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2008.11.04

ホットスタンプ解析機能

カテゴリー
: 生産技術解析
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JSTAMP

車体の軽量化と高強度化を両立させるために、近年高張力鋼板の使用が大きな注目を集めています。しかしよく知られているように高張力鋼板はその優れた機械的特性の反面、プレス成形の難易度が非常に高いという問題があります。プレス成形性の限界によって形状設計の自由度が損なわれるというのは、プレス技術者としてはなんとしても避けたい課題のひとつです。そこで高張力鋼板と同程度、またはそれ以上の超高強度鋼板を成形する手法としてホットスタンプが用いられています。ホットスタンプの成形処理を簡単にまとめると以下のようになるでしょう。

  • 鋼をオーステナイト組織への変態温度(723℃)以上に加熱する
  • 高温状態のままプレス成形を行なう
  • 成形下死点で保持したままマルテンサイト変態が生じるまで冷却し、焼入れ(ダイクエンチ)を行なう
  • 材料を空気中で自然冷却する

ホットスタンプは材料内部の熱伝導、材料とツール間の熱伝導、空気中への熱伝達、輻射、塑性仕事による発熱、相転移をともなう複雑な物理現象が関係している加工方法のため、望ましい強度を有する材料を得るための加工条件を決定する手段として、シミュレーションが重要な役割を果たします。

JSTAMP/NVのホットスタンプ機能

JSTAMP/NV Version 2.3に実装されたホットスタンプ解析の概要を示します。図1にホットスタンプシミュレーションの工程と、比較のため通常のプレス成形シミュレーションの工程を示します。図に示されているように、ブランクとツールが接触している状態(BH:ブランクホールド, FM:フォーミング, QC:クエンチング)および型から降ろされて自然冷却される工程(CL:クーリング)において非定常熱伝導解析が行なわれます。ホットスタンプの特徴的な工程として、クエンチング工程(QC:型冷却)とエアクーリング工程(CL:空気冷却)があります。これらの工程は従来の工程と同様にJSTAMPの「工程フロー」パネルで定義できます。

図1 通常のプレス成形シミュレーションとホットスタンプシミュレーションの工程フローの比較 図1 通常のプレス成形シミュレーションとホットスタンプシミュレーションの工程フローの比較

図2(a)にホットスタンプの工程フローパネルの例を示します。この中でBH_H、FM_H、QC、CLが熱伝導解析を含む工程となります。各工程ボタンをクリックすると図2(b)のような工程設定ダイアログが表示されます。この中には図中の赤印で示す、熱伝導解析のために必要な入力項目が増設されました。これらにより初期温度、ブランクとツールとの接触熱伝導条件、輻射条件などを設定します。また熱伝導解析は陰解法FEMにより計算されるため、熱伝導計算の荷重ステップなどを設定するコントロールデータもここで入力します。

陽解法FEMによる加工シミュレーションでは計算時間短縮のため、各工程の加工時間を早めて計算するのが普通です。このため、熱伝導や熱伝達など時間の経過とともに温度変化を生じる現象に関しては、実時間でブランクから出入りする熱量と同等の熱量が解析時間内に出入りするように、熱伝導係数や熱伝達係数をスケーリングする必要があります。これもまた図に示す「熱コントロール」タブ内で行ないます。

図2 ホットスタンプの工程フローパネルと工程設定ダイアログの例 図2 ホットスタンプの工程フローパネルと工程設定ダイアログの例

熱伝導解析用シェル要素

薄板の熱伝導では、板が型と接する上面あるいは下面からの熱伝導を考慮する必要がありますが、通常のシェル要素では熱伝導面を上下面で区別することができません。そこで上下面からの熱の出入りを計算できる熱伝導解析用シェル要素が用意されています。図3に熱伝導解析用シェル要素のイメージを示します。熱伝導解析用シェル要素は上下面に内部節点をもち、各面からの熱の出入りを計算します。この要素は熱伝導解析が必要な工程において通常のシェル要素から自動的に変換されるため、ユーザーが特別な定義をする必要はありません。また応力、ひずみの計算は通常のシェル要素と同様に行なわれます。

図3 熱伝導解析用シェル要素のイメージ 図3 熱伝導解析用シェル要素のイメージ

解析例

国際会議Numisheet 2008のベンチマークテストモデル3(BM3)を用いてホットスタンプ解析を実施しました。モデル形状とブランク、ツールの初期温度を図4に示します。また成形後のブランク表面の温度分布と連続冷却変態(CCT)線図=Continuous Cooling Transformation (CCT) diagram評価画面を図5に示します。図6に示すCCT線図上では、モデルの任意位置での焼入れ状態をVickers硬度で予測することができます。この解析例ではVickers硬度が464と推定され、実験結果とよく一致しました。

図4 Numisheet 2008ホットスタンプベンチマークテストモデル(BM3) 図4 Numisheet 2008ホットスタンプベンチマークテストモデル(BM3)

図5 解析結果(成形後のブランク上面の温度分布)とCCT評価画面 図5 解析結果(成形後のブランク上面の温度分布)とCCT評価画面

図6 CCT線図によるVickers硬度の推定 図6 CCT線図によるVickers硬度の推定

まとめ

このようにJSTAMP/NVを用いたホットスタンプのシミュレーションによって成形で得られる材料の強度を推定することが可能となりました。今後は実験によるデータの充実とあわせて様々な用途にホットスタンプ機能が活用されていくものと思われます。このホットスタンプ機能が実装されたJSTAMP/NV Version 2.3は2009年2月のリリースを予定しています。

より高機能な材料開発と成形技術の進展は今後も休むことなく継続していくことでしょう。JSTAMP/NVはそのような最新の成形技術をいちはやく取り入れながら生産現場で真に役立つツールとして進化を続けていきます。

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