■Simulation Insight(シミュレーション・インサイト)

エアバッグ折り畳み解析システムJFOLD開発ストーリー

2026.10.15
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はじめに

自動車開発において、安全性能の向上は最優先課題の一つです。中でも、衝突時に乗員を保護するエアバッグは、人命を守るために欠かせない重要な安全装置であり、現在では多くの自動車に搭載されています。エアバッグは、高速に展開する過程において乗員と過度に接触しないよう配慮しつつ、できるだけ早く展開して衝撃から守る必要があります。このような相反する要求を両立させるためには、展開挙動に大きな影響を与える折り畳み形状を適切に設計することが重要です。

近年では、CAEを活用したエアバッグ展開解析が広く行われており、多様な折り畳み形状を精度よく再現できる解析システムの重要性が高まっています。エアバッグの設計・開発現場だけでなく、製品品質や開発効率、コスト管理を重視する企業全体にとっても、こうした解析システムの導入は重要な意味を持っています。

こうした課題に応えるべく、JSOLは「エアバッグ折り畳み解析システムJFOLD」を開発しました。現在では、多くの日本の自動車メーカーおよびエアバッグサプライヤーに導入され、幅広く活用されています。本稿では、JFOLDの技術開発の背景、現場課題への対応、そして最新の業界動向についてご紹介します。

さまざまなエアバッグ

さまざまなエアバッグ

技術課題への挑戦と開発の原点

2010年代、自動車メーカー各社は衝突安全解析のさらなる精度向上を目指していました。しかし当時、実物の折り畳み形状を正確に再現したエアバッグモデルを作成することは容易ではありませんでした。モデル作成は作業者の経験に大きく依存しており、属人的で再現性に乏しく、作業効率の低下を招いていました。
こうした設計・開発現場の課題に応えるべく、JSOLは2012年にJFOLDの開発を開始しました。CAE解析と折り畳みモデルの作成工程の管理を組み合わせることで、複雑な折り畳み形状を効率的かつ再現性よくモデル化できる仕組みの実現を目指しました。さらに、「すぐにでも使いたい」という自動車メーカーからの強い要望を受け、早期の実用化に向けて開発を進めました。

JSOLの開発力が生んだソリューション

JSOLは、ユーザーに満足いただける性能をより早期に提供するため、基盤となるプラットフォームと実装技術の検討を重ねました。その結果、JFOLDでは、Ansys LS-DYNAによる数値解析を活用したシミュレーションベースの折り畳み手法を採用し、折り畳みモデルの作成工程をフローチャート形式で管理するGUIを実装しました。JFOLDでは、「ツール」と呼ばれる治具を用いて、固定・移動・ロール折り・ジグザグ折り・二つ折りなど多様な折り畳み方法に対応しています。設定したツールを複数の手順で再利用できる構造とすることで、モデル作成の効率化を図っています。また、作成工程をフローチャート形式で管理することにより、設定内容を把握しやすくし、作業の再現性向上を支援しています。

フローチャートによる折り畳みモデル作成工程管理システム

フローチャートによる折り畳みモデル作成工程管理システム

ソフトウェアプラットフォームにはArup社製PRIMERを採用しています。PRIMERのモデル表示機能やツールの自動位置決め機能(オートポジショニング)を活用することで、折り畳み解析のセットアップ作業を効率化しています。ユーザーはGUI上でツールの位置や動作を設定でき、Ansys LS-DYNAのキーワードデータを直接編集することなく、モデル構築を進めることができます。

2013年初頭にはプロトタイプが完成し、日本の自動車メーカーへの紹介と評価を進めました。同年には、英国マンチェスターで開催された第9回欧州LS-DYNA会議でJFOLDを発表し、シミュレーションベースのエアバッグ折り畳みシステムとして海外にも紹介しました。
JFOLD - Introducing A New Simulation-Based Airbag Folding System for LS-DYNA®

現場支援と人材育成への取り組み

JSOLは、単なるツール提供にとどまらず、ユーザー教育と技術継承にも力を入れています。
エアバッグの折り畳み方法は、形状や大きさによって多様であり、適切なツール設定が求められます。JFOLDでは、ツールの位置や動作をGUI上で簡単に設定できるため、多様な折り畳み方法に柔軟に対応できます。今後も、ツール設定を支援する機能の高度化など、より効率的なモデル作成に向けた技術検討を進めていきます。

現在、サイドエアバッグ、カーテンエアバッグ、助手席エアバッグの折り畳みに関するチュートリアル形式のマニュアルをVol.1からVol.5まで発行しています。各マニュアルでは操作手順を具体的に説明しており、製品のバージョン更新に合わせて内容の見直しと改訂を行っています。また、各折り畳み方法の考え方やツール設定の意図をまとめた手引書も整備し、操作手順だけでなく、設定の背景を理解できる学習環境の充実を図っています。

こうした取り組みにより、ユーザーが体系的に学習できる環境を整備し、現場へのスムーズな導入と安定した運用を支援しています。これらのサポート体制は、現場の生産性向上にとどまらず、組織全体の人材育成や業務標準化にも貢献しています。

エアバッグ解析の新基準:VTとJFOLD

近年、自動車の安全性能評価では、実機試験に加えて、CAEによるシミュレーションを活用するバーチャルテスト(VT:Virtual Testing)の導入が進んでいます。Euro NCAPにおいても、物理試験を補完する評価手法としてVTが採用され、前面衝突を含む衝突安全分野を対象としたVTプロトコルが導入されています。こうした評価では、シミュレーションモデルが実際の現象を適切に再現できることを、物理試験との比較を通じて客観的に示すことが求められます。

特に、ファーサイド乗員保護では、エアバッグを含む拘束装置の挙動を高精度に再現することが重要であり、Euro NCAPではVTによる評価が導入されています。
JFOLDは、エアバッグの折り畳み形状をCAE上で再現することで、高精度なエアバッグ展開解析を支援します。

まとめ

JFOLDの開発は、JSOLの技術力と現場課題に真摯に向き合う姿勢を象徴する取り組みです。国内の自動車メーカーやエアバッグサプライヤーへの導入実績は、JFOLDが実際の開発現場で活用されてきたことを示しています。

今後もJSOLは、CAE技術を活用した解析ソリューションの提供を通じて、自動車の安全性能向上と開発効率化に貢献していきます。バーチャルテスト時代における新たな課題にも柔軟に対応し、製品開発に携わるすべての技術者と企業にとって価値あるパートナーであり続けることを目指します。

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