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機械学習ツールODYSSEEによる走行姿勢を考慮した傷害値予測

カテゴリー
: 技術情報
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ODYSSEE / LS-DYNA / ADAMS

自動車業界は「CASE(ケース)」、すなわちConnected(コネクテッド)・Autonomous(自動運転)・Shared & Services(カーシェアリングとサービス/シェアリング)・Electric(電気自動車)領域の技術革新という、100年に一度の大変革の時代を迎えています。また、解析精度の向上や計算の高速化にともなってCAEに求められるニーズも変化しており、JNCAPなどの乗員の安全評価を行うアセスメントプログラムにおいてもデジタル認証を進める動きが活発化しています。

自動運転や電動化技術が進歩し、自動運転レベル4(一定条件下ですべての運転操作を自動化、緊急時もシステムが応答)が実現すれば、走行中の乗員の姿勢はこれまでになく自由なものになります。つまり、CASEの技術革新により、従来の衝突解析に加えて、座席シート配置や「走行による乗員姿勢」を考慮した安全評価が必要となります。今回のエンジニアレポートでは、機械学習ツールODYSSEEの次数低減モデル(Reduced Order Model/ROM)を用いた、走行解析と衝突解析の連携事例をご紹介します。

ROMによる走行解析と衝突解析の連携

走行解析と衝突解析は、適した解法が異なることから、それぞれのシミュレーションに異なるソフトウェアを使用することが一般的です。走行解析では各種機構による車両や乗員の挙動を、運動方程式を解きながら求めます。一方、衝突解析では、接触に代表されるような強い非線形性を非常に小さい時間増分で時々刻々と求めていく解法を用います。本事例では、ROMを用いた走行解析と衝突解析を連携し、FEMを基準として解析時間と予測精度、HIC値への影響を確認します。

図1に走行解析と衝突解析の連携フローを示します。本検討ではレーンチェンジ直後の対向車との衝突を想定しており、走行条件による衝突直前の車両速度や進行方向、乗員姿勢を衝突解析への入力としました。

図1.ROMによる走行解析と衝突解析の連携フロー 図1.ROMによる走行解析と衝突解析の連携フロー

走行解析のROM化

DOE(実験計画法)計算として、ADAMS*1を用いて走行速度、操舵角を変更した20ケースの解析を行いました。ROMの学習には6ケースの計算結果を用いており、学習および予測に要した時間は1秒未満でした。また、学習に含まれない14ケースを用いたクロスバリデーションでの平均予測精度は98.97%でした。ダミー移動量および車体速度について、ODYSSEEのROMにより得られた予測とADAMSでの計算により得られた結果の比較を以下に示します。

図2.ダミー横方向移動量(ODYSSEEとADAMSの比較) 図2.ダミー横方向移動量(ODYSSEEとADAMSの比較)

図3.車体速度(ODYSSEEとADAMSの比較) 図3.車体速度(ODYSSEEとADAMSの比較)

衝突解析のROM化

DOE計算として、LS-DYNAを用いて衝突速度、侵入角度、乗員姿勢(頭部の位置)を変更した27ケースの解析を行いました。ROMの学習には9ケースの計算を用いており、学習および予測に要した時間は1秒未満でした。学習に含まれない18ケースを用いたクロスバリデーションでの平均予測精度は96.01%でした。ダミーの頭部加速度および胸たわみについて、ODYSSEEのROMにより得られた予測とLS-DYNAで計算により得られた結果の比較を以下に示します。

図4.頭部加速度(ODYSSEEとLS-DYNA比較) 図4.頭部加速度(ODYSSEEとLS-DYNA比較)

図5.胸たわみ(ODYSSEEとLS-DYNAの比較) 図5.胸たわみ(ODYSSEEとLS-DYNAの比較)

走行解析ROMと衝突解析ROMの連携

任意の車体速度および操舵角から頭部加速度と胸たわみを予測する計算について、走行解析ROMと衝突解析ROM(ODYSSEE)を連携した場合と、ソルバー(ADAMS、LS-DYNA)を連携した場合の結果と比較し、解析時間と予測精度を確認しました。

予測は、2パターンの車体速度および操舵角で実施しました。ROMによる予測に要した時間と各ソルバーでの実行の比較結果を表1に示します。

表1. ROMと各ソルバーの計算時間表1. ROMと各ソルバーの計算時間

走行解析は走行速度48km/h、操舵角175°で行いました。以下のグラフはODYSSEEのROMによる予測結果と、AMADSによる計算結果の比較です。3つのカーブの平均予測精度は99.8%でした。

図6.走行解析における結果比較(ODYSSEEとADAMSの比較)図6.走行解析における結果比較(ODYSSEEとADAMSの比較)

次に、ダミー移動量(Y方向)、車体速度(X、Y方向)から得られた応答波形に基づいて任意時刻における値を抽出し、衝突解析の初期条件を決定しました。得られた条件を用いて、ODYSSEEのROMで予測した結果、およびLS-DYNAで計算した結果の比較を次に示します。2つのカーブの平均予測精度は90%以上でした。

図7.衝突解析における結果比較(ODYSSEEとLS-DYNAの比較)図7.衝突解析における結果比較(ODYSSEEとLS-DYNAの比較)

最後に、LS-DYNAによる計算において走行による乗員姿勢を考慮しなかった場合との比較を以下に示します。ダミー移動量を考慮しないケースでは、考慮した場合に比べて胸たわみが小さく、頭部加速度のピーク値が大きい傾向にあることが分かります。

図8.ダミーの姿勢変更を考慮しない場合との比較図8.ダミーの姿勢変更を考慮しない場合との比較

ROMを用いた走行解析と衝突解析を連携し、解析時間、予測精度、HIC値への影響をFEMの解析結果と比較した結果、以下のことがわかりました。

  • ● ODYSSEEを用いてROM化することで、計算時間は1秒以下となり、FEに比べて大幅に計算時間を短縮
  • ● 走行および衝突ROM単体での予測精度(決定係数)が95%以上であることを確認
  • ● 走行および衝突ROMを連携した場合の予測精度(決定係数)が90%以上であることを確認
  • ● 走行によるダミー姿勢を考慮することで、ROMにおいても頭部傷害値(HIC)への影響があることを確認

ROM化することで、複雑な設定変更やエラー等に悩まされることなく、解析専任者以外でもパラメータ変更結果を容易に得ることができます。ご興味をお持ちの方はこちらからお問い合わせください。

*1...ADAMSによる走行解析は株式会社 中央図研様よりデータ提供頂きました。

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