橘サイバー研究所
Vol.29

エレガントな静定構造・恐ろしい静定部材?

2013.05.30
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著者プロフィール
橘 英三郎
  • 大阪大学名誉教授 建築工学

ここで「静定構造 statically determinant structures」についてざっくりとふれておこう。静定構造では力の「釣り合い式」だけで各部材にかかる軸力や曲げモーメントやせん断力などの断面力が計算できる。例えば単純梁の曲げモーメント分布などだ。ただし、たわみ量を求めるとなると不静定構造と同様に部材の剛性が必要になってくる。

静定構造は大きく分けて静定ラーメンと静定トラスとがある。静定ラーメンは単純梁を少し複雑にしたようなもので、あまり構造物として堂々としたもの?ではない。ただ、曲げモーメント図を描く練習になる。それに(大きい声で言えないが)1級建築士の問題として丁度手頃となるようだ。

一方、静定トラスは、各節点での力の釣り合いを順に考えていくとすべての部材の軸力がもとまるという特殊なトラスである。これはコンピューターが現れるまで橋梁などで古くから採用されていた。不静定トラスだと仮想働法などを用いての相当に手間がかかることになる。それに比べ静定トラスは格段に取り扱いがシンプルだ。例えばCremona図法では、ある節点に集まる部材の軸力を矢印で表す。それを繋ぐと閉じた多角形になる(力が釣り合っている)。この性質を利用して順に作図することにより全軸力が求まる。計算をほとんど必要とせずに作図だけで巨大な橋梁や架構の設計ができる!なんとエレガントな構造であろうか。写真1はその例である[3]

[写真1] Cremona図による3ピントラスの軸力図
[写真1] Cremona図による3ピントラスの軸力図

そして、この静定トラス構造の特徴は、もし、ピン接合部分が一箇所でもはずれたら、もし、部材が一本でも座屈したり破断したりしたら、全体が大崩壊する、といった緊張感のあふれる構造でもある。物事を成し遂げようとするとき「この一矢に定むべし」という言葉がある。二本の矢を持って的に向かうとき、これがダメなら後がある、との気のゆるみがどうしても生じるが、それをたしなめた言葉だ。この静定トラス構造はそうした毅然とした気構えもある。

ところで、前の稿では、不静定構造はがんばる者(剛性の高い部材)ほど負担がかかると言った。それに対して、静定構造では、形が決まれば負担する割合も決まる。どの部材も、「はな」からノルマが課せられているわけである。例えば重い丸太の両端を二人で持って運ぶ場合は、一方が屈強な肉食系女性で、もう一方が足下もおぼつかない私のような老人であっても半分ずつの重さを負担しなければならない。

静定構造は助け合う慈悲の心を持ち合わせていない。いいかえると「サボれない」のである。その点、不静定構造では部分的に降伏しても靱性や塑性硬化が期待できれば応力の再配分がなされ全体的にさらに耐えることもできる。

・・とは言うものの、写真2を見ていただきたい。1階の柱の破壊により傾いてしまった建物である。この壊れ方は応力再配分などとおおよそ縁遠い。私は個人的に1階の柱は「静定部材」と考えている。そのような用語はないが敢えて使いたい[4]。不静定構造にもこのような静定的な部材が潜んでいることを忘れてはならない。

[写真2] 1階柱の破壊で全体が傾いた建物(1995 兵庫県南部地震)
[写真2] 1階柱の破壊で全体が傾いた建物(1995 兵庫県南部地震)

ちなみに、静定構造はラーメンやトラスだけかというとそうではない。実はFEMにも応力法が利用されており、その過程で静定構造がチラッと現れる。超音速旅客機コンコルド(現在は廃止)の機体解析などで応力法が用いられた[5]。全体の釣り合い式を静定基本形と不静定力系とに分離するのが結構やっかいな作業となるがJordanの消去法の導入[6]でその自動化が可能になっている。ただし残念ながら現在は変位法が主流となっているのはご存知のとおりで、実際の設計においても静定構造のでる幕の少なくなっていることは確かなようである。

参考文献
  1. S.P.Timoshenko, "History of strength of materials", Dover Publications, 1983, pp.11-12
  2. ガリレオ・ガリレイ(加藤勉訳)「ガリレオ・ガリレイの二つの新科学対話:静力学について」, 鹿島出版会, 2007, pp.28-31
  3. Georg Unold,"Statik f?r den Eisen und Maschinenbau", Julius Springer, 1925, p.50
  4. 生涯にわたって大きな軸力を負担しつづける低層部の柱と、そうではない上層部の梁とでは重要度が異なる。低層部の柱は十分な安全性を確保すべきであろう。
  5. J.H.Argyris, S.Kelsey, and H.Kamel,"A Precis of recent developments", Matrix method of structural analysis, Edited by B. Fraeijs de Veubeke, Pergamon Press 1964 pp.1-164
  6. J.S.シェムニスキー(山田嘉昭、川井忠彦訳)「マトリックス構造解析の基礎理論」培風館、1971 Jordan の消去法は pp.187-188
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