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[活用事例]マイクロCTによる3D積層造形品の幾何的精度の考察

分野
  • 3Dプリンティング、医工連携分野

複雑な形状をした金属積層造形品の幾何的精度をCADデータとの比較により調査

金属粉末のレーザ焼結による3Dプリンティング(laser powder bed fusion)は、自動車、航空など幅広い工業製品に活用されているほか、医療・歯科分野への応用も進められています。本事例は、慶應義塾大学理工学部 高野研究室にて、純チタンを用いた歯科補綴物を対象とし、積層造形品の幾何的精度をCADデータと比較した上で、疲労寿命予測を行った事例です。積層造形品のマイクロCT撮像データの解析にSimplewareソフトウェアが使用されました。

データのご提供
慶應義塾大学理工学部 高野研究室様

純チタン歯科クラスプの3D積層造形

クラスプは、患者自身が着脱を行うパーシャルデンチャ(部分入れ歯)を自然歯に固定して、離脱しないようにする部品であり、バネ性を有しています。図1に示すように、患者個人の歯の形状、寸法にあわせて設計されるテーラーメイド部品です。1日3回の着脱を10年間繰り返すことを想定し、104回の繰返し負荷を受けても適度な剛性を有することが求められます。パーシャルデンチャが離脱せず適度な剛性を有するために、図のアーム部分の寸法がCADデータ通りに造形できているか否かが重要です。図1は、3D積層造形機EOS M290と純チタン(commercially pure titanium grade 2)を用いて造形されました。

図1. 患者個別に設計される歯科補綴クラスプの純チタンを用いた3D積層造形品図1. 患者個別に設計される歯科補綴クラスプの純チタンを用いた3D積層造形品

クラスプの疲労寿命予測

図2に示すクラスプ専用の変位制御型の疲労試験機が開発されました。本装置では、アームの片側にのみ繰返し負荷を与えます。疲労寿命は、有限要素法による静的解析から得られた主応力、主ひずみを用い、Smith-Watson-Topperの式により予測する手法が開発されました。式中の係数には、積層造形したダンベル型引張試験片を用いた静的材料試験により取得した材料物性値により定められたパラメータと、図1の左側のクラスプに対する疲労試験データからキャリブレーションされたパラメータを用います。疲労寿命とストローク(1 Hz)の関係が図3に表されています。Smith-Watson-Topperの式による平均値の予想(実線)だけでなく、統計的な考察から得た95%区間が破線で描かれており、実験データはすべて95%区間の内側に入っています。また、キャリブレーションされたパラメータを図1の右側のクラスプに適用したところ、予測結果と疲労試験データの間には非常によい一致が得られ、予測手法の検証が行われました。

図2. クラスプ専用に開発された疲労試験機図2. クラスプ専用に開発された疲労試験機

図3. 片側のアームに繰返し負荷を与えた場合の疲労寿命図3. 片側のアームに繰返し負荷を与えた場合の疲労寿命

マイクロCT撮像による断面二次モーメントの計算

幾何的精度を検討するため、数理化し難い断面形状をしたアーム部に対して、断面積と断面二次モーメントを幾何的パラメータとして、CADデータと造形品の比較が行われました。Simplewareソフトウェアを用い、断層画像から2値化、立体再構築と座標系の調整を図4のように行った後、図5のように、片側のアームを3つの領域に分割し、各領域の形状を円弧で近似し、等間隔の断面を発生しました。断面上の点群は、自作プログラムによりSTLデータの三角形パッチとの交点を求めたものです。また、Simplewareソフトウェアで定義した点群(青色、黄色の点)から図中の局所座標系を定義し、自作プログラムにて図6の式を用いて断面積と断面二次モーメントが計算されました。

図4. 2値化画面およびCADデータと造形品のマイクロCT画像による立体モデルの座標系の調整画面図4. 2値化画面およびCADデータと造形品のマイクロCT画像による立体モデルの座標系の調整画面

図5. クラスプアーム部の断面および局所座標系の定義図5. クラスプアーム部の断面および局所座標系の定義

図6. 断面積と断面二次モーメントの計算手法図6. 断面積と断面二次モーメントの計算手法

結果と考察

図7には計算された断面二次モーメントが示されています。まず、CADデータよりも造形品の方がやや大きい値になっており、断面積も同様でしたが、左右アームともにCADデータよりもやや太めに造形されていたことがわかります。つまり、疲労寿命は長めになることが推察されます。右アームでは図の右側にいくにつれ、つまりアーム先端から根元に近づくにつれて、断面二次モーメントの値は右上がりに大きくなりますが、左アームでは破壊箇所となる根元付近の断面二次モーメントの値が小さいことがわかります。これでは左アームの疲労寿命は短くなると予想され、後の疲労試験でも確かめられました。図3の結果は右アームに負荷した場合でした。そこで、図8のように両アームに負荷を与えた場合の疲労寿命予測が行なわれました。有限要素解析のためには、SimplewareソフトウェアのデータをNastran形式でCOMSOL Multiphysicsに受け渡しました。造形品の疲労寿命は、CADデータに基づく予測の95%区間の内側にあり、予想通り、CADデータよりもやや長めになる結果となりました。破壊が予測されたのは、上述の考察の通り、左アームの根元近傍です。

断面二次モーメントが左アームの根元近傍では低くなっている箇所がありましたが、設計段階で断面二次モーメントの値を精査することによって、設計改良につながることが示されました。研究成果は、Dental Materials Journal(Vol. 43, Issue 5, pp. 656-666, 2024)に公開されています。

図7. CADデータおよび造形品の断面二次モーメントの比較(左アーム:左図、右アーム:右図)図7. CADデータおよび造形品の断面二次モーメントの比較(左アーム:左図、右アーム:右図)

図8. 両アームに負荷した場合のCADデータおよび造形品の疲労寿命の比較図8. 両アームに負荷した場合のCADデータおよび造形品の疲労寿命の比較

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