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シミュレーションを活用して脱炭素を目指す梱包材設計

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Ansys LS-DYNA / Ansys LS-TaSC / Jvision

はじめに

近年、電機・精密機器の梱包材として従来用いられてきた発泡スチロールなどに代わり、CO2排出量がより少なく環境負荷が小さい段ボールや図1に示すようなパルプモールドの利用が広がっています。特に、積載性、頑強性、利便性などの多機能・多性能を兼ね備えたエコロジカルな梱包材の設計にはAnsys LS-DYNAを用いた梱包落下シミュレーションが有効です。

図1. パルプモールドによる梱包材の例図1. パルプモールドによる梱包材の例

梱包材を取り巻く環境の変化

脱炭素社会を目指す意識が高まる中で、電機・精密機器の梱包材を取り巻く状況や求められる性能は大きく変化してきました。社会貢献としてだけではなく、消費者にとっての商品価値を高めて競争力を高める意味においても製品梱包材のCO2排出量削減をはじめとする課題解決は必要不可欠です。現在、梱包材に求められる課題を3つ挙げます。

1. 材料の転換と多品種少量の対応

従来用いられていた発泡スチロールやエアークッション材に代表される樹脂材料の代替として、CO2排出量がより少なく環境負荷がより小さい段ボールやパルプモールドを梱包材として用いることが増えてきました。さらに、使い終わった梱包材を再利用できるようにリサイクル性の高いエコロジカルな材料を用いることが広がっています。このような段ボールやパルプモールドのような板材そのものはエネルギー吸収効率が低いため、基本的な形状の設計によって緩衝効果を高める必要があります。

また、製品の多品種化に応じて、梱包材の容易な設計へのニーズも高まっています。異なる形状・構成のさまざまな製品に対応できるよう、梱包材に対しても設計期間の短縮が求められるようになっています。

2. 梱包材の削減と高積載性

CO2排出量の低減を目指す取り組みのひとつとして、製品を梱包する段ボール箱そのものを小さくすることが求められます。対策としては、製品を小さくしたり、組み立て式にして梱包対象を小さい部品にしたりすることが挙げられます。さらに、梱包材を必要最低限に抑えることも求められます。

一方で、輸送時や保管の際の積載性を高めるために、製品を梱包した箱をできるだけコンパクトにすることも必要とされています。コスト、CO2排出量の低減の観点から、一度により多くを積載可能な梱包箱の設計も重要な検討項目のひとつです。

3. 複数回落下への対応

上記のような要件や制約がある中でも、梱包材には本来の目的である高い頑強性が求められます。特に近年では、1回だけの落下に対する製品健全性の確保だけでなく、複数回落下させても製品を守るような持続的な衝撃吸収性を持つ梱包材の設計が必要です。

梱包材のシミュレーションに必要な材料モデル

段ボールやパルプモールドなどを用いた梱包落下シミュレーションには、複雑で局所性、異方性を持った特性を再現できる材料モデルの構築が必要です。しかし、そのような複雑な特性を扱える材料モデルの構築は容易ではありません。JSOLは、長年にわたり培ってきたAnsys LS-DYNAを用いたシミュレーションのノウハウを活かして、梱包材の特性をより精緻に再現できる材料モデルを構築することができます。

シミュレーションによる梱包材設計

これからの梱包材シミュレーションに求められるものは、単なる落下試験の置き換えではなく、さらに一歩踏み込んだ梱包材の設計を支援するツールになることだとJSOLは考えます。これまで通り落下試験を再現する梱包落下シミュレーションを行いつつ、脱炭素を目指す新しい課題に対してもシミュレーションは活用できます。

取り巻く環境の変化にともなう新しい課題を満たすための梱包材の設計に関して、シミュレーションに求められるソリューションをご紹介します。

1. 材料の転換と多品種少量の対応

段ボールやパルプモールドは基本的に板材であるため、発泡スチロールやエアークッション材のようなバルク形状によるエネルギー吸収効果は期待できません。そのため、製品重量や落下高さなどから決まる衝撃エネルギーを吸収できるよう、図2に示すような基本形状を設計する必要があります。

図2. パルプモールドの基本形状検討図2. パルプモールドの基本形状検討

段ボールによる組み形状単体やパルプモールド単体のエネルギー吸収効率をシミュレーションにより予測することで、落下時に製品の健全性を確保するのに必要な基本形状の検討ができます。これにより、多品種の製品に対しても少量の基本形状の梱包材の基本形状の組み合わせでの設計が可能です。図3に、応力−ひずみ曲線を同定したパルプモールド基本形状の圧縮シミュレーションの結果を示します。

図3. 材料同定したパルプモールドの基本形状の圧縮シミュレーション結果図3. 材料同定したパルプモールドの基本形状の圧縮シミュレーション結果

2. 梱包材の削減と高積載性

梱包材の軽量化・最小化を検討する場合には、トポロジー最適化を用いることもできます。Ansys LS-DYNAをソルバーとするトポロジー最適化ツールAnsys LS-TaSCを用いて、梱包材の必要最小限の形状検討も可能です(図4、図5)。このような検討により、梱包材の削減と高い積載性を両立する梱包材を設計できるようになります。

図4. ディスプレイ梱包落下に対する梱包材トポロジー最適化検討の条件図4. ディスプレイ梱包落下に対する梱包材トポロジー最適化検討の条件

図5. Ansys LS-TaSCを用いたディスプレイ梱包材のトポロジー最適化過程図5. Ansys LS-TaSCを用いたディスプレイ梱包材のトポロジー最適化過程

さらに、従来よりも小さく複雑な形状の梱包材を再現して精度の高い結果を得るために、シミュレーションモデルもメッシュ細分化が求められます。しかし、メッシュが小さくメッシュ数が増大してモデル規模が大きくなると、計算時間の増大が問題になってきます。JSOLは、大規模モデルにおいても精度の高いAnsys LS-DYNAシミュレーションを短時間で実行するための、複雑なモデル化と計算の高速化の技術開発を続けています。

3. 複数回落下への対応

1回の落下衝撃シミュレーションだけではなく、複数回落下させるようなマルチステップの落下シミュレーションを行うためには、前回の落下衝撃による変形や応力状態などの解析結果を引き継いだシミュレーションが必要です。Ansys LS-DYNAは、解析結果を引き継いだマルチステップシミュレーションを実施することができ、JSOLはその活用ノウハウを持っています。

また、マルチステップのシミュレーションでは、ステップ間のデータや落下角度の変更など、複数のデータを間違いなく設定するためのシステムが必要とされます。設定ミスをなくし、簡便に解析データをセットアップできるシステムは、JSOLが開発しているプリポストプロセッサーJvisionをはじめとするソフトウェアをカスタマイズすることで構築可能です。

おわりに

本記事では、脱炭素社会の実現に向けて、梱包材の性能を予測し設計に活用するための新しいシミュレーション技術をご紹介しました。JSOLは、Ansys LS-DYNAの利用技術や、Ansys LS-TaSCによる形状最適化など、梱包材の設計に役立つシミュレーション技術を継続して開発しています。

本記事でご紹介しました、Ansys LS-DYNA、Ansys LS-TaSCなどを用いた梱包落下シミュレーションにご興味をお持ちの方や、エコロジカルな梱包材の設計に課題をお持ちの方は、こちらからお気軽にお問い合わせ、ご相談ください。

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