- 株式会社JSOL エンジニアリング事業本部 技術顧問
- 広島大学名誉教授、株式会社CEM研究所代表取締役
高速回転体の低サイクル疲労試験をやっていて、重要なことがいくつかわかってきました。そのひとつは、先に述べたように、回転数の高い領域では、ラチェット変形が円板の疲労寿命を支配し、比較的回転数の低い領域では疲労き裂の進展・破断というモードになることです。また、この材料では、円孔付近の塑性域は明瞭なリューダース帯が目視観察できましたので、その塑性域が繰返し数とともに徐々に半径方向に広がっているのもわかりました。実験と同時に、回転体の弾塑性応力・ひずみ解析も行ってみました。そのときにわかったのは、中心孔付近の塑性域の大きさを定量的に正確に予測するためには、降伏点近傍の(比較的小さな塑性ひずみにおける)応力-ひずみ曲線のモデルを正確にする必要があるということです。特に回転体試験のように塑性域が広い弾性域で囲まれているような問題では、このことが重要です。こんな当たり前のようなことも、計算してみて初めて気が付きました。特にこのときの材料は、Fig.4に示すように、降伏段のあるような熱処理がされていましたので、このモデル化が重要でした。実は、最初の計算では、この降伏段を無視したLudwik型のモデル:
を使って計算したのですが、計算結果があまりにも実験結果と違っていたので、こうしたことに気が付いたのでした。このことを少し一般化すると、応力・ひずみ解析における材料モデルでは、構造体に生じるひずみレベルと同じ程度の大きさのひずみ域でのモデルを正確にする必要があるということです。さらに、この実験観察から、リューダース帯の伝播の解析(これは世界中の研究でも極めて限られていました)が必要だと強く思いました。このことについては、別の機会に少し詳しく述べたいと思います。
この回転体のラチェット変形と低サイクル疲労の研究は実験と解析にとても長い時間がかかり、結局、着手してから7年目にようやく1編の論文[3])を日本機械学会論文集に発表することができました。私にとって、これだけ長い時間のかかった研究は他にはありませんでしたので、今でも最も心に残っている研究のひとつです。同時に、論文としては1編でしたが、多くのことに気が付き、その後の別の研究のモチベーションにつながった研究です。ここでは述べませんでしたが、疲労き裂進展の実験観察、破壊力学、J積分などを学ぶいい機会でもありました。なお、ラチェットの研究の詳細については、その内容が多いため、別の機会にお話しさせていただきたいと思います。
- Coffin, L. F. Jr, A study of the effects of cyclic thermal stresses on a ductile metal, Trans. ASME 76, (1954), pp.931-950.
- Manson, S. S., Behavior of materials under conditions of thermal stress, NACA-TN-2933 (1953).
- 白鳥英亮,吉田総仁,回転円板の繰返し発停に伴う弾塑性応力-ひずみ関係,日本機械学会論文集(A編)46-409(1980), pp.968-975.
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