「充放電時の発熱特性を予測する解析モデルの開発」をテーマにお届けしている「ゼロからはじめるバッテリーシミュレーション」の第3回です。本稿では、第2回で構築した解析モデルを使った1C放電シミュレーション結果と、第1回で実施した1C放電試験結果を比較して解析条件・結果を検証します。
1C放電シミュレーション
解析で得られた電流密度ベクトル(図15)を見ると、手前の負極タブから電流が流れ、捲回体を通って正極まで電流が流れていることが確認できます。図16は解析と実験の電圧履歴で、初期がSOC:100%、1時間後がSOC:0%です。おおむね電圧履歴はとらえることができております。なお、HPPC試験では0%のデータが取れないため、電圧履歴が合うように調整しております。図17はバッテリーセルのケース中心の温度履歴です。解析と実験で最終的な温度は一致しているものの、最後の温度に至るまでの温度履歴が合っていないことが分かります。
(左から)図15. 電流密度ベクトル、図16. 電圧履歴、図17. 温度履歴
これは電池反応熱と呼ばれるエントロピー変化にともなう発熱であると考えられ、SOC依存の吸熱、発熱反応があると推察されます。この結果より、実験に良く一致する結果を得るためには、エントロピー変化を考慮した電気特性を与えて解析を行う必要があると考えられます。
エントロピー変化にともなう発熱
図18は1C充放電時の温度履歴です。青が充電、黒が放電時の温度履歴を表し、横軸はSOC、縦軸は温度です。時間軸としては、充電時は左から右へ、放電時は右から左へ向かって温度が変化しております。SOCごとに見ると、充電時では青色でかこまれた範囲で温度が上昇しておりません。対応するように、放電時ではオレンジで囲まれた範囲で温度上昇がみられます。エントロピー変化にともなう発熱は、充電、放電でそれぞれ吸熱、発熱が異なっており、主に温度と電流に依存します。
発熱量の計算式(図19)で説明すると、左側の2つは集電体の負極正極それぞれの抵抗加熱、捲回体内の抵抗加熱で、電流密度jと電流iの2乗であることから、発熱量は電流の方向に依りません。最後の項はエントロピー変化にともなう発熱で、電流の向きによって吸熱、発熱が変化します。紫で囲まれた項はDUDTと呼ばれる内部エネルギーの温度微分項で、充電時に温度上昇がなく、放電時に温度上昇している箇所にあたるDU/DTプロファイル(図20)のグレーの部分で大きな値を入れております。このDUDTプロファイルを用いてエントロピー変化にともなう発熱を表現します。
(左)図19. 発熱量の計算式、(右)図20. DU/DTプロファイル
エントロピー変化にともなう発熱を考慮した1C放電シミュレーション
図21がエントロピー変化にともなう発熱を考慮した結果です。オレンジの実線が実験、黒の実線がケースの温度で、温度履歴が良い一致を示していることが分かります。破線は捲回体表面のほぼ同一座標にある温度履歴です。捲回体表面には絶縁シートが巻かれており、これが断熱の効果があると考えられ、熱接触による伝熱をモデル化したことでケース表面と捲回体表面に温度差が発生したと考えられます。
捲回体温度(解析:黒破線)履歴
図22は60分後のバッテリーセル内部の温度分布です。ケースの上にあるタブはケース表面と同等の温度となっており、この結果から、外側のケースに伝熱している量が大きいと考えられます。このように、シミュレーションではケース表面の温度分布はもちろん、内部の捲回体表面の温度分布まで予測することが可能です。
まとめ
ゼロからはじめるバッテリーシミュレーション第3回は、
- Ansys LS-DYNAによる1C放電時のバッテリー発熱シミュレーションにおけるモデル化手法
- 実験の温度を再現するためのモデル開発プロセス
- エントロピー変化に伴う発熱を考慮した1C放電時の発熱解析と実験結果との比較
「ゼロからはじめるバッテリーシミュレーション」の連載では、JSOLが取り組みを進めているバッテリー開発プロセス
- 充放電時の発熱特性の技術開発
- 圧壊時における変形挙動技術開発
- 通電状態における圧壊時の短絡による発熱予測技術の開発
- 青木 靖仁, 2020, 『車載用リチウムイオン電池の発熱挙動解析とそのシミュレーションによるモデル化の検討』, 第61回 電池討論会 1A05
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