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CAE Technical Library 橘サイバー研究室 - CAE技術情報ライブラリ

vol.16エネルギー誤差の分かっている近似解の話し

2009年11月12日

「ぶっちゃけた話」は好きだが「ややこしい話」はイヤ、という方には不向きな話である。ヤジ馬根性(好奇心)のある方だけ少し辛抱をして聞いていただきたい。

その話というのは「誤差の分からない二つの近似解」を用いて「エネルギー誤差が分かっている近似解」を求める方法である。

一般に、固体の力学での正解は、[A:構成則] を満たし[B:変形・歪の適合条件]を満たし[C:力の釣合い条件] を満たす。しかし、よほど特殊な場合をのぞいて、A,B,Cのいずれかを部分的にあきらめた近似解で我慢しなければならない。通常のFEM(shape function の仮定を用いたもの)はA,Bはまあまあ満たしているが、Cについては節点でしか満たしていない。この場合の全歪エネルギーは正解のそれより「小さめ」となることが分かっている。又、超音速旅客機コンコルドなどの解析に用いられた応力法系のFEMの解は、A、Cはまあまあ満たしているが、Bがいいかげんである。そして、この場合の全歪エネルギーは正解のそれより「大きめ」となることが分かっている。この「小さめ」と「大きめ」の2つの近似解を用いることになる。

さて、ここで J.L.Synge 先生の関数空間(function space)に登場願おう。今、仮に水平変位だけ生じる2質点系を考える。その変位をd1、d2で表す。すると2質点系のすべての状態はd1、d2を座標とする平面上の1点で表される。20質点系ならd1、d2、・・・、d20の20次元空間の1点となる。固体の場合、その状態には無限の点で歪が存在するから「歪を座標軸とする無限次元空間」の1点で表される。Syngeの言う関数空間では、その空間における2点間の距離が歪エネルギー関数として(ヒルベルト空間)定義される。そして、その空間での幾何学的な説明でいとも簡単に2つの近似解から「誤差の分かっている近似解」が誘導される仕組みだ[1]。もう少しだけ具体的に言うと、2つの近似解から関数空間における円の周上の1点として2次的な修正近似解が得られる。この円の中心が「正解」であるが残念ながらその位置は分からない。ただし円の直径の長さがわかるので正解との歪エネルギー誤差が計算できるというカラクリだ。ちなみに、この円は無限次元空間での円でありHypercircleと呼ばれる。

もし、近似解の精度保証が必要な場合はこの手法が役に立つであろう。私は、このエレガントな方法を離散型の関数空間にダウンサイズし、立体トラスの縮約に利用した。家元に見てもらったところ早速返事が届いた。その抜粋を以下に示す。

31 March 1977

Dear Mr.Tachibana,
I thank you for your letter of 22 March and the very interesting paper. I had never thought about the use of the hypercircle in such problems. It is hard to decide in such matters whether to be abstract or to keep close to physical problems.
(途中の2ページにわたる詳細なコメントや語句の修正の部分を省略)
The basic ideas in this application of the hypercircle are definitely yours, not mine. I think that the Quarterly of Applied Mathematics would be a suitable place to publish your work..

Your sincerely,
J.L.Synge

このときJ.L.Syngeは84歳であった。その後も、書簡や絵葉書で数回のやりとりをした。彼の業績をGoogleで検索すると彼は物理学における巨人であったことが今になって分かりびっくりしている。

なお、手紙での彼の指示に従わずに日本の研究雑誌に投稿したところ不採用となりガックリきて修正再投稿するのを止めた。多分、有限次元空間とそのノルムの定義、その定義がノルムの公理を満たしていることの証明、あたりで査読するのに嫌気がさしたのであろう。抄録集に残滓が残るのみである[2]。あれから20年は経っているが今からでも遅くないので投稿してみようかなーと。

  • [1] Synge J.L., "The Hypercircle in Mathematical Physics", Cambridge Univ. Press, 1957
  • [2] 橘英三郎, "離散的なモデルにおけるHypercircle Method について"第26回応用力学連合講演論文抄録集、1976

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