing Protocol, Version2.9, 2009.2
- [3] Joseph M. Nolan - Insurance Institute for Highway Safety : Important Considerations in the Development of a Test to Promote Stable Bumper Engagement in Low-Speed Crashes, SAE 2004 World Congress & Exhibition,2004.3