■【中級編】シミュレーション活用ナレッジ

微細化時代における半導体設計3:実験とシミュレーションの融合

2026.10.07
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本稿は、微細化時代の半導体設計を「物理現象」「欠陥・界面」「シミュレーション」の3つの観点から整理する、全3回連載の第3回です。

第4章:界面制御:微細化で比重が高まる設計要素

4-1.なぜ界面が支配的になるのか

微細化に伴い、デバイス構造の中で界面が占める割合が相対的に増大します。かつては膜全体のバルク特性が性能を支配していましたが、膜厚が1 nm前後になると、界面の原子層がデバイス特性に強く影響を与えるようになります。
界面近傍では、わずかな組成乱れや欠陥生成がしきい値電圧、リーク電流、長期信頼性に直結するため、膜厚制御よりも界面品質をいかに安定化するかが設計の中心的な課題となります。

4-2.High-k 導入の二面性:容量維持と界面制御

High-k材料(HfO₂など)は、物理膜厚を厚く保ちながらEOT(Equivalent Oxide Thickness:等価酸化膜厚)を小さくできるという大きな利点があり、微細化における有力な選択肢となっています。一方で、HfO₂は酸素空孔(OV)が形成されやすく、それが深い準位を形成して[1] TAT(Trap-Assisted Tunneling)を強め、かえってリークを悪化させる可能性があります。
このため、High-k材料を効果的に活用するには、

  • SiO₂の薄いインタレイヤによる界面安定化
  • 酸素供給条件の精密制御によるOV抑制
  • 積層構造の工夫による欠陥発生の抑制

といった材料選択と界面設計の同時最適化が不可欠です。例えば、SiO₂の薄い挿入層を設けることで界面の安定性を確保し、欠陥の発生を抑えることができます[2]。また、酸素供給を適切に制御するプロセスによってOV生成を低減することも有効です[3]。さらに、材料選択や積層構造の工夫(例:希土類酸化物を組み合わせた積層膜)によって、リークを低減しながらEOTを小さくするアプローチも検討されています[4]。

図4-1にHfO₂とSiを接合したモデルを作成後に、第一原理計算(DFT)による緩和計算を行った事例を示します。緩和解析後、HfO₂側からSi側へ酸素が移動し、Si側に酸化層が形成される再構成が確認できます。実験的には一定の温度条件でのアニーリングによって、界面でSiO₂層が成長することが確認されています[5]。これは界面の組成乱れと欠陥生成を誘発し、電気的特性(しきい値、リーク、ばらつき)を不安定化させます。

実際の工程では、Si表面に薄いSiO₂インタレイヤを形成し、その後堆積法によりHfO₂を形成することでHfO₂からの酸素拡散を抑制し、界面を化学的・構造的に安定化させます[6]。このときSiO₂層とHfO₂層はキャパシタとして直列に入るため、Low-k材料であるSiO₂は可能な限り薄くなるよう慎重な界面制御が求められます。このように材料選択(High-k)と界面設計(インタレイヤ)は常にセットで最適化することが重要です。

図4-1. Si/HfO<sub>₂</sub>接合時の緩和計算前後の界面の結合状態の様子

図4-1. Si/HfO₂接合時の緩和計算前後の界面の結合状態の様子
右図では界面におけるHfO₂側の酸素がSi原子と結合している様子が分かる

4-3.界面における物理現象の本質:単純化モデルが示す普遍的指針

複雑な界面は材料組み合わせや化学反応が絡みますが、その根底にある物理現象は共通しています。半導体表面では、結合が切れたダングリングボンドが高エネルギーの局在状態を形成し、ギャップ近傍に表面準位を生じます。そのため表面原子は構造緩和や再構成を起こし、ダングリングボンドを減らすことでエネルギーを低下させます。同時に局在した表面準位も減少することが知られており、これは半導体表面物理における基本的な考え方の一つです[7]。

図4-2の左図に示したSi表面+真空モデルは、この考え方を最も単純な形で検証するためのモデルです。時間刻み2fsで500ステップの緩和計算をASAP [8]で行いました。緩和初期は初期構造の影響が大きいため、200ステップ以降のスナップショットを対象に、ダングリングボンド数、ポテンシャルエネルギー、フェルミ準位近傍の状態数を評価しました。解析結果を図4-2の右図に示します。横軸は各スナップショットのポテンシャルエネルギーを、解析対象中で最も低いポテンシャルエネルギーを基準として表した相対エネルギーです。縦軸には、ダングリングボンド数およびフェルミ準位近傍(±0.5 eV)の状態数を示しています。なお、グラフ中の破線は、それぞれのデータを一次の最小二乗法で近似した結果です。
その結果、以下の相関が確認できました。

エネルギー低下 → ダングリングボンド減少 → ギャップ近傍準位減少

この一連の変化は、異種界面を理解する上でも有用な基本傾向と考えられます。
この解析から得られる普遍的な設計指針として、以下が挙げられます。

1.緩和を促進する工程設計
アニール条件(温度・時間・雰囲気)を最適化し、界面のポテンシャルエネルギーを低減することで、欠陥準位を減らす。
2.評価指標の導入
緩和の“質”を数値化するため、エネルギー—ボンド数—DOSの相関を工程KPIとして採用。
3.異種界面への適用
Si/HfO₂など複雑な界面でも、この相関を設計・評価の基準として活用可能。

図4-2. Si 64原子+真空領域モデルによるダングリングボンド数とギャップ近傍の状態数の変化

図4-2. Si 64原子+真空領域モデルによるダングリングボンド数とギャップ近傍の状態数の変化

4-4.界面制御の設計原則

これまでの議論を界面制御の設計原則の視点でまとめてみます。微細化が進む現代の半導体デバイスでは、界面品質が性能と信頼性を決定する最重要要素となります。特にHigh-k材料であるHfO₂を導入する場合、Siとの直接接合は酸素移動や欠陥生成を誘発し、リーク電流やしきい値ばらつきの原因となります。そのため、界面制御は単なる付加的工程ではなく、設計の重要な因子であるといえます。

1.インタレイヤの活用
第一の原則はインタレイヤの活用です。Si表面に極薄のSiO₂層を挿入することで、HfO₂からSiへの酸素拡散を抑制し、化学的安定性を確保します。このSiO₂はキャパシタとして直列に働くため、厚さは最小限に抑え、EOTを維持することが重要です。
2.酸素供給の最適化
第二に酸素供給の最適化です。成膜やアニール時の酸素化学ポテンシャルを適切に制御し、酸素空孔(OV)の生成を抑制します。
3.応力・粗さ管理
第三に応力・粗さ管理が不可欠です。酸化過程で発生する圧縮応力はSiOₓ遷移層の肥大化を招き、欠陥発生の原因となるため、応力緩和条件を最適化します。
4.不純物管理
不純物管理も重要です。水素やOHなど外因性種はOVの安定化中心となり、リーク悪化を引き起こすため、プロセス雰囲気や後工程での取り込みを防ぐ工夫が求められます。これは、OVが水素やOHと結合すると構造的・電荷的に安定化し、ギャップ内に深い準位を形成しうるためです。この準位はTATを強化し、低~中電界でも電子が欠陥を介して酸化膜を通過しやすくなるため、リーク電流が増加します。

これらの設計原則は、材料選択と工程条件を一体で最適化することで、微細化時代の界面品質を保証し、デバイスの性能と信頼性を両立させる鍵となります。

第5章:シミュレーションから見た今後の展開:実験と理論の融合へ

微細化の進展により、半導体設計では従来の連続体モデルでは捉えきれない現象が支配的となりつつあります。膜厚が1 nm前後の領域に入ると、酸素欠陥による局在準位、TAT、界面再構成といった原子・量子スケールの効果が無視できない要因となり、設計の着目点は「寸法」から「原子配置・電子状態」へと移行しました。この変化は、シミュレーション技術の役割を質的に変えるものであり、シミュレーションが補助的な検討手段ではなく、設計判断を支援するツールとして位置づけられる時代に入ったことを意味します。近年、計算機性能の向上により、DFTで扱える原子数は数百~千原子規模まで拡大し、実験で観測される界面構造や欠陥分布と直接照合できるレベルに達してきました。これにより、Si/SiO₂やSi/HfO₂界面における酸素移動、欠陥の拡散を定量的に評価できるようになってきました[9]。さらにバンドオフセットといった現象を電子状態解析で定量的に評価し、TEMやXPSの実測データと整合させる「実験—理論の接続」も現実的なものとなっています。

さらに、機械学習(ML)の急速な発展によって、従来は第一原理MD(Ab Initio MD、以下AIMD)でしか扱えなかった界面現象のダイナミクスを、機械学習ポテンシャル(MLIP)を用いたMD(MLMD)によってより長い時間スケールで扱えるようになりました。MLMDは適用範囲内ではAIMDと同等の精度を維持しながら、酸化膜形成、酸素拡散、欠陥集積といった複雑な現象を、より長い時間・大きな系で追跡できる可能性があります[10]。重要なのは、MLMDとDFTを組み合わせることで、時間発展する構造変化と電子状態の変化を一体として解析できる点です。MLMDで得た膨大なスナップショットの中から、DFTで電子状態を精査することで、酸素空孔や界面欠陥がリーク電流や信頼性に与える影響を動的に評価できるようになりました。図5-1に示したSiO₂形成過程の例が象徴的ですが、酸化初期の反応経路や界面構造の進化を、実験データと計算科学を相互参照しながら理解することが有力なアプローチとなりつつあります。

こうしたMLMDの活用は、酸化膜形成に限らず、化学反応を伴う製造プロセス全般へ広がりつつあります。たとえばCMP(Chemical Mechanical Polishing)では、研磨粒子・酸化剤・添加剤が共存する複雑な界面反応場を、DFTと同等精度を保ちつつ大幅な高速化のもとで追跡できることが報告されており[11]、スクラッチや腐食痕といったプロセス起因の欠陥を分子レベルで議論する道が開かれつつあります。MLIPは「DFTの高速版」にとどまらず、反応性界面の長時間・大規模ダイナミクスを統計的に扱える解析基盤として位置づけられます。

一方で、原子スケールの解析だけでは設計判断を下せない領域も存在します。代表例が、EUVレジストや先端パッケージの封止材です。EUVレジストでは、光や二次電子による反応開始から、酸拡散、現像コントラスト、最終的なLER(Line Edge Roughness)に至るまで、電子状態・分子運動・メソ構造の各階層が連動して欠陥確率を決定します[12]。封止材でも、界面接着エネルギーから架橋ネットワーク、粘弾性、そしてパッケージ全体の反りまで、複数スケールの物理量が一体で性能と信頼性を支配します[13]。これらの課題に対しては、DFTやMLMDで得た界面接着エネルギーや活性化エネルギーを、古典MDや粗視化モデル、さらにはFEMへと橋渡しするマルチスケールアプローチが不可欠です。各階層で本質となる物理量を抽出し、上下に受け渡すことが、シミュレーションを単なる現象再現から「設計判断ツール」へと昇華させる鍵となります。

今後は、DFTとMLMDを核としたシミュレーション技術の発展により、プロセス条件と材料特性の関係について、さらに高精度な予測が可能になると考えられます。これにより、EOT、リーク電流、信頼性といった複数の設計指標を考慮した材料・プロセス開発が、従来以上に効率的に進むことが期待されます[14]。

図5-1. 汎用機械学習ポテンシャルMACEを利用したSi(100)における初期酸化過程

図5-1. 汎用機械学習ポテンシャルMACEを利用したSi(100)における初期酸化過程
ASAP 解析・利用例「シリコン表面酸化反応の原子レベル解析」

参考文献
  1. Kumar, A., Mondal, S., & Rao, K. S. R. K. (2024). "Probing the oxygen vacancy associated native defects in high‑κ HfO2 using deep level transient spectroscopy." Journal of Applied Physics, 135(4), 045305.
  2. Kol, S., & Oral, A. Y., (2019). "Hf-Based High k Dielectrics: A Review." Acta Physica Polonica A, Vol. 136, No. 6, pp. 873-881.
  3. Takeuchi, H., Wong, H. Y., Ha, D., & King, T.-J. (2004). "Impact of oxygen vacancies on high-k gate stack engineering." IEDM Technical Digest, 829–832.
  4. Al-Ghamdi, A. A., Abdullah, M. J., Dutta, J., et al. (2022). "Solution-Processed HfO2/Y2O3 Multilayer Si-Based MOS Capacitors Photoactivated by Deep-Ultraviolet Radiation." Journal of Electronic Materials, 51, 6784–6792.
  5. Zhang, X.-Y., Hsu, C.-H., Lien, S.-Y., et al. (2019). "Temperature-Dependent HfO2/Si Interface Structural Evolution and its Mechanism." Nanoscale Research Letters, 14, 83.
  6. Robertson, J., & Wallace, R. M. (2015). "High-K materials and metal gates for CMOS applications." Materials Science and Engineering: R: Reports, 88, 1–41.
  7. Lüth, H., Solid Surfaces, Interfaces and Thin Films, 5th Edition, Springer, 2015.
  8. 第一原理計算ソフトウェアASAP, https://www.jsol-cae.com/products/asap/index.html
  9. Tang, C., & Ramprasad, R. (2007). "Ab initio study of oxygen interstitial diffusion near Si:HfO2 interfaces." Physical Review B, 75, 241302.
  10. Cvitkovich, L., Fehringer, F., Wilhelmer, C., Milardovich, D., Waldhör, D., & Grasser, T. (2024). "Machine learning force field for thermal oxidation of silicon." Journal of Chemical Physics, 161(14), 144706.
  11. レゾナック・ホールディングス. (2024). 「AI活用の最先端シミュレーション技術で半導体材料開発を加速 ~CMPスラリーによる半導体基板研磨メカニズムの解明に、精度を維持しつつ、10万倍速以上の計算手法を初めて適用~」. プレスリリース, 2024年8月6日.
  12. 日経エレクトロニクス. (2025). 「JSRが半導体材料に量子シミュレーション EUVレジストの高性能化で微細化を促進」. No.1275, pp.31-33.
  13. 住友ベークライト. (2026). 「先端パッケージ用液状封止材の供試開始のお知らせ —EME-Lシリーズ—」. 2026年5月18日.
  14. Behler, J., & Csányi, G. (2021). "Machine learning potentials for extended systems: a perspective." The European Physical Journal B, 94(7), 142.
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