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AIを活用したCAEソリューション:ODYSSEE & LS-DYNA

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:技術情報 / 機能紹介
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LS-DYNA / ODYSSEE

はじめに

LS-DYNAをはじめとしたCAE(Computer-Aided Engineering/計算機援用工学)は、派手なアニメーションが注目されがちですが、実際は地道な行程を積み上げるもので、
・どのような連立方程式を作るか
・連立方程式をどのように解くか
・連立方程式の解をどのように表示するか
という、3つの作業をコンピュータで行っています。今回ご紹介するソリューションは「連立方程式をどのように解くか」にAIを活用するソリューションです。

CAD一体型CAEソフトウェアAnsys Discovery

コンピュータによるデータ解析技術の活用により、設計対象に対する知見不足を補うことが可能となります。CAEの分野ではコンピュータによるデータ解析技術の自動化はほぼ確立されているため、@解析の準備(エンジニア)〜A自動データ解析(コンピュータ)〜B自動データ解析結果を活用して詳細設計を実施(エンジニア)、というサイクルを繰り返して設計を行うことができます。

CAE計算モデルの大規模化

LS-DYNAは主に衝突安全CAEと呼ばれる分野で利用されており、自動車衝突事故のような瞬間的に大きく変形かつ壊れるような現象を対象としています。衝突安全CAEの分野では、2000年以降、複雑な衝突現象の精緻な再現が注目されており、近年ではステアリング機構やタイヤのパンクなども再現されています。精緻化にともない計算モデルは大規模化しており、近年の大手自動車メーカーで一般的に使われる計算モデルは1,000万要素程度と、20年前の50倍の大きさになっています。モデルの要素数は先の連立方程式の変数に関連しますので、現在の衝突安全CAEでは「1,000万個の変数を持つ連立方程式」を解くことになります。ハードウェアの進化やアルゴリズムの改良による計算の高速化/工夫により、1000万要素モデルの計算時間は1〜2日程度というのが現在の状況です。

ODYSSEEによる乗員安全解析の高速化

ODYSSEEは、フランスのCADLM社で開発された機械学習/データマイニングプラットフォームです。なかでも、Reduced Order Model(ROM)と呼ばれる解析モデルの高速化技術がCAEの分野では注目されており、事前の解析結果を教師データとして準備することで、一般的な機械学習と比べはるかに少ない数のデータ(10〜100程度)で精度の高い学習を実施することが可能となります。

乗員安全解析は、自動車衝突事故において乗員の安全を保護するための装置(エアバッグやシートベルト)の設計を評価します。ここでは、衝突時の速度/エアバック展開強度/シートベルトの拘束力を変化させたときに乗員の頭部に発生する加速度を推定した例を用いて、ODYSSEEのROM技術の有用性を示します。なお、頭部加速度は後述するHIC(Head Injury Criterion/頭部損傷基準値)の算出にも用いられ、乗員の頭部ダメージの定量評価に用いることができます。

頭部加速度推定の事前準備として、衝突速度・エアバッグ展開速度・シートベルト拘束力の3つの設計パラメータを変化させた10個のパラメータセットの解析結果を用いてROMを作成します。各パラメータセットの解析を行う教師データの準備には約15時間かかかりますが、その後の処理は非常に高速です。ROMの作成は約30秒、ROMを用いた新しいパラメータセットによる加速度の推定は約1分で行うことができます。

教師データ作成には用いていない新たな18個のデータセットに対して、LS-DYNAの解析による頭部加速度と、ODYSSEEのROMにより推定した頭部加速度を比較しました。その誤差は0.8〜3.8%と、非常に高精度に推定が可能です。かつ、ROMによる推定時間の高速化は90倍(=1.5時間/1分)であり、推定精度を落とすことなく大幅な高速化が実現できています。

LS-DYNAの解析とODYSSEEのROMによる推定の比較
上:推定精度の最良ケース、下:最悪ケース
(頭部加速度のグラフ 水色=LS-DYNAの解析結果、オレンジ色=ODYSSEEによる推定結果)
LS-DYNAの解析とODYSSEEのROMによる推定の比較
上:推定精度の最良ケース、下:最悪ケース
(頭部加速度のグラフ 水色=LS-DYNAの解析結果、オレンジ色=ODYSSEEによる推定結果)

この動画からもお分かりいただけるように、最悪ケースにおいても後半以外は非常に良い精度で推定されています。また、ODYSSEEの特徴的な機能の1つであるアニメーション予測においても、LS-DYNAの解析とほぼ同等の結果が得られているのがわかります。

新しい時代のCAE:人とコンピュータによる共創モデル構築に向けて

ODYSSEEのROMによるLS-DYNA解析の高速化は、解析作業の効率化にとどまらず、これからの自動車設計におけるCAE活用のゲームチェンジャーとなる可能性を秘めています。下図はODYSSEEによって作成された先の乗員安全解析のROMを、モンテカルロ法(設計パラメータの組み合わせを総当たりで評価する手法)で評価した結果です。各設計パラメータの組み合わせを1つの点で表し、10000点の評価結果を示しています。

データ圧縮(高速転送、大容量運用・保存)

点の色は、頭部へのダメージを表すHICという評価指標値の値に基づいています。HICは小さければ小さいほど、頭部へのダメージが小さく、世界中のほとんどの法律でHICは1000以下にとなるようにと規定されています。ODYSSEEのROMによる10000点の評価に要する時間はデスクトップPCで20分程度です。同様の結果をLS-DYNAのみで取得するには625日(=1.5時間×10000ケース)必要になるため、既存の手法では得ることのできなかった結果と言えます。

この図を活用することにより、いままではベテランのエンジニアが定性的にしか理解できていなかった設計パラメータとHICとの関係を、だれでも定量的に把握することが可能です。

たとえば、この図をエアバック展開強度に注目してみると、

・エアバッグの開く強さを基準より大きくすればするほど、HICは大きくなる(頭部へのダメージは大きくなる)

ということを感覚的につかむことができます。
シートベルト拘束力に注目すると、

・拘束力は1.4倍を上限として、頭部ダメージへの影響は小さく、1.4倍以上にするメリットは少ない
・エアバッグ展開強度が1倍の場合、シートベルト拘束力を1.25倍程度上げても効果がない

といった定量的な現象理解が可能です。

これは、コンピュータによるデータ解析技術を活用することで、設計対象に対する知見が少ないエンジニアでもベテランエンジニア以上の設計が可能となることを示唆しています。CAEの分野ではコンピュータによるデータ解析技術の自動化は、ほぼ確立できていますので

1. 設計に必要な解析の事前準備(エンジニア)
2. 夜間に自動データ解析(コンピュータ)
3. 翌日、自動データ解析結果を活用し、詳細設計を実施(エンジニア)

といったサイクルを繰り返して設計を行うことが可能となります。

このように、人とコンピュータがそれぞれ得意な分野を分担しより良い設計を行う「人とコンピュータの共創」というアイデアは10年以上前から大学等では提案されていましたが、解析時間などの関係で実際の設計現場では現実的ではありませんでした。しかし、ODYSSEEのROM技術により既存の解析の大幅な高速化が可能になったことで、今後はこのような設計手法の活用がより加速していくものと考えられます。

JSOLでは、自動車設計におけるCAE活用のパラダイムシフトを起こすべく、ODYSSEEとLS-DYNAを活用した新しい設計手法を提案しております。ご興味のある方はこちらからお問い合わせください。

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