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医療器具開発・ヘルスケア分野でのシミュレーション活用

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Ansys LS-DYNA / Simpleware Software

今日、さまざまなものづくりの現場において、CAE(Computer Aided Engineering)によるシミュレーション技術の活用は不可欠なものになってきています。シミュレーションを用いることで、現象のメカニズムの理解や、試作レスでの設計・改良検討が可能になり、最終的な製品の安全性向上や軽量化、開発期間短縮に貢献しています。

医療器具開発や医療技術開発においても、シミュレーションの活用が進んでいます。ステントやカテーテルなどの医療器具ではきわめて高いレベルの安全性が求められるため、さまざまな想定のもとでの実験が必要となり、開発期間やコストの増大につながります。実験に要する期間やコストを削減し、短期間、低コストで製品の安全性を高める方法のひとつが、設計の初期段階で行うシミュレーションです。

本記事では、医療器具開発・ヘルスケア分野でのシミュレーション活用の事例をご紹介します。

ステント

ステントの性能評価方法のひとつに、ラジアルフォース試験があります。この試験はステントを半径方向に縮径から拡径したときに、半径方向の反力を評価するものです。図1に、形状記憶合金製ステントのラジアルフォース試験のシミュレーション例を示します。シミュレーションを用いてラジアルフォース試験を再現し、評価すべき半径方向の反力を予測できます(図2)。規格に準じた反力が発生するかを評価することで、ステントデザインの最適設計の検討・実現に寄与します。

図1. ステントのシミュレーション図1. ステントのシミュレーション

図2. ラジアルフォース評価 図2. ラジアルフォース評価

ステントの性能評価の規格には、ラジアルフォース試験の他に、曲げ試験もあります。これは、複雑に曲がった血管内を通して目標部位に届けるまでにステントが塑性変形を起こさないことを保証するための試験です。ステントの曲げ試験をシミュレーションで再現し、発生する応力分布や塑性変形の有無を評価することにより、目標部位に届くまで塑性しないステントデザインの探索を机上で実施することができます。

カテーテル

カテーテルの体内挿入時の挙動評価にもシミュレーションは有用です。シミュレーションを用いることで、体内挿入時のカテーテルと人体内部との接触状況などを評価し、体内での安全性、健全性を確認できます。問題が発生する場合は、設計改良を試作レスで実施できます(図3、図4)。

図3. カテーテル体内挿入シミュレーション(接触圧)図3. カテーテル体内挿入シミュレーション(接触圧)

図4. 接触圧拡大図 図4. 接触圧拡大図

また、カテーテルチューブは生体内侵襲性を小さくするためにナイロン、シリコンなどの柔らかい樹脂素材でできていますが、柔らかすぎると体内で曲がったときにキンクが発生しチューブが閉塞してしまう危険性があります。図5に示すカテーテルの曲げ解析を行うことで、閉塞が発生する曲率を割り出し、実運用の際にキンクが発生しないように改良検討を行うことができます。

図5. カテーテル キンク発生予測図5. カテーテル キンク発生予測

注射針

注射針の研究にもシミュレーションが用いられています。一例として、関西大学・上智大学とJSOLの共同研究では、汎用非線形解析ソフトウェアAnsys LS-DYNAを用いて注射針の抵抗力の予測や皮膚の変形メカニズム分析を行いました。

生体材料は、工業素材(金属やプラスチック)と異なり、柔軟性が高いために工業素材よりも大きく変形します。そのため、大変形が発生しても解析を安定的に実行できるAnsys LS-DYNAの特長が活かされています。注射針の穿刺抵抗力の低減や、生体内でのひずみ、および、応力低減方法を検討することで、より痛みの少ない注射パッチ(マイクロニードルパッチ)の開発に役立ちます。

図6. 注射針シミュレーション図6. 注射針シミュレーション

近年では、痛みを軽減できる樹脂製の注射針の開発も行われており、このような樹脂材料を用いた注射針のシミュレーションもできます。シミュレーションを行うことで、注射針の安全性・健全性を高めるための検討を行うことができます。

製剤

錠剤の製造にもシミュレーションが活用されています。図7は、Ansys LS-DYNAを用いた薬剤の撹拌解析です。回転ドラムのなかの粒子を個別要素でモデル化しています。製剤工程において、十分に薬剤が攪拌されているかを把握することで、薬剤の攪拌方法や撹拌機の改良検討を行うことができます。図8は、錠剤の打錠のシミュレーションに応用される、粉体の圧縮解析の例です。錠剤形状が必要条件を満たしているか確認し、要件を満たさない場合の対策の検討が可能です。

図7. 個別要素法をつかった薬剤の撹拌解析図7. 個別要素法をつかった薬剤の撹拌解析

図8. 粉体の圧縮解析(1/4モデル)図8. 粉体の圧縮解析(1/4モデル)

生体シミュレーション

Ansys LS-DYNAは、支配方程式が異なる複数の物理が組み合わさったマルチフィジックス現象のモデリングに対応しています。このマルチフィジックス解析機能を使うことで、先進的な生体シミュレーションにも応用できます。図9に、不整脈における心室の膜電位の解析(電気生理解析)の例を示します。図10の例は、Ansys LS-DYNAに実装されている非圧縮性流体ソルバーを用いた血流解析です。解析モデル形状は、医療画像から、3次元画像データ変換ツールSimpleware Software を用いて作成しました。

図9. 不整脈における心室の膜電位 図9. 不整脈における心室の膜電位

図10. ICFDによる血流解析 図10. ICFDによる血流解析

JSOLの強み:シミュレーション業務に対する経験と、材料に関する知識

医療器具は比較的小さいものが多く、また、高い寸法精度が求められます。さらに、体内での接触を考慮するためには複雑な非線形現象を再現することが重要です。このように複雑な条件の解析を適切に行うためには、材料モデルの設定やパラメーターフィッティングに関する知見を含むシミュレーションに関する正しい知識が必要となります。

近年、医療業界では、さまざまな素材の利用が進み、繊維強化樹脂や形状記憶合金などの特殊な材料も使われるようになりました。JSOLは、このような新素材のモデル化にも長年取り組んでおり、これまでに培われた技術を適用することで、より精度の高いシミュレーションの実施をサポートすることができます。

本記事でご紹介しましたような、製剤、生体シミュレーションや、新しい材料を使用した医療器具の開発シミュレーションにご興味がありましたら、こちらからお問い合わせください。

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