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CAE Technical Library エンジニアレポート - CAE技術情報ライブラリ

ゼロからはじめるバッテリーシミュレーション
〜実験からデータ処理、解析結果との比較まで〜
第1回

カテゴリー
: 技術情報
関連製品
Ansys LS-DYNA

電気自動車の普及とともに、車載電池の安全性を示すことが必要となり、車載電池の性能評価や安全性評価の試験の需要が高まっています。車載電池の安全性の規格は、各国・地域ごとに定められており、衝撃時の短絡による白煙や発火の有無などを評価しています。しかし、試験ではケースの外側の温度や変形状態は確認できる一方で、セル内部の発熱挙動や変形状態を確認することが困難です。そこで、JSOLでは、試験の状態をシミュレーションで予測し、セル内部で高熱になる箇所、局所的に変形する箇所を特定することで、設計に活かせるデータを取得する技術の開発を進めています。

今回のエンジニアレポートでは、JSOLが進めるバッテリー解析技術の一例として、車載用捲回形状バッテリーを用いてHPPC(Hybrid Pulse Power Characterization)試験を行い、Ansys LS-DYNAの等価回路モデルパラメータを同定、1C放電試験の電圧および発熱を表現可能な解析モデルの開発を行い、1C放電試験で計測した電圧および温度を比較した事例を紹介します。

バッテリー技術開発プロセス

本技術開発におけるプロセスは大きく分けて3つのフェーズで構成されております。

1. 充放電時の発熱特性の技術開発
−充放電時における、発熱特性を予測可能なバッテリーセルモデルの開発

2. 圧壊時における変形挙動の技術開発
−圧壊時におけるケースおよびセル内部の変形を高精度に予測するための、短絡現象を予測可能なバッテリーセルモデルの開発

3. 圧壊時の通電状態における短絡発生による発熱を予測する技術開発
−1. 2. で開発したバッテリーセルモデルの知見をもとに、通電状態で圧壊させた時の、変形および発熱現象を予測可能なバッテリーセルモデルの開発

「ゼロから始めるバッテリーシミュレーション」では、1.充放電時の発熱特性の技術開発を取り上げ、「充放電時の発熱特性を予測する解析モデルの開発」をテーマに、全3回(予定)連載でお届けします。

第1回となる今回は、解析モデル開発の準備段階にあたる実験をご紹介します。本技術開発では、車載用捲回形状バッテリーの1C放電実験とHPPC試験を行いました。

1C放電試験

1C CC放電試験ではLIB(Lithium Ion Battery/リチウムイオンバッテリー)を用いて一定の電流(CC/Constant Current)による放電を行い、電圧、電流、温度履歴と温度分布を取得しました。図1の1つめのグラフは電圧および電流の履歴であり、この実験では57分付近で電流がゼロになっていることがわかります。2つめのグラフは温度変化を表しており、青色が熱電対、オレンジ色がサーモカメラの温度履歴です。温度履歴のグラフとサーモカメラによるバッテリーセルの表面の温度分布の結果(図2)から、全体に均一に温度が上昇していることがわかります。

図1. 1C(28A)でのLIB(Lithium Ion Battery)の放電曲線と温度変化(実測データ) 図2. サーモカメラによる温度分布
(株式会社東レリサーチセンター様ご提供)

0 min(4.2V) 0 min(4.2V)

30min(3.7V) 30min(3.7V)

60min(2.5V) 60min(2.5V)

図2. サーモカメラによる温度分布
(株式会社東レリサーチセンター様ご提供)

Hybrid Pulse Power Characterization(HPPC)試験

続いて、HPPC試験データを取得します。HPPC試験は電気自動車のバッテリーの性能または寿命挙動を測るための試験です。本技術開発では、シミュレーションに必要なインプットデータを作成するために実施しました。試験で用いた電流履歴は図3の通りです。1つめの赤枠部は100%充電時1分間(=1区間)のデータ、それ以降は10%刻みの充電率でデータを取得しました。赤枠内の電流履歴を拡大したものが図4です。インプットデータの作成には、各充電率の1分までの電圧履歴を使用します。

図3. HPPC試験初期状態作成から本試験までの電流履歴 図3. HPPC試験初期状態作成から本試験までの
電流履歴

図4. HPPC試験一区間分の電流履歴 図4. HPPC試験一区間分の電流履歴

図5は100%充電時におけるHPPC試験で得られた電圧履歴です。SOCとはState of Charge、充電率のことです。電流を流し始める前の4.19V付近の値を開放電圧とよびます。電圧は、開放電圧から急激に降下したのち、30秒かけてさらに徐々に降下していき、電流を止めると急激に上昇します。30秒以降では電流値は0Aですが電圧は上昇し続けます。
図6はSOCごとの電圧履歴です。開放電圧が異なるだけで、全体的に電圧履歴の傾向は同じです。SOC 20%から10%にかけては大きく電圧が離れており、波形も異なっているのがわかります。

図5. 電圧履歴[SOC : 100%] 図5. 電圧履歴[SOC : 100%]

図6. 電圧履歴[SOC : 100-10%] 図6. 電圧履歴[SOC : 100-10%]

「ゼロから始めるバッテリーシミュレーション」第1回は、解析モデル開発の準備段階として、HPPC試験による充電率ごとの電圧履歴の取得までをご説明しました。次回は、得られたデータから等価回路パラメータを同定し、シミュレーションモデルを構築していきます。

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