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第7節 分子シミュレーションによる架橋構造材料の特性評価

株式会社JSOL 吉川 信一郎

技術情報協会 「重合開始剤, 硬化剤, 架橋剤の選び方, 使い方とその事例」掲載

はじめに

計算機の発展により,従来の科学研究手法である理論,実験に加えて,数値計算(シミュレーション)が主要な研究手法として脚光を浴びている。科学研究におけるシミュレーションとは,現象の素過程を物理学の基礎方程式を用いてモデル化し,その方程式を数値的に解くことにより現象を解析して理解する手法であるといえる。材料分野に目を移すと,原子・分子の挙動が現象の素過程であることから,材料特性を理解するためには,原子・分子の挙動を記述する分子シミュレーションが有用である。この節では,架橋構造材料の形成に必要な化学反応,及び材料特性の評価を,分子シミュレーションを通して理解することを目的とする。

1. 化学反応における分子動力学

1.1 分子動力学法

分子動力学法(以下,MD法)とは,原子 ・ 分子の運動を計算で求める分子シミュレーション手法の一つである。MD法は,大きく分けて古典MD法と量子(第一原理)MD法に分類される。古典MD法とは,力場と呼ばれるポテンシャル関数で原子間の相互作用をモデル化し,原子 ・ 分子の運動をニュートンの運動方程式を用いて解く手法である。一方,量子MD法とは,原子配置に応じて決定される電子状態を量子力学により計算し,原子 ・ 分子の運動を解く手法である。本項では,分子スケールにおける化学反応のシミュレーションを扱うことから,古典MD法による原子 ・ 分子のシミュレーション(以下,分子シミュレーション)の説明を続けることとする。分子シミュレーションを実施するためには,モデル作成(モデリング)をする必要がある。モデリングとは,シミュレーションを行うために必要な原子 ・ 分子の構造,及びそれらの相互作用の種類,反応条件,計算条件,パラメータ等を決定することである。決定すべき内容は非常に多く,かつ複雑であるため,モデリングの手助けとなる無償,有償のソフトウエアが現在広く普及している。計算対象の材料特性に合わせて使いやすいソフトウエアを選ぶとよい。次に架橋構造材料の特性をシミュレーションにより評価するために必要な古典MD法による化学反応のモデリング方法を述べる。

1.2 モデリング

化学反応のモデリング方法の前に,MD法のモデリングの概要を説明する。MD法のモデリングでは,まず分子の初期構造(初期配置)を作成する。初期構造を構成する個々の分子の構造は,力場と呼ばれる分子を構成する原子間のポテンシャル(結合距離,結合角,ねじれ角などの結合ポテンシャルやファンデルワールス相互作用などの非結合ポテンシャル)により,エネルギーが最小となる構造であるため,分子の構造最適化計算を行うことにより得られる。力場は,原子・分子の種類により様々なものが存在し,扱う原子・分子の種類に応じて適切な力場を選択する必要がある。力場を選択し,その力場パラメータを決定した後,構造最適化計算を行うことにより,個々の分子構造が決定される。また原子電荷を考慮したい場合は,分子軌道法により個々の原子電荷を計算することが可能である。分子軌道法のソフトウエアはGAMESS(Firefly), GAUSSIAN, ABINIT-MP, MOPAC等が有名である。次に,個々の分子構造を決定後,計算領域に分子を必要な数(あるいは必要な密度で)配置させる。分子配置構造はモデリングソフトにより効率的に作成することが可能である。分子配置構造を設定することができたら,次に計算条件を決定する。主にはMD計算の時間刻み,境界条件,温度,圧力などである。最後にモデリングで決定したパラメータや分子構造データをもとに,MD計算の入力ファイルを作成する。MD計算を実行するプログラム(MDエンジン)はいくつか存在し,問題や計算速度に応じて適切なものを選ぶことが可能である。MDエンジンの有名なものとして,例えば無償ソフトであればLAMMPS, Gromacs, COGNAC等が存在する。以上がMD法のモデリングのおおまかな手順である。

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