本稿は、微細化時代の半導体設計を「物理現象」「欠陥・界面」「シミュレーション」の3つの観点から整理する、全3回連載の第2回です。なお、本回では欠陥・界面の物理を中心に扱い、シミュレーションの具体的な活用については第3回で議論します。
第3章 酸化膜の酸素空孔とリーク:局在準位の影響
3-1. リーク電流を決定する内部要因:不純物準位と局在状態
リーク電流は一般に膜厚に強く依存し、絶縁膜が薄くなるほどトンネル確率の増大により電流が増加すると理解されています。図3-1に示すように、この関係は指数関数的なスケーリングとして整理され、デバイス設計における基本的な指針となっています。
図から、リーク電流の要因が膜厚と相関を持つことは確認できます。理想的な欠陥のない酸化膜では、電界の増大に伴って、直接トンネルやFowler–Nordheim(FN)トンネルが支配的になります。FNトンネルとは、強電界によるポテンシャルの変形により実効的な障壁厚さが薄くなった領域を電流がトンネルする過程です[1]。しかし実際のデバイスでは、同一の膜厚であってもリーク電流が大きく異なるケースが数多く観測されます。このことは、膜厚がリーク電流を決定する唯一の要因ではないことを示しています。つまり図3-1による整理はあくまで巨視的な近似であり、個々のデバイスにおけるリーク状態の差異までは説明できません。これらの差異を決定しているのが、不純物準位や局在準位(材料の欠陥・不純物・界面などに生じた、電子が狭い場所に強く束縛されたエネルギー状態)といった内部要因です。この内部要因により、膜中・界面の欠陥がキャリア輸送の主要経路となります。酸化膜中には酸素が不足した欠陥(酸素空孔:oxygen vacancy (OV))により、一時的に電子を捕獲する準位(トラップ準位)が形成されます。トラップ準位が関与するリークメカニズムとしては、トラップを介して二段階のトンネル過程で電流が流れるTrap-Assisted Tunneling(TAT)があります[2]。また、Poole-Frenkel(PF)型の過程も重要です。これはトンネル過程ではなく、外部電界によってポテンシャル障壁が低下し、トラップからのキャリア脱離が熱励起で促進される過程です(図3-2、表3-1)[3]。これらの現象は、酸化膜のリーク電流に大きく影響する重要な要因です。またSiO2では界面の応力緩和に伴うSiOx領域の形成が知られ、局在準位の起源となり得ます(詳細は3-2(2)を参照)。一方、HfO2などのHigh-k金属酸化物では、OVの形成が比較的容易で、ギャップ内に深い準位を生じさせ、リーク悪化の主要因となります[4]。
| 項目 | TAT(トンネル型) | PF(熱励起型) |
| 電子の動き | 壁を通り抜ける | 壁を飛び越える |
| 電圧の役割 | トラップまでの距離を縮める | 壁の高さを低くする |
| 熱の役割 | ほとんど関与しない | 脱出のためのエネルギー |
3-2. なぜ酸素空孔が生じるのか:熱酸化・応力・化学結合・不純物影響
(1) 熱酸化の化学経路と酸素供給不足
Siの熱酸化には、固体SiO2を形成するパッシブ酸化(passive:不動態を示す、酸化膜により保護された状態)と、SiOガスを形成するアクティブ酸化(active:活性を示す、酸化保護膜がなく不安定な状態)の二つの競合する経路があります[5][6]。通常のデバイスプロセス(800~1200℃、大気圧近傍)ではパッシブ酸化が支配的で、酸化膜は比較的均質で欠陥が少なく、電気的に良好な品質を示します。
一方、高温(>1000℃)かつ低酸素分圧条件下ではアクティブ酸化が優勢となり、安定したSiO2膜が形成されにくく、形成されたとしてもSiOガスとして脱離することにより、界面や膜内でOVが誘起されやすくなります。この結果、膜品質は低下し、リーク電流や界面欠陥の原因となります。さらに、パッシブ酸化領域であっても、膜厚増加に伴う酸素拡散の制限や、低酸素雰囲気でのアニール(例:CO/CO2含有ガス)によって、界面近傍で実効的な酸素供給不足が生じ、OV密度が増加します。こうした条件依存性は、極薄酸化膜形成時の初期増速現象や界面欠陥生成の理解に直結します。なお、初期増速現象とは、酸化の初期段階でSi表面にまだ酸化膜がほとんど存在しないために酸素が容易に到達・拡散し、酸化速度が一時的に著しく高くなる現象です。酸化膜の成長とともに速度は急激に低下します。
(2) 応力緩和としてのSiOx遷移層の形成
SiからSiO₂への酸化では体積が約2.2倍に膨張するため、界面に大きな圧縮応力(~1–2 GPa)が発生します[7]。この応力緩和過程で、化学量論比からずれたSiOx(x<2)の遷移層(厚さ約1–2 nm)が形成され、酸素空孔や局在準位の母体となります。さらにデバイス動作時の高電界ストレスによってSi-O結合が直接破壊され、OVが追加的に生成・集積します。
(3) 材料の結合性(共有結合 vs イオン結合)と不純物の影響、酸素空孔のクラスタ化
SiO2は共有結合性が強く、酸素空孔形成エネルギー(約5–7 eV)が比較的高いため、OVの生成は本質的に抑制されやすい傾向があります。一方、HfO2などのHigh-k酸化物はHf4+のような高価数金属イオンから構成されるためイオン結合性が強く、酸素との結合が相対的に不安定となります。このためOV形成エネルギー(約3–5 eV)が低く、OV生成が起こりやすいことが第一原理計算(DFT)で示されています[8]。図3-3では、HfO2中に酸素空孔(OV)が生じた場合に、ギャップ内に深い局在準位が形成されることをDFT解析により示しています。単独の酸素空孔は主として局在準位として機能しますが、濃度増加や電界ストレスにより空孔間の相互作用が顕著になると、欠陥準位の重なりを通じて局所的な伝導の兆候が現れ始めます。こうした欠陥準位は、低~中電界でもTATを強化し、リーク電流の指数関数的増大を招きます。High-k材料はEOT(Equivalent Oxide Thickness:等価酸化膜厚)維持や直接トンネル抑制に有効ですが、その反面、OV起源のリーク悪化がこれらのメリットを相殺しかねません。これは次回(第3回)で議論する界面制御の必要性を端的に示す例と言えます。SiO2中においても、局所歪みや外因性不純物(H, OH, F, Clなど)は酸素空孔と相互作用し欠陥の活性を抑制(パッシベーション)する一方で、新たな欠陥構造の形成を引き起こします。また、第一原理計算およびMDシミュレーションにより、酸素空孔はダイマー(二量体)型構造として安定化することが示されています[9]。特に水素関連種(OH, H)は、プロセス雰囲気や後工程アニールで容易に取り込まれ、リーク電流増加の主要因となります[10]。
また、アニール処理や高電界の下では、生成された酸素空孔(OV)が近接配置へと再構成され、クラスタ化が進行することが報告されています。第一原理計算や分子動力学計算では、単独の中性OV間の相互作用は弱いものの、電子注入により局所結合が弱まり、新規OVが既存OVの近傍で誘起される自己促進的な生成機構が示されています[11]。こうしたOVクラスタは、ギャップ内準位の密集化や局所的酸素欠乏領域を生みます。その結果、TATの増加や導電フィラメント(絶縁膜中に形成されるナノスケール導電路)の形成が促進され、リーク電流の指数関数的増大やTDDB(Time‑Dependent Dielectric Breakdown:時間依存絶縁破壊)の進展に寄与します[12][13]。したがって、アニール条件・水素管理・電界印加履歴は、単なる欠陥密度だけでなく、欠陥の空間分布(集積度)を制御する観点からも最適化が必要となります。
立方晶モデルの2×2×2のスーパーセル。左が完全結晶で右がOVを1つ有するモデル
3-3.微細化による設計ポイントの移行
トランジスタの微細化が進むにつれ、ゲート酸化膜に対する考え方は大きく変化してきました。かつては酸化膜厚の設計に自由度がありましたが、現在では酸化膜厚は物理および信頼性上の制約のため、ほぼ下限値に達しており、微細化に伴うリーク電流の増加は単純に膜厚だけでは制御できない課題になっています。極限微細化領域においては、リーク電流の下限を決めるのは理想的なトンネル理論ではなく、前述の欠陥と界面の物性になります。膜厚が2nm以下に達する現在の極薄膜領域では、欠陥に一時的に捕獲されたキャリアを介するTAT過程が、低電界域から顕著に現れ、リーク電流の主要因となります。これは、従来の「距離による抑制」という設計に代わって「欠陥密度とそのエネルギー準位」がリーク特性を直接決定する時代に移ったことを意味します。つまり、微細化によって、リーク制御の重点が「膜厚」から「欠陥と界面品質」へ移行したと整理できます。この設計重心の変化こそ、微細化時代の酸化膜設計を理解するうえで最も重要なポイントです。
このように、微細化の進展は、リーク電流問題の議論を「電界と膜厚の設計」から「材料欠陥と界面の物理制御」へと移行させました。第3回では、上記の視点から、酸化膜材料および界面制御技術が果たす役割と、現象の可視化と要因分析のためのシミュレーションの利用について議論します。今回、3-2節においてJSOLが提供する第一原理計算ソフトウェアASAP[14]を用いた基本的な解析としてDOSの計算結果を紹介しましたが、次回はDFT法や最新の解析手法と合わせてご紹介します。
- Fowler, R. H., & Nordheim, L. (1928). "Electron emission in intense electric fields." Proceedings of the Royal Society A, 119, 173-181.
- Gurfinkel, M., Bersuker, G., Park, S., Hobbs, C., Kirsch, P., & Jammy, R. (2007). "Enhanced gate induced drain leakage current in HfO2 MOSFETs due to remote interface trap-assisted tunneling." IEEE International Reliability Physics Symposium (IRPS), 58-63.
- Southwick, R. G., III, Bruce, R. L., & Campbell, J. P. (2010). "Limitations of Poole-Frenkel conduction in bilayer HfO2/SiO2 MOS devices." IEEE Transactions on Device and Materials Reliability, 10(2), 201-207.
- Kumar, A., Mondal, S., & Rao, K. S. R. K. (2024). "Probing the oxygen vacancy associated native defects in high-κ HfO2 using deep level transient spectroscopy." Journal of Applied Physics, 135(4), 045305.
- Starodub, D., Gusev, E. P., Garfunkel, E., & Gustafsson, T. (1999). "Silicon oxide decomposition and desorption during the thermal oxidation of silicon." Surface Review and Letters, 6(1), 45-52.
- Narushima, T., Goto, T., Hirai, T., & Iguchi, Y. (1997). "High-temperature oxidation of silicon carbide and silicon nitride." Materials Transactions, 38(10), 821-835.
- Jaccodine, R. J., & Schlegel, W. A. (1966). "Measurement of strains at Si-SiO2 interface." Journal of Applied Physics, 37, 2429-2434.
- Yang, Y., Yang, W., Son, Y-W., & Liu, S. (2025). "A DFT+U+V study of pristine and oxygen-deficient HfO2 with self-consistent Hubbard parameters." Phys. Rev. Materials 9, 034402.
- Zhang, W., Yang, Y., Chen, D., Zhao, T., Li, D., & Yang, Y. (2025). "Research on Si/SiO2 interfaces characteristics under service conditions." Symmetry, 17(1), 46.
- P. E. Blöchl and J. H. Stathis. (1999). "Hydrogen Electrochemistry and Stress-Induced Leakage Current in Silica." Phys. Rev. Lett. 83, 372.
- Gao, D. Z., Strand, J., Munde, M. S., & Shluger, A. L. (2019). "Mechanisms of Oxygen Vacancy Aggregation in SiO2 and HfO2." Frontiers in Physics, 7, 43.
- Strand, J., Gao, D. Z., Munde, M. S., & Shluger, A. L. (2022). "Dielectric breakdown in HfO2 dielectrics: Using multiscale modeling to identify the critical physical processes involved in oxide degradation." Journal of Applied Physics, 131(23), 234501.
- Tao, F., Zhang, G., Wang, Y., Zhang, Z., & Wang, X. (2014). "TDDB characteristic and breakdown mechanism of ultra-thin SiO2/HfO2 bilayer gate dielectrics." Journal of Semiconductors, 35(6), 064003.
- 第一原理計算ソフトウェアASAP, https://www.jsol-cae.com/products/asap/index.html
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