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vol.17巨人の肩にのったニュートン

2010年1月21日

力の単位がニュートンとなり、圧力や応力の単位がパスカルとなって既に久しい。

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    [図1] プリンキピア(原書)の表紙

世界中の人々よ、その単位を使うたびにイギリス人やフランス人の偉大さを思い知れ!ということになっている。ただし連中が鼻高々でも、我々日本人は屈辱でもなんでもない。古来より、外来の知識を取り入れることに慣れっこで「アメリカでは」とか「イギリスでは」といった言葉もさらっと受け入れる。ずっと昔でも、清少納言は中宮の問いかけに、香炉峰の雪は御簾を撥げて看る、との白居易の唐詩ぐらいは知っていると得々としていた。(紫式部は、彼女の知ったかぶりは、はなもちならぬと言ってはいるが)。

ところで、ニュートンはともかくパスカルって誰?と聞かれそうだ。「人間は考える葦である」のあのパスカルだと言っても「考える足? へー、パスカルは足で考えるの。さぞ脳みそは暇だろー」ってなことに昨今の若者ならなりかねない。ところで、次の文をご覧いただきたい。

Definition I
The quantity of matter is the measure of the same, arising from its density and bulk conjointly.

これは、ニュートンが1686年に書き上げた「プリンキピア」(図1)の本文1ページ目の、いきなり冒頭にでてくるフレーズである[1]。(実はこの前に、彗星で有名なハレーの献じた詩が載せられている)原書はラテン語で書かれており、これはAndrew Motteによる英訳版である。そして、この定義のあとに、次の補足説明がつく。

Thus air of a double density, in a double space, is quadruple in quantity; in a triple space, sextuple in quantity. The same thing is to be understood of snow, and fine dust or powders, that are condensed by compression or liquefaction, and all bodies that are by any causes whatever differently condensed. (以下略)

この説明により定義のために未定義語を使わなければならないというディレンマを(この場合の未定義語はdensity)やんわりと包んでいる。このあと、さらに、Definition II とつづいていく。そして、慣性の法則など3つの運動法則、それにかかわる命題、定理、その証明、などと拡がっていき、森羅万象を解明していく。

こうした演驛的な記述法はデカルトの影響を多分に受けている。又、重力が距離の自乗に逆比例することはフックの影響を受け、さらに暗黙の内に使われている微分や積分の概念はライプニッツの影響を受けている。(ただし本文中には積分記号などが現れず、幾何学的な証明にとどまっている)

ところで、問題なのは、ニュートンは次々とフックやライプニッツに論争をいどみ、全てはニュートン自身の発想にもとづくものであると言い続けたことである[2]。

先人のお陰で、という謙虚な言葉に「私が遠くまで見えたのは巨人の肩に乗っているから」という表現があって、それをニュートンはフック宛ての書簡に使った。しかしそれは、フックへの追従ではなく、腰が曲がり小さくなってしまったフックを巨人と見立てて揶揄しているとしか思えない。煮えたぎる闘争心を内に秘めたニュートンには「謙虚」という言葉は似合わない。他人への賛辞はほとんどなく、あのデカルトにさえ攻撃の矛先を向けている。

有名な林檎と重力の話は、ニュートンが84歳のときに語った話であり、その歳になってもなお重力の件でフックの名を口にしなかったのは、逆に、よほどの引け目があったのではなかろうか。

ともあれ「プリンキピア」がその後の人類に与えた影響は、そうした自己顕示欲とは別に、計りしれぬほど大きかったことは確かである。いや待てよ・・むしろ、ニュートンのそうした自己顕示欲こそが大を為すためのエネルギーの源泉だったようにも思えてくる。

  • [1] 'Sir Isaac Newton's Mathematical Principles of Natural Philosophy and his System of the World', Translated into English by Andrew Motte in 1729, University of California Press, 1934
  • [2] 島尾永康「ニュートン」岩波新書1979、(伝記ものは司馬の「坂の上の雲」のように多少誇張はあるにせよ当時の状況を生々しく再現してくれる。この稿ではこのピリッと辛い320円の本のお世話になった。)

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