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ノウハウ不要!樹脂の複雑な材料特性を簡単にフィッティング 〜 材料同定ツールと高精度ユーザーサブルーチンの活用事例 〜

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: 技術情報
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:Ansys MCalibration / Ansys PolyUMod / Ansys LS-DYNA

樹脂材やゴム材の高精度予測を可能にする、材料同定ツール「Ansys MCalibration」と高精度ユーザーサブルーチン「Ansys PolyUMod」との組み合わせ利用をご紹介した前稿に続き、本稿ではノウハウがなくても、Ansys MCalibrationを用いることで、実際の材料試験データから簡単・短時間に高精度な材料同定ができる手順をご紹介します。フィッティング対象の材料には、引張と圧縮で、それぞれひずみ速度依存をもつ繊維強化樹脂を取り上げます。

Ansys MCalibrationによる材料同定の一例

図1にフィッティング対象の材料試験データを示します。繊維強化されたPA66材の引張試験および圧縮試験で、それぞれ複数のひずみ速度の試験結果です。この複数の材料試験データに合うような1つの材料モデルのパラメータ同定を行います。

[図1] PA66材の試験結果[図1] PA66材の試験結果

Ansys MCalibrationでパラメータ同定可能な材料モデルを図2に示します。[LS-DYNA Models]内の材料モデルは、パラメータ同定に高速な内製ソルバーが使用できる材料モデルです。Ansys LS-DYNAのライセンスを使わずに、パラメータ同定が可能です。[LS-DYNA Models]以外の材料モデルを利用する場合は、[Template]をご利用ください。Ansys LS-DYNAライセンスが必要ですが、Ansys LS-DYNA ソルバーを呼び出してパラメータフィッティングが可能です。

[図2] 選択できる材料モデル(Ansys LS-DYNA)の一覧[図2] 選択できる材料モデル(Ansys LS-DYNA)の一覧

@材料モデルの選択

Ansys LS-DYNA R15から対応したThree-Networkモデルと言われる[LSDYNA-TNM]を選択します。Ansys MCalibrationでは読み込んだ試験データに応じて、初期値の自動設定やフィッティングすべきパラメータを取捨選択するので、材料モデルに詳しくない方や最適化初心者の方でも簡単にパラメータ同定が可能です。

A最適化計算の初回試行

図3に[Run Once]ボタンをクリックして、最適化計算を1回実施した状態を示します。グラフ右下に記載されている[Error (NMAD)]は全体の誤差率を示します。38%とまだ誤差が大きい状態です。
図4に赤字で示す11個のパラメータが今回フィッティングするパラメータで、これらは実験データに合わせてMCalibrationが自動選択します。例えば、今回は等温の試験データなので、温度依存性を示すthetaHやNといったパラメータはフィッティングから除外されています。Three-Networkモデルではその名の通り3つの超弾性バネ構造A、B、C計3つを並列に繋いだ材料構成則により、樹脂の複雑な挙動を表現しており、3つの真応力の総和を取っています。

muA、muBi、muBf、muCは各構造のせん断弾性率を示し、ネットワークBでの末尾のiとfはそれぞれ初期、最終を意味します。tauHAとtauHBは構造AとBの流れ抵抗、mAとmBは構造AとBの応力指数、betaは構造Bでのせん断弾性率の進化速度、aは構造Aでの流れの圧力依存性を表します。また、lambLは各構造に共通するロックストレッチ(ポリマー鎖ネットワークが固定される伸び)となります[1]

[図3] 最適化計算を1回実施した状態[図3] 最適化計算を1回実施した状態

[図4] 最適化計算を1回実施した際の材料パラメータ[図4] 最適化計算を1回実施した際の材料パラメータ

B最適化計算の本番実行

[Run Once]による結果は、短時間で評価できるリトマス試験紙のように、材料モデルが持つ表現性能、つまり、実験データをどの程度再現できそうかを探る役割を持ちます。図3において、誤差は大きいですが応力ひずみのループを表現できると判断し、このまま最適化処理の本番に移行します。
最適化処理は[Run Calibration]ボタンをクリックし、最適化手法を選択します。基本的には2種類あるautomatic法のいずれかで十分な精度でフィッティングできます。指定する内容は利用するCPU数と最適化計算の時間、最大評価数(反復回数)だけなので、最適化手法に詳しくない方でもすぐに利用できます。今回は[Quick automatic method]を選択し、最大3分の最適化処理を回してみます。

[図5] Quick automatic methodによる最適化設定[図5] Quick automatic methodによる最適化設定

C最適化計算結果の確認

図6にQuick automatic methodによる最適化結果を示します。2.5分の探索で評価回数が412回、誤差率が11%まで減少しています。材料パラメータ同定の初心者の方でも、少ないオペレーションと短い試行時間で、試験の特性をよく再現している材料パラメータを入手できます。

[図6] Quick automatic methodによるフィッティング[図6] Quick automatic methodによるフィッティング

表1に各パラメータの初期値と最終値を比較します。ネットワーク構造Aの各値は増加傾向にあり、これは荷重反転時の剛性を高めることに寄与しています。一方、ネットワーク構造BやCの各値は低下傾向にあり、降伏応力そのものやその後の硬化挙動、また荷重反転後における降伏後の硬化挙動を緩めることに寄与しています。

[表1] 初期値とフィッティング終了時の材料パラメータ比較[表1] 初期値とフィッティング終了時の材料パラメータ比較

D最適計算結果の反映

Ansys LS-DYNAフォーマットで出力すると、Keywordファイル形式のテキストが書き出されるので対象となるモデルファイルに材料データとして取り込むことで、計算に利用可能です。

さいごに

今回ご紹介したケースはあくまで一例に過ぎませんが、Ansys MCalibrationとAnsys PolyUModの組み合わせは、これまで予測精度が壁となりCAEの適用が難しかった樹脂やゴムに対しても、設計初期段階からの予実差検討への活用が期待できます。
JSOLではAnsys MCalibrationやAnsys PolyUModを用いたベンチマークや無償トライアルも受け付けております。

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参考文献
  • [1] An Advanced Thermomechanical Constitutive Model for UHMWPE
    J.S.Bergstrom, J.E.Bischoff
    INTERNATIONAL JOURNAL OF STRUCTURAL CHANGES IN SOLIDS - Mechanics and Applications
    Volume 2, Number 1, April 2010, pp. 31-39

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