映画評論家からアンケートをとると「第3の男」は常にベストテン入り。敗戦後間もないウイーンを舞台に謎の男をめぐりストーリが展開する。
全篇に流れるアントン・カラスの歯切れの良いチタの響き。
オーソン・ウェルズの暗闇に浮かびあがるハニカンダ顔。
それに、まじめな三文作家役のジョセフ・コットン。
ラストシーンはこのコットンを完全に無視して目の前を通りすぎるアリダ・バリ。
いずれも私の網膜に焼きついている。
不思議な生き物である女性の心理をこの映画が世の男どもに教えてくれる。
下の写真は、映画にでてくる観覧車。世界中からの見学者があとをたたない。
このゴンドラに乗っているとき、私はオーソン・ウェルズの役でなく野暮なジョセフ・コットンの役を日頃演じていると確信したものだ。
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[写真] ウイーンの観覧車
ところで、アンケートといえば新聞記者だと「ローマの休日」がトップにくるという。王女と新聞記者の物語だ。ヘップバーンが髪を短く切り、いっとき世界中にその髪型がひろがったものだ。この映画でのグレゴリー・ペックの役にあこがれて新聞記者になった人も多かろう。王女を思いやり、スクープ記事の写真を没にするペックについつい感情移入してしまう。ダイアナ妃が新聞記者に追いかけられて非業の死をとげたのとはエライ違いだ。
もし弁護士にアンケートをとればどうだろう。多分「12人の怒れる男」がベストテンに入るはずだ。思い込みかもしれないが、だいたい裁判が長引くのは「12人の怒れる男」の悪影響だろう。最初は陪審員の11人が「有罪」で、主人公であるヘンリー・フォンダだけが「保留」で頑張る。そして順々に「無罪」と考える陪審員が増え、最後に全員が「無罪」に賛成することになる。冷静に証言を一つ一つ検討していくプロセスは、ポアロやミスマープルやホームズや刑事コロンボも顔負けだ。ちなみに、映画の終わりにヘンリー・フォンダの演じる主役が建築家であることを告げる。最近の日本では土建屋が悪人のように言われるが、映画の世界では結構、知的な役を演じているのですぞ。
アメリカ人にアンケートをとれば、文句なしに「カサブランカ」が上位にはいる。というよりアメリカ人とつきあうには「カサブランカ」を知らないと真の仲間に入れてくれない。上映中に音声が一時消えたとき、前の観客が口の動きにあわせてセリフを言ったぐらいにアメリカでは浸透しているのだ。ハンフリー・ボガードの演じるリックはやたらとかっこがよい。紗のかかったバーグマンと苦みばしったボガードとのやりとり。そこに流れるAs time goes by の曲は昔、必死に憶えた。
ちなみにJSOL大阪本社はなんとアフリカ大陸の北端にあるカサブランカとほぼ同じ緯度だ。夏の大阪がやけに暑いのも妙に納得できる。日本の映画ファンが舞台となった酒場リックの店を訪ねることもあるそうだが、残念ながら実際はハリウッドのセットだった。
昨今、かかる名画が、一本たったの500円で売られているのは犯罪行為に近い。第3の男ならず不肖私は「第4の男」として、それを訴えたい。でないと、ヘップバーンやアリダ・バリやイングリッド・バーグマンがたったの500円ではあまりにも可哀そうではないか。