JSOLでは、Ansys LS-DYNA、JMAG、JSTAMP、J-OCTA、JWELDなど、CAEソフトウェアの開発・販売・サポートを行っています。
その源流は、1970年に日本情報サービス株式会社(現JSOLの前身企業)に設立された科学技術計算部にさかのぼります。
日本情報サービス株式会社は、1962年に住友銀行のコンピュータ関係の部門が分離独立して誕生した会社です。当時は、銀行業務向け計算機資源の一部を活用し、科学技術計算や解析受託サービスを提供していました。
DYNA3Dとの出会い
JSOLのCAEビジネスにおける大きな転機は、1982年頃に米国ローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)を訪問したことでした。
当時、ジョン・ホルキスト博士(John O. Hallquist)は、衝撃・破壊解析ソルバー「DYNA3D」の開発を進めていました。
DYNA3Dはパブリックドメインとして公開されており、日本情報サービス株式会社はそのソースコードをもとに日本国内の計算環境への移植や利用支援を開始しました。この時代は現代ほどハードウェアのアーキテクチャやOSが統一されておらず、お客様ごとの環境にて動作するモジュールをポーティングする必要がありました。また、基本機能としてはそれほど充実していなかったため、お客様ごとの利用用途に合わせて追加の機能開発、性能開発をおこないました。JDYNA3D/2Dと呼んでいたソルバーとともに、解析の前処理・後処理を支援するソフトウェア開発も行い、CAEソリューションとして提供していました。
当時の主な適用分野は、原子力分野における落下解析や衝撃解析でした。
その後、DYNA3Dは商用化され、現在のAnsys LS-DYNAへと発展していきます。
1982年を起点とすると、来年2027年にはJSOLのAnsys LS-DYNA関連ビジネスは45周年を迎えます。
この45年の間、日本国内では複数の企業がAnsys LS-DYNAの販売やサポートに携わってきました。しかし、1980年代から現在に至るまで継続してAnsys LS-DYNAビジネスを展開している企業はJSOLのみであり、日本のAnsys LS-DYNAの歴史そのものとともに歩んできた企業であるといえます。
長年にわたりAnsys LS-DYNAの開発・販売・技術サポートを継続してきたことで、日本国内でも最大級のAnsys LS-DYNA技術者集団を形成してきました。解析技術、導入支援、運用サポートにおいて豊富な知見を蓄積しており、自動車・エネルギー・重工業・材料開発・精密機器・建築・土木など多様な産業のお客様の開発現場を支えてきました。
また、1982年当時からこの事業に携わった技術者の一人は、2026年現在もJSOLに在籍しています。創業期から受け継がれてきた知見や技術が、次世代の技術者へと継承されていることも、JSOLの大きな特徴です。
日本におけるAnsys LS-DYNA普及への貢献
1989年、ホルキスト博士がLLNLから独立、Livermore Software Technology Corporation社(LSTC)を設立し、DYNA3Dをベースとした商用ソフトウェアの開発を開始しました。これが現在のAnsys LS-DYNAにつながっています。当社も自社での開発・ポーティングを終了し、ホルキスト博士のLSTC社の提供するソフトウェアに合流してお客様への提供を開始しました。
その後、日本国内でも自動車、エネルギー、重工業分野を中心にAnsys LS-DYNAの活用が広がりました。特に自動車の衝突安全解析においては、理論的な発展と機能の充実、モデル化技術の進展により多くの検証[1][2]が進みました。1990年代には急速に広がる活用に合わせ、JSOLはユーザー会の開催を開始し、日本国内ユーザーコミュニティの形成を支援してきました。各業界ごと、金属、樹脂などの材料ごと、あるいは衝撃、落下、塑性加工などの現象ごとにお客様の技術課題を共有し、さらにお客様同士のコミュニケーションを醸成することによりまだ見えていない課題を浮き彫りにしてAnsys LS-DYNAの活用の促進を支援してきました。ユーザー会や技術テーマごとの講演会、自動車、航空、精密などの産業や企業グループなどの業界ごとの非公式なコミュニティ形成、あるいは各種学会でのワーキンググループによる技術開発やガイドライン策定・執筆などを行ってきました。
2000年代になると、自動車業界において衝突安全性能の高度化が進み、多くの自動車メーカーやサプライヤーでAnsys LS-DYNAの利用が拡大しました。自動車の衝突現象は複雑なアセンブリ構造に多様な材料、そして高速、大変形や破断現象、複雑な接触など非線形性が非常に高く、それを実現するために様々な機能の開発と、それに合わせたモデル化技術の深化が両輪で進みました。例えば現在で主流になっている要素type16(完全積分要素・高速計算)は、ねじれ変形に非常に強く、自動車の衝突におけるフレームの変形のような曲げや引張だけでは表現できない現象に大きな効果を発揮しました。それまではtype2(belytschko)にねじれ耐性を付加する(type10, belytschko Wang Chai)ことにより表現していましたが、大きなねじれ変形が発生すると正しく計算できませんでした。このtype16の登場によりこの問題が大幅に改善され、自動車の衝突など大きくかつ複雑に変形する現象を精度よく計算できるようになりました。一方でエネルギー消散がないこの要素は当初計算上非常に不安定でした。現実的な運用のためには多くの検証データとともに様々な二次的な問題に対処しました。特別なねじり変形処理および人工粘性、破断/要素削除時の処理、さらには回転自由度に対する減衰の導入など様々な機能の組み合わせにより安定性が向上し、現在では自動車衝突に限らず多くのモデル化で利用されています。
こういった機能開発、解析技術の開発においてはJSOLの技術者もお客様の開発現場に常駐しながら、車両開発や解析技術の高度化を支援してきました。
また、ユーザー会ではトヨタ自動車様、本田技術研究所様をはじめとする国内有力メーカーの皆様に講演いただき、日本のCAE技術発展に貢献してきました。
ソフトウェア開発と開発元との連携
先にあげたようなソフトウェアの機能開発、解析技術の開発においてはお客様、サポートするJSOLとともに、開発者との三位一体の体制を組むことが欠かせません。2010年代には、JSOLの技術者がカリフォルニア州リバモアにある開発元に常駐し、日本のユーザーのニーズを開発側へ直接フィードバックする役割も担いました。要件が明確になっている機能の開発だけではなく、お客様の現場の課題、これまで解くことのできない物理現象などを取り入れるためにコミュニケーションを密に行いながら開発をしていくことが重要です。
近年実装された粒子法のひとつであるCPG機能では、エアバッグの展開現象において内部のガスの流れと基布変形、そしてそれらの連成挙動を正確に表現することが求められます。JSOLでは、お客様や開発元と連携しながら、エアバッグ展開現象の分析、課題整理、要件定義、定式化の方向性の提案を行ってきました。開発過程では、必要な検証モデルや評価手法を準備し、検証結果を開発側へフィードバックしながら機能開発をリードしてきました。さらに、実データを用いた精度・安定性・計算性能の評価を行い、実用技術としての確立と実運用への適用を推進しています。また、Ansys LS-DYNAには様々な材料モデルがありますが、取り扱う材料、評価する現象により表現する物理が異なります。現象論的な定式化となるため、テーマの数だけ材料モデルがあります。その選択に当たり理論的背景だけでなくお客様の課題の理解が必要ですが、JSOLではそのサポートにとどまらず、特に新たな課題に対応するために、構成式、破断モデル(脆性から延性まで)を開発、実装してまいりました。特にプレス成型、落下で利用される材料モデルでは現在のAnsys LS-DYNAの標準機能でも数多く利用されています。そしてこれからも新しい材料、新しい課題とともに、新しいアイデアを取り入れた材料モデルを構築していくことが求められていることを考えています。
陽解法というAnsys LS-DYNAのアルゴリズムは、比較的アイデアを実装しやすいところに、その特徴があります。大きな行列を構築せずさらに収束計算が不要なため、数値処理における困難なプロセスが必要ありません。対象となっている物理現象を正しく定式化できれば、比較的実装しやすいアルゴリズムと言えます。お客様(課題提供)、JSOL(定式化、モデル化)、開発者(コーディング)が近い距離で協力し合えば新たな課題が解ける可能性を持っているのです。
現在でもお客様、開発者であるSynopsys社と協力しながら、IGA(CADをベースの構造解析)や粒子法、新規の材料モデルなどの新しい解析技術についての開発を続けています。
国産CAEソフトウェアの開発
JSOLでは、Ansys LS-DYNAの販売・サポートだけでなく、自社CAEソフトウェアの開発にも取り組んできました。
- 1982年 JMAG
- 1996年 JSTAMP
- 2005年 J-OCTA
- 2005年 HYCRASH
- 2011年 JWELD
- 2013年 JFOLD
それぞれの分野で、日本の製造業の課題解決を支援してきました。
また、2024年以降では、
- 2024年 J-SimRapid
- 2026年 JESOLVA®-Forming for JSTAMP
- 2026年 JWELD CpAnalyzer
など、新たなソリューションをリリースしております。
これからのJSOL
JSOLは、1970年から半世紀以上にわたりCAEに取り組んできました。
特にAnsys LS-DYNAについては、1980年代から日本市場での普及と発展に携わり、多くのお客様とともに技術を磨いてきました。
これからも、お客様の課題やニーズを起点に新たな解析技術とソフトウェア開発を推進し、日本のものづくりの発展に貢献していきます。
- 自動車技術会 構造強度部門委員会 衝突解析WG, "薄肉曲がり部材の崩壊特性 Vol.Ⅰ", 自動車技術会 技術報告書シリーズ No.2, (1986).
- 自動車技術会 構造強度部門委員会 衝突解析WG, "薄肉曲がり部材の崩壊特性 Vol.Ⅱ", 自動車技術会 技術報告書シリーズ No.8, (1989).
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