
CAE Technical Library エンジニアレポート - CAE技術情報ライブラリ
昨今、小型軽量への要求が非常に高まっているレンズやミラーといった光学機器の設計において、焦点ボケの原因となる機器の熱変形は大きな問題となります。また、変形を制御するための事前対策には、解析ツールの利用が有効です。一方、光学解析ツールのみでは変形を考慮することができないため、構造解析と光学解析との連携は不可欠です。
本記事では、光学解析ツール(Ansys Zemax OpticStudio)と構造解析ツール(Ansys Mechanical)を連携させた光学レンズの構造・光学解析の事例をご紹介します。
光学解析と構造解析の連携方法
連携解析の概要を図1に示し、以下、簡単に手順を解説します。
- 1. 初期の光学解析をAnsys Zemax OpticStudioで実施して、レンズやミラーに作用する熱的条件(内部発熱、熱流束)を出力し、Ansys Mechanicalで読み込みます。
- 2. その後、熱構造解析をAnsys Mechanicalで実施して、レンズやミラーの温度分布や変形量を出力します。この際、Ansys Zemax OpticStudio向けのデータフォーマットを出力するために、Ansys社から提供されるエクステンション(プラグイン機能)をインストールします。
- 3. 最後に出力した熱変形データをAnsys Zemax OpticStudio側で取り込み、構造的および熱的要因に起因する微小変形が光学性能にどのような影響を与えるかを分析し、対策を施します。
光学設計者と機構設計者はこのサイクルを繰り返すことで、高い光学性能を保った競争力のある製品の開発を実現できます。また、費用や時間のかかる試作の前に机上検討で十分対策を行うことで、設計工数の短縮やコスト削減を図ることも可能です。
図1. レーザー加工用光学系での光学解析と構造解析の連携事例
光学解析から熱的条件を引き継いだ熱構造連成解析
Ansys Zemax OpticStudioからテキスト形式で熱流束や内部発熱データを引き継ぎ、メッシュが一致していない光学解析データから構造解析メッシュへ物理量を自動的にマッピングします(図2)。熱境界条件を伴う過渡解析を実施して時系列の温度分布を求め、その温度分布を熱荷重として、熱応力解析を行います。この解析により、レンズやミラーの時々刻々の温度や変形量が求まるため、求めた分布をZEMAX用データとして出力処理します。今回のサンプルにおいては節点数が約30万の4面体2次要素モデルに対して、4CPU並列にて熱伝導解析が11分、熱応力解析が15分と非常にリーズナブルな計算コストとなっています。Ansys Mechanicalユーザーは複雑な処理を行うことなく、光学解析との連携機能をご利用頂くことができます。本記事でご紹介する機能はAnsys Mechanicalのエントリー版であるProライセンスですべて実現されています。
図2. レンズ・ミラーの熱変形解析結果
構造的および熱的要因に起因する微小変形が光学性能に与える影響
Ansys Zemax OpticStudioのみを用いた理想条件における光学解析の場合、図3の右下に示す波面収差(理想波面と実波面とのズレ、隔たり具合)が確認でき、像面は1点に集光されていることがわかります。
図3. 熱的および構造的摂動を考慮しない光学解析結果
一方で、連携機能を用いてAnsys Mechanicalによって計算された熱的および構造的摂動を考慮した場合、図4の右下に示すように像面での波面はぼやけており、波長パターンが同心円状にはなっていないのが確認できます。今回のケースはあくまで一例に過ぎませんが、製品開発の現場において試作前にこうした性能低下の要因を分析して、しっかり対策を検討できることはCAEの大きな利点です。
図4. 熱的および構造的摂動を考慮した光学解析結果
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今回、連携事例を作成するにあたってはAnsys Optics代理店である合同会社LightBridge様にご協力を頂きました。事例構築へのご助言と素材資料をご提供頂き、厚く御礼申し上げます。