そー、あれは確かフランス映画だった。
子供がスポイトで机に水滴をポトンとたらす。そして「一滴に一滴を足すと・・・・」とつぶやきながら、さらに一滴をその上にたらして「一滴」とつぶやく。
1+1=1?と、ちらっと問いかけるあたり、フランス映画らしい。しかし、ここで「1とは何か」などを議論するつもりはない。「1は1だ!」で一蹴されるだけだ。
ところで20歳を過ぎると成人となる。だからと言って19歳と364日を過ぎた晩に天地鳴動し、さなぎから脱皮して成人になるわけではない。単なる便宜的なきまりである。
とかく、ものの区切りの数値は、はなはだ根拠に乏しい。ここでは「大きい」とか「小さい」といった定義のあいまいな言葉で書かれたルールに基づく、ファジィ制御について、ちょっとだけ紹介したい。(ちなみにファジィの反対はクリスプ)
建物の揺れを制御するとき「速度と逆向きに制御力を与えれば良い、以上終わり」だけでは身も蓋もない。もし、速度センサー以外に加速度センサーも設置されているなら、少しは賢くなる。
<今、揺れの速度は右向きで大きいが加速度は左向きを示しており減速しつつある>間もなく止まり、左向きに揺れだすはず。 だから <制御力は右向きにかけるが、幾分小さめに抑えておこう>。
また、<今、揺れの速度は一応右向きであるが値は小さく、加速度は大きく、左向きである>。 間もなく速度は左向きとなるはず。 だから <制御力は今の動きと同じ右向きにかけておこう>。
少しややこしいのでこの部分は2度繰り返して読んでいただきたい。
これはファジィ制御ルールの一例を荒っぽく言ったものだ。
<大きい>、<小さい>と言ってもその値は人それぞれで異なる。その意見分布の図(平均値を中心とした3角形分布などが用いられる)をmembership functionという。
また、大中小に正負をつけて負大、負中、負小、零、正小、正中、正大 の順にそれらの分布図を並べたものをFuzzy Classes などという。これらを用いて簡単な演算で制御力は決定される。
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[図1] ビルの地震による揺れ
ところで、ビルは、たとえば5階で右に揺れ、10階では左に揺れている場合もある。又、制御力が決まっても作動するまでの時間がかかる。他の制御法との比較も気になるところだ。図1は瞬時最適制御との比較で[1]、作動遅れによる悪影響も、まあまあの線で抑えられている。
共著者であり、いつもゼミに遅刻してきたファジィ人間のベルナルド君は、今はエクアドルの副大臣である。このファジィ制御の実験の途中に、ジョギングの時間だからと断固として抜け出したクリスプ人間のT君は現在、英国大使館勤務。その1年後輩で、抜け出された後をフォローしていたM君は今、奈良女子大の准教授だ。適材適所とはこのことかな?
- [1] Eizaburo Tachibana, Yutaka Inoue and Bernardo Creamer, "Fuzzy theory for the active control of the dynamic response in building", Microcomputers in Civil Engineering, Vol.7, (1992), pp.179-189 (Elsevier Science Pub.)