
CAE Technical Library 橘サイバー研究室 - CAE技術情報ライブラリ
vol.09クマ蝉と固有値の逆問題
2008年11月17日
東京から父の転勤で大阪にくると、そこは雪国ならぬ、くまゼミの国?であった。
「ジャン公」と呼んでいた。夏にシャーシャーシャーとあっちでもこっちでも鳴き競う。しかし、うるさい割にはあまり悪い印象はない。
いやなのは法師蝉だ。ツクツクボーシと鳴きだすと、夏休みの宿題を済ませとツツカレタ小学校時代の悪夢を呼び起こす。(ちなみに東京ではオーシン・ツクツクと東京弁で鳴く)
いずれも10cmにも満たないのに、よくもあのように大きな音をだせるものだ。うまく胸で共鳴させているからであろう。ドミンゴ、カレラス、パバロッチの3大テノール歌手も声の増幅率ではとてもかなうまい。
ところで、地震による建物の被害はこの共鳴(この場合は共振)と大いに関係している。地震の波動に含まれている顕著な周期(卓越周期)が建物の1次固有周期と運悪く共振すると被害が甚大となる。
設計者は当然、地震との共振を避けたい。
都合のよいことに、設計で用いる地震波形は、El Centro や Taft などいくつかに限られているが、それらは共通して1.3秒前後に空白域がある。もし建物の固有周期をその谷間を狙って調整すれば共振が避けられて(かなりインチキ臭いが)安上がりの設計ができる。
例えば、設計した建物の1次固有周期が1.1秒であったとする。1階の柱の剛性を少し小さくすることにより1.3秒に伸ばしたい。どの程度、剛性を下げればよいのか?
こうした問題はそれほど難しくはない。柱の剛性を少しずつ小さくして繰り返し修正していけば済むことである。しかし、こうしたやり方は、あまりエレガントではない。なにか公式のようなもので一発に低減すべき剛性を決められないだろうか。
この疑問に答えたのが脚注の論文である。
エレガントさを求めたこの公式も意外な展開があった。建物を連結して振動を抑制する際に有用であることや、襲ってくる地震波を5秒程度早く捉えて、その卓越周期から建物の固有周期を少しずらすといったフィードフォワード制震システムなどにも利用できることが分かったからだ。
手の中で 身震わせ鳴く 法師蝉
- 脚注)
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- 橘英三郎, "離散系の固有周期を調整するための2つの公式", 日本建築学会構造系論文報告集, No.356, pp.58-65, 1986
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