CAEソフトウェアを比較評価するとき、計算速度や使いやすさ、予測精度といった指標を多面的に比較してソフトウェア同士の優劣を判断されると思います。これまでに、計算速度に関しては「パラスタ解析にかかる工数低減のススメ」、使いやすさに関しては「CAE導入の第一歩に最適な Ansys Discovery」の各記事にてご紹介しましたが、今回、予測精度の観点からAnsys Discoveryを深堀してみたいと思います。
理論解との精度比較
まず、構造解析のベンチマークに用いられることの多い片持ち梁の理論解を対象に、Ansys Discoveryの予測精度を見てみます。
変形量の理論解は、図1に示す材料力学の公式と寸法、弾性係数、荷重から変形量の理論値0.082mmが得られます。これに対して、Ansys Discoveryではメッシュサイズ2mmでの予測値0.0812mm、0.71mmでは予測値0.0819mmとほぼ理論解と一致します。また、最大応力についても理論解7.5MPaに対して、メッシュサイズ0.71mmでは予測値8.1MPaが得られることから、微小変形かつ弾性領域においては理論解を十分予測できているといえます。
Ansys LS-DYNAとの精度比較
ここでは、強力な非線形解析機能を持つAnsys LS-DYNAを比較対象に、Ansys Discoveryの実力を検証します。
まずは、解析対象は自動車バンパーに歩行者がぶつかるシーンを模擬した衝突事象とし、Ansys LS-DYNAによる動的陽解法による計算結果とAnsys Discoveryによる静的陰解法による計算結果を比較します。Ansys Discoveryは線形領域が得意な解析ツールであるため、衝突解析のような非線形性の強い事象を解こうとすると、意図しない解析結果が得られたり、計算が収束しなかったりと問題が発生しやすくなるため、注意が必要です。
図2に示すとおり、変形の傾向はある程度再現していることから、上流工程における概要設計でのパラメータスタディなどに活用できるかもしれません。
続いて、樹脂容器を底面固定した状態で、内圧とボトル入口に下向き荷重を負荷する事象を対象に、陰解法静解析による計算結果を図3に示します。Ansys Discoveryの計算時間が、Ansys LS-DYNAの約1/10にもかかわらず、両者の変位・相当応力分布は一致しているのが確認できます。
Ansys Discoveryの活かし方
Ansys Discoveryの適用範囲は、非線形性を伴わない線形領域が基本になります。そのため、座屈前の解析であるか、発生している応力域が材料の降伏応力を超えていないかなど、事前に確認しておくことが重要です。また、Ansys Discovery ではVOXELメッシュを用いることから、厚肉の塊物の解析を得意としています(図4)。
最新リリース版の2024R1では薄板で扁平な対象にも対応できるように、部品ごとのメッシュサイズの指定が可能になりました。今後の機能改良によって、さらなる適用範囲の拡大が期待されます。
Ansys Discoveryは、Ansys LS-DYNAと比べてユーザーインターフェースが非常に使いやすく、CAE専任者の方なら数十分で使いこなすことが可能です。
検討数の多い線形解析の工数低減に、 Ansys LS-DYNAのサブツールとして、計算速度の速いAnsys Discoveryをご活用いただくととくに効果的です。
無償トライアルも可能です。ぜひ、その実力を体験してみてください。
Ansys体験セミナーはどなたでも無償にてご参加いただけます。
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