アインシュタインが何と言おうと、我々機械・建設系は陰険なニュートンの世話にならざるを得ない。(いかに彼が陰険だったかについては省略する)
ところで、ニュートン力学は現実の工学の問題において、かなり「無力」である。荷重について考えてみよう。荷重の分布は、実際は非常に複雑である。それをエイヤ!と節点にかかる集中荷重や区分的な等分布荷重などに単純化する。その際に、置き換えられた集中荷重もしくは、等分布荷重の「合力」があらかじめ分かっている荷重の合力(場合によっては合モーメントも)と等しくなるように置き換えられる。
果たして、こんな勝手な単純化をしても良いのだろうか?私の想像では、ニュートンはこの質問に対して多分こう答えるだろう。
「置き換えられた集中荷重や等分布荷重に対する答えとしては責任を持つ。しかし、置き換えられる前の真の荷重に対する答えとして正しいかどうかは私の知ったことではない」 荷重の置換や単純化については、彼の著書である「プリンキピア」でも実につれない。デカルト風の定義からはじまる演繹手法にはあいまいさの入る余地はあまりない。
そして、これに答えたのがサン・ブナンだ。
「狭い範囲での置き換えで、合力さえ同じやったら少し離れたところでの誤差は知れとるでー」いわゆるサン・ブナンの原理もしくは経験則だ。突如大阪弁になるのは、イギリス弁とフランス弁の区別をするためである。ところで「そにゃーなこと、にゃー。誤差が大きいこげな場合もアルデヨー。ほんまこつ!」と名古屋弁なのか博多弁なのかわからない言葉でホッフが実例をあげてかみついた。それ以来、かの有名なミーゼス卿をはじめ、多くの有理力学研究者が議論をし、落ち着いたところは「近くに力の流れる通路がある場合は合うし、ない場合は合わない」なにか落語のこんにゃく問答のようで一般の技術者にはトンと分からない。
筆者は、離散型モデルを用いて、この議論に決着をつけようと試みた。興味のある方は以下の文献を参照されたい。以上の経緯も一応は序文で紹介している。(昨年2月6日付けの本コラムでの「節点力、このあやしげなもの」では、有限要素法はサン・ブナンの原理に支えられていることを述べたが、肝心のサン・ブナンの原理の評価にはふれてはいない。コラム欄では約1年後のフォローとなるが、実際は、この解明に約10年を要した。)
ともかく、サン・ブナンの原理が信用できなければ、荷重のかかり方を厳密にモデル化しなくてはならず、それは不可能に近く、ニュートン力学もほとんど役にたたない。そして何よりも有限要素法のような荒っぽい手法も、それぞれの要素境界に生じている応力を、その近傍の節点での合力の等しい節点力に振り分けられているところが最大のミソだ。まさに、サン・ブナンの原理さまさまで、使いまくっているのである。少し、我田引水、針小棒大だったか。
- ■参考文献■
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- E.Tachibana, "Two theorems on Saint-Venant's principle in discrete structural model", Journal of Structural and Construction Engineering (Transactions of AIJ), No.361, May, 1985, pp.55-62