【中級編】シミュレーション活用ナレッジ

微細化時代における半導体設計1:微細化と設計指針の変化

2026.06.05
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本稿は、微細化時代の半導体設計を「物理現象」「欠陥・界面」「シミュレーション」の3つの観点から整理する、全3回の連載です。
微細化が進むなかで、デバイス性能や信頼性を左右する要因は大きく変化しています。本連載では、その変化の背景にある物理と、材料・プロセス・設計にまたがる課題を分かりやすくひも解き、最後に実験とシミュレーションを結びつけたアプローチの可能性を紹介します。


第1章:微細化がもたらす半導体設計の新しい視点

1-1. 微細化が変える「常識」

半導体の微細化は、単なるサイズの縮小ではありません。デバイス寸法がナノスケールに達することで、これまで平均化され、設計上ほとんど意識されてこなかった量子的効果や統計的揺らぎが、動作特性を左右する要因となります。[1] たとえば、ゲート酸化膜の極薄化により、トンネル効果によるリーク電流が急増し、消費電力や信頼性の面で大きな課題となります。[2][3][4] また、チャネル内に存在するドーパント原子数が減少することで、しきい値電圧のばらつきが顕著となり、従来以上にばらつきを前提とした設計上の工夫が求められます。

図1.半導体の微細化に伴って顕在化する設計上の課題
図1.半導体の微細化に伴って顕在化する設計上の課題

1-2. トランジスタ設計の現場で起きていること

微細化が進むにつれて、界面や欠陥の影響は無視できなくなり、キャリアの捕獲・放出に起因するノイズ(ランダムテレグラフノイズ(RTN)など)やリーク電流、さらには長期信頼性にまで直接的な影響を及ぼすようになっています。これらの現象の多くは、従来の連続体近似に基づくモデルでは十分に説明できず、界面品質やパッシベーション技術の重要性が一段と高まっています。


さらに、配線寸法の微細化により、配線幅が電子の平均自由行程や金属粒界サイズと同程度になると、表面散乱や粒界散乱が支配的となり、配線抵抗が増大します。その結果、RC遅延や局所的な発熱が深刻化し、性能や信頼性の制約要因となります。これに対処するため、新配線材料の導入やエアギャップ構造、さらにはBS-PDN(Backside Power Delivery Network)といった革新的な技術が検討・実装されつつあります。[5][6][7][8]


1-3. シミュレーション技術の進化と役割

このような複雑化した物理現象を理解し、適切な設計判断につなげるために、第一原理計算(DFT)や機械学習分子動力学(MLMD)は、原子・電子レベルの現象を可視化し、原因と影響のひもづけを手早く検討するための手段として重要性が増しています。


実際の現場では、これらのシミュレーションは設計者が日常的に用いるツールというよりも、プロセス開発やデバイス技術、材料開発、信頼性評価といった専門分野の技術者によって活用されることが一般的です。


たとえば、新材料や新構造の導入段階では、デバイス技術者やプロセス開発者がシミュレーション結果をもとに設計上の制約条件や指針を整理します。また、材料・プロセスエンジニアは、欠陥や不純物が物性に与える影響を評価し、最適な材料選定や工程条件の検討に役立てています。さらに、研究開発部門や製造技術者は、工程パラメータと物性変化の関係を事前に把握することで、試作や実験の効率化を図っています。設計責任者や信頼性評価担当者にとっては、シミュレーションから得られる限界値やリスク情報が、製品仕様や開発計画を策定する際の重要な判断材料となります。
このように、物理シミュレーションは原子・電子レベルの現象を定量的に可視化し、設計そのものを直接行うためというよりも、設計の自由度や安全域を定義するための手助けとなります。


微細化が進む現代の半導体設計では、「どこがボトルネックとなり得るのか」「どの要素を重点的に管理すべきか」を見極めることが、これまで以上に重要になっています。今後は、材料や界面の品質、工程条件の最適化といった領域において、より精緻で戦略的な制御が求められるでしょう。本記事では、こうした最新の設計課題と、それを支えるシミュレーション技術の活用事例について、具体的に解説していきます。

表1. 微細化によって現れる半導体デバイスの設計課題と対策
現象 現象の支配法則 対策の方向性
ゲートリーク 数Åの距離+局所障壁変調 High-k/IL/EOT設計
しきい値ばらつき 離散ドーパント+量子閉じ込め FinFET -> GAA -> CFET
再結合・ノイズ 界面/酸素欠陥のギャップ内準位 パッシベーション・秩序化
RC遅延・発熱 平均自由行程を超える散乱 新金属・エアギャップ・BS-PDN

第2章 微細化とゲート酸化膜:膜厚増加の限界とHigh‑kの役割

2-1. ゲート酸化膜における微細化の影響と物理的限界

トランジスタの性能はゲート電圧のON/OFFの応答特性で決まりますが、電圧が印加されるゲート酸化膜は絶縁体ですので、電流が流れることはありません。これは電子の持つエネルギーよりも酸化膜のポテンシャル障壁の方が高く、透過することができないためですが、微細化が進むと、この状況は大きく変化します。従来は「障壁高さ(Φ)」がリーク電流を抑える主要因と考えられていましたが、膜厚が数nm以下になると、距離(d)による指数的変化が顕著になります。すなわちトンネル効果によって、電子のエネルギーが障壁の高さより低い場合であっても、絶縁膜をすり抜けられる確率が有意に生じます。トンネル確率Tは次式で表されます(ℏ:プランク定数/m:電子の有効質量/E:エネルギー)[9][10]


ここで重要なのは、dが指数項に現れるため、わずか数Åの差が電流の桁を決定するということです。障壁高さを数eV変えても、膜厚の変化ほど効果は大きくありません。これは、微細化によって支配的な物理要因が変化する典型的な例です。バルクでは「高さ」が支配的でしたが、微細化で「距離」が支配的になり、設計の重心が膜厚制御と界面品質に移ります。しかし、膜厚を単純に増やしてリークを抑えると、静電容量Cが低下し、チャネル制御が不十分になります。MOSトランジスタでは酸化膜容量 C=εA/dA:膜面積)がチャネル形成を決定するため、膜厚増加はオン電流やスイッチング速度の劣化を招きます。

2-2. High‑k材料とその評価

ここで登場するのが高比誘電率(High‑k)材料です。High‑kを使えば、物理膜厚 tphy を厚くしてトンネル距離を稼ぎつつ、誘電率 ε を高めて容量低下を防げます。High‑kは以下に定義される指標EOT(等価酸化膜厚)によって評価されます(EOTが薄いほどよい)。

Quantum ESPRESSOによる解析では、SiO2(α‑クォーツ)の比誘電率が約4.9に対し、HfO2(立方晶)は約38.3と7倍以上高い値を示しました[11][12]。この差は、EOT(Equivalent Oxide Thickness:等価酸化膜厚)を小さく保ちながらリークを抑える設計の根拠です。
ただし、High‑k導入は界面準位の増加、バンドオフセットの変化、局在化傾向といった副作用を伴います。材料選択は必ず界面設計とセットで議論すべきです[13][14]。次章では、酸化膜の酸素欠陥がリーク電流に与える影響を定量的に示し、欠陥工学の重要性を掘り下げます。


図2. Quantum ESPRESSOによる SiO₂とHfO₂の比誘電率の比較 密度汎関数摂動論(DFPT)による解析。HfO₂は立方晶を仮定した解析のため、実測よりも大きい。
図2. Quantum ESPRESSOによる SiO₂とHfO₂の比誘電率の比較
密度汎関数摂動論(DFPT)による解析。HfO₂は立方晶を仮定した解析のため、実測よりも大きい。
用語 説明
トンネル効果 電子が本来越えられない障壁を量子的に通過する現象。超薄膜酸化膜でリークの主因となる。
リーク電流 本来流れてほしくない経路へ流れる電流。ゲート絶縁膜のトンネルで顕著化し電力と信頼性を悪化。
ランダムテレグラフノイズ(RTN) 単一欠陥での捕獲・放出により電流がランダムに上下するノイズ。微細デバイスで目立つ。
パッシベーション技術 表面や界面の欠陥を化学的に“無害化”する処理。リーク・ノイズ・劣化を抑える要となる。
IL インタレイヤ。異種材料の間に挿入する極薄層。
RC遅延 配線抵抗Rと容量Cに起因する信号遅延。微細配線で増大し高周波動作や消費電力に影響。
BS-PDN ウェハ裏面から電力供給するネットワーク。表面の配線混雑とIRドロップを低減できる新手法。
FinFET 背びれ状のフィンを三側面からゲートで囲むFET。短チャネル効果とばらつきを低減。
GAA Gate-All-Around。チャネルをゲートが全周から囲むFET。電気的制御性が最も高く、先端ノードで主流化。
CFET nFETとpFETを縦積み統合する構造。面積削減と配線短縮で次世代の高密度化を狙う。
参考文献
  1. Durairaj, M., Kumar, R. D., Senthil Kumar, K. S., Dhivya Bharathi, S., Sharanya, V., & Sathish, T. (2023). A Comprehensive Review of MOSFET Device Scaling Challenges. Journal of Science, Computing and Engineering Research, 6(3), 01–03.
  2. Ranuárez, J. C., Deen, M. J., & Chen, C‑H. (2006). A review of gate tunneling current in MOS devices. Microelectronics Reliability, 46(12), 1939–1956.
  3. Choi, C‑H., Nam, K‑Y., Yu, Z., & Dutton, R. W. (2006). Impact of gate direct tunneling current on circuit performance. IEEE Transactions on Electron Devices, 48(12), 2823–2829.
  4. Chaudhry, A. (2013). Nanoscale Effects: Gate Oxide Leakage Currents. In Fundamentals of Nanoscaled Field Effect Transistors (Chapter 2). Springer.
  5. Zhao, K., Hu, Y., Du, G., Zhao, Y., & Dong, J. (2022). Mechanisms of Scaling Effect for Emerging Nanoscale Interconnect Materials. Nanomaterials, 12(10), 1760.
  6. Josell, D., Brongersma, S. H., & Tőkei, Z. (2009). Size‑Dependent Resistivity in Nanoscale Interconnects. Annual Review of Materials Research, 39, 231–254.
  7. Madikanti, S., & Fatima, K. (2022). ULSI Interconnect Scaling: Trends, Challenges and their Solutions. International Journal of Recent Advances in Multidisciplinary Topics, 3(3), 132–134.
  8. Kotapati, R. R. (2025). Back side power delivery: Revolutionizing chip design. International Journal of Science and Research Archive, 14(1), 981–987.
  9. Schiff, Quantum Mechanics (邦訳:「量子力学(上)」 L.I.Schiff 吉岡書店)
  10. Sakurai & Napolitano, Modern Quantum Mechanics (邦訳:「現代の量子力学(上)第2版」 J.J.Sakurai 吉岡書店)
  11. X. Zhao & D. Vanderbilt. (2002) First-principles study of structural, vibrational, and lattice dielectric properties of hafnium oxide. Phys. Rev. B 65, 233106 (2002)
  12. Garcia, J. C., Lino, A. T., Scolfaro, L. M. R., Leite, J. R., Freire, V. N., Farias, G. A., & da Silva Jr., E. F. (2012).Band Structure Derived Properties of HfO₂ from First Principles Calculations.arXiv preprint arXiv:1204.2898.
  13. Huang, A. P., Yang, Z. C., & Chu, P. K. (2010). Hafnium‑based High‑k Gate Dielectrics.
  14. Kol, S., & Oral, A. Y. (2019). Hf‑Based High‑k Dielectrics: A Review. Acta Physica Polonica A, 136(6), 873–881.
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