橘サイバー研究所
Vol.31

トラス(Truss)とラーメン(Rahmen)のこころ

2013.12.09
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著者プロフィール
橘 英三郎
  • 大阪大学名誉教授 建築工学

ただし、橋梁のように利用者の動く方向が決まっている場合は古くからトラスが用いられてきた。近年では、施工性や景観の点からトラス以外の斜張橋(写真1)やアーチ橋なども立地条件に応じて採用されている。
勿論、ラーメンの場合はチョークではないが曲げモーメントがからんでくる。地震などに備えて、じゃまにならない程度に筋違いや耐震壁で補強することになるのは覚悟しなければならない[3]

[写真1]近年はケーブルを利用した斜張橋なども多い
[写真1] 近年はケーブルを利用した斜張橋なども多い

次に、少し話は細かくなるが、トラスにおいて完全なピン接合でない場合は「多少の曲げモーメント」が接合部を通じて他の部材に伝わる。このことは例えば接合部に集まる部材軸力の作用線が一点に集まらないような場合に問題となる。偏心による付加モーメントが生じるからだ[4]。これは「トラスの二次応力問題」と呼ばれ、ゲッチンゲン大学のH.Manderlaらを中心として大いに議論された[5]。しかし、それも徐々に沈静化した。結論から言えばトラスが3角型の組合せであるかぎり接合部が多少剛であっても軸力が支配的であるのと(図3参照)、偏心は避けるべし、で落ち着いたからなのであろう。

[図3]上の図は軸力図で下図は付加応力図
[図3] 上の図は軸力図で下図は付加応力図[8]

しかし、この二次応力問題は意外な役割も果たした。当時アメリカでは摩天楼建設への動きがはじまっていた。そして風荷重による摩天楼のたわみ計算のヒントを得るためヨーロッパになぜか?W.M.Wilsonがいた。彼はH.Manderlaの誘導した材端モーメント式に着目し[6]、イリノイ大学に戻って熟成したのち「たわみ角法」として開花させた[7]。「たわみ角法」は接合部を大胆にも剛な「節点」としているところがミソだ。その仮定は鋼構造でも抵抗があるのに、鉄筋コンクリートのハンチなどで固められた接合部さえもエイヤットと一つの剛な節点で表してしまったのである。この大胆な仮定は潔癖症のドイツ技術者にとっては到底許されない発想だ。まさにアメリカ型実利主義(プラグマティズム)の面目躍如たるものである。そして、剛な節点でもおおむねよろしい、と実験からその仮定を支えたのがイリノイ大学に在籍していた阿部美樹志である(本コラムのFEMのルーツと「たわみ角法」参照、2012.1.30付け)。

さらに皮肉なことに「剛な節点」への反省は他ならぬ日本で興った。武藤清、小野薫らの剛域を有するラーメン、戦後の、日置興一郎、田中尚らによる接合部のせん断変形を考慮したラーメンなどである。IBMの解析コードFRANにはsemi-rigid jointなどはあったが、節点に拡がりを与えたものではなかった。これらについては別の機会にゆずろう。

トラスとラーメンについて軽く書くつもりがついつい力が入ってしまった。果たしてここまで古めかしい話にお付き合いいただいた方は何人おられるのだろうか?

■次回予告
1987年にNIKE2Dに導入した2方向メモリー形状記憶合金の構成則を紹介する。相変態の温度は接触面の面圧に依存したものとなっている。

参考文献
  1. とかく人間の好みほどデリケートなものはない。コンピュータで用いられるFuzzy論理なども種をあかすと最後は重心法などでDefuzzifyされ評価されたりする。曖昧なままそっとしておいてはくれない。「僕の嫌いなところを言って下さい」と清少納言を口説いても「フン」とよけい嫌われるだけだ。映画好きの方にはゴダール監督の「軽蔑」をお勧めする。
  2. 効率的だからといってもトラスの圧縮材をあまり細くすると座屈する。座屈は鋼構造のいたる部分で常に気を配る必要がある。もっとも、本コラムは4分6なら6の方が2分だけ得、学術的な厳密性より荒っぽくても分かりやすさを採る、といった書き方をしているので読者も眉にツバをつけておくことをお忘れ無く。
  3. 平面図上で偏在した補強の配置は地震の際に捩れ振動を誘発するのでヤブヘビとなる。
  4. 意図的に斜材を大きく偏心させたトラスもある。トラスの梁で、背の高さが建物の1層分もあるようなメガストラクチャー用の梁だ。上弦材と下弦材との間のせん断剛性を低くする目的で考えられたもので坪井トラスと呼んでいる。(考案者の故・坪井善勝東大名誉教授の名前から)
  5. 成岡昌夫「構造力学要論」丸善のp.138では2次応力問題の初期の論文として“Manderla H.: Die Berechung der Sekundarspannungen, welche im einfachen Fachwerke infolge starrer Knotenverbindung entstehen, Allgemeine Bauzeitung,1880”を挙げている。
  6. 材端モーメント式についてはWilsonの文献[4]のp.16の脚注に“The slope-deflection equations for a member acted upon only by forces and couples at the ends were deduced by Manderla in 1878. See Annual Report of the Technishe Hochschule, Munich, 1879”とある。
  7. W.M.Wilson, F.E.Richart and Camillo Weiss,”Analysis of statically indeterminate structures by the slope deflection method”, University of Illinois, Engineering Experiment Station, Bulletin No.108, 1918
  8. Fritz Stüssi,”Entwurf und Berechnung von Stahlbauten”, Springer-Verlag, 1958より
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