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2009.06.01

第7回ヨーロッパ LS-DYNA ユーザー会議参加報告

カテゴリー
: セミナー・イベント
関連製品
LS-DYNA / JSTAMP

概要

世界中にユーザーが広がるLS-DYNAは、毎年米国と欧州で交互に国際ユーザー会議を開催しています。今年は以下のとおり、モーツァルト生誕の地で知られるオーストリア、ザルツブルグで開催されました。

開催概要
https://www.dynamore.de/conferences/past-conferences/eu7

  • 日時 2009年5月14、15日
  • 場所 ザルツブルグ(オーストリア)、Salzburg Congress
  • 14セッション、計136講演
    • 基調講演 15講演
    • Crash 22講演
    • Metal Forming 15講演
    • Material 11講演
    • Passive Safety 15講演
    • Optimization 18講演
    • Element Technology/Development 6講演
    • SPH/ALE Application 4講演
    • EFG/SPH/ALE Development 3講演
    • Blast and Penetration / Various Applications 5講演
    • Validation and Verification 4講演
    • Impact 3講演
    • Civil Engineering 4講演
    • CAE Process 11講演

上記の各セッションより、基調講演、Crashセッション、Metal Formingセッション、Passive Safety セッション、Optimizationセッションから、いくつかの講演をピックアップしながら報告していきます。

Salzburg Congress 会場の様子 Salzburg Congress 会場の様子
Salzburg Congress前、ミラベル宮殿の庭園 Salzburg Congress前、ミラベル宮殿の庭園

基調講演 15講演

LS-DYNAの開発報告 ["Recent Development in LS-DYNA", J. Hallquist, LSTC] では、LS-DYNAの開発における概略と注力している項目について報告されました。

まず、将来的な大きな開発項目として、圧縮性/非圧縮流体及びそれらと構造の連成機能について発表されました。電磁界解析機能や、センサーや制御システムといったフィードバック機能などとあわせ、新しい領域とそれらの連成が期待されます。さらに中長期の大きな話題として、Isogeometric Analysis機能が紹介されました。これは昨年、JSOLの主催したLS-DYNA Users Week 2008でも講演(講演資料はサポートサイトにてダウンロード可能)がありましたが、CADデータ(NURBS)形状をそのまま解析に用い、メッシュ作成を行う必要のない新たなアプローチです。まだ研究段階ではありますが、チューブの座屈などの事例を見ることが出来ました。これら多くの機能は、LSTCが目指す、One code Multi-Physicsの戦略のもと、長期的な開発構想にのせられています。

LSTCはLS-DYNAの開発とあわせ、精力的にダミーモデル、ハニカムモデルなどの衝突解析用公開モデルを開発しています。このたび、Hybrid III 50th に加え、EuroDIS 2re, Hybrid IIII 3 years old, 6years old, SID-IIs Rigid -FE, Hybrid III 5th femaleがリリースされ、実際にユーザー様にて使用可能な状態になったのに加え、HBIII 95thの開発に着手した、という報告がなされました。さらにハニカムバリアについては、EFG(Element Free Galerin法)版のODB、シェルモデルとソリッドモデルのハニカム材料の比較など、基礎的なモデル化の検討も行われています。

LS-DYNAの基本機能の開発として、HYBRID SMP/MPPについて報告が行われました。近年、マルチコアCPUが普及するにつれ、ノード内に複数のコアがのるようなシステムが増えてきています。この並列化を向上させるため、ノード内はSMP、ノード間はMPPで並列化するHYBRID並列構想により、より高い並列度が実現でき、大規模モデルを高並列にて短時間で解くことを目指しています。

Crash 22講演

自動車メーカーのひしめくドイツからのアクセスが良好ということもあり、もっとも講演数が多いセッションでした。衝突解析にて多くの実績を残してきたLS-DYNAですが、技術課題がまだ残されているのも事実であり、多くの意欲的な発表が行われました。

多くの講演者が触れたのが、加工による材料の変質が部品の強度に影響を与える現象(加工硬化)であり、三菱自動車工業(株)様はこれをフルビークルの衝突解析に適用し、精度向上を実現しました ["Investigation of Accuracy Improvement on Crashworthiness Simulation with Pre-Simulation of Metal Forming", K. Takashina, Mitsubishi Motors Corporation。発表は弊社が代読]。また、この加工硬化の取り込みを、なるべく簡単な手法で実現するソルバー、ツールの開発報告として、JSOLより簡易加工硬化計算ツールHYCRASH ["Quicker Process to Consider Strain Hardening for Crash Analysis Using HYCRASH", S. Endo, JSOL Corporation]、さまざまなプレス成形ソルバーとのインターフェースを提供するSCAI Mapper ["Coupled FEM Calculations - a CAE Tool to Improve Crash-Relevant Automotive Body Components by Local Hardening", K.Wolf, Fraunhofer]などが紹介されました。

JSOL 遠藤の発表 “Quicker Process to Consider Strain Hardening for Crash Analysis Using HYCRASH” JSOL 遠藤の発表
"Quicker Process to Consider Strain Hardening for Crash Analysis Using HYCRASH"

一方、スポット溶接破断や材料破断なども依然予測の難しい領域です。材料モデリング開発に多くの知見のあるPaul Du Bois氏は、アルミ材の破断について低速/高速の破断モード、変形モードの差、メッシュ依存の問題などを考慮した材料モデルについて発表を行いました ["Experimental and Numerical Investigation of Fracture in Aluminum" , P. Du Bois, Consultant]。また、Daimlerが近年取り組んでいる、加工時・溶接時の材料変質がダメージとして衝突解析に引き継がれ、破断に影響を与えるモデル(GISSMO)について、基調講演とあわせこのセッションでも報告されました ["Considering Damage History in Crashworthiness Simulations", F. Neukamm, Daimler]。

Metal Forming 15講演

先進的な分野としてはホットフォーミングの報告が3件ありました ["Using LS-DYNA for Hot Stamping", A. Shapiro, LSTC, "Determination of Flow Curves by Stack Compression Tests and Inverse Analysis for the Simulation of Hot Forming", B. Hochholdinger, ETH Zurich, "An LS-DYNA Material Model for Simulations of Hot Stamping Processes of Ultra High Strength Steels", T. Olsson, Engineering Research Nordic]。いずれも材料モデルの適用方法など基礎的な講演でしたが、今後適用が進むと考えられる加工プロセスのひとつであり、シミュレーションでの事前予測が必須になってくるでしょう。なお、ホットフォーミングのシミュレーションはJSTAMPへの取り込みなど、JSOL も力を入れている領域です。

JSOL展示ブースにて、JSTAMPの紹介 JSOL展示ブースにて、JSTAMPの紹介

また、金型たわみを考慮した精度向上、スプリングバック補正機能による型設計支援など、従来領域の機能でもより高精度に、より簡単に、を目指した講演が見られました。さらにストレッチフォーミング、打ち抜き加工など、さまざまな加工方法のシミュレーションへの適用が報告されました。LS-DYNA では多くの機能により、これらを実現しています。

Passive Safety 15講演

Passive Safetyの解析は自動車車両衝突の最後の荷重経路である人体モデルやダミーモデルの開発、拘束具(エアバッグやシートベルトなど)のモデル化など、非常に複雑な現象を精度よく解くための高度な技術が要求されます。汎用ダミーモデルの開発ではDYNAmoreによるBioRID(後突用ダミー) ["Numerical Investigations to Determine Sources for the Scatter of the BioRID Dummy" S. Stahlschmidt, DYNAmore]、World SID(次世代側突ダミー) ["Development of PDB Worldsid Model with the German Automotive Industry", A. Gromer, DYNAmore]、FTSSダミーモデル(Hybrid-III 50%ile Ver.7.1、5%ile改良Phase II、SID-IIsVer.3.1、Flex-PLIなど) ["Development in Finite Element Safety Models", J. Rasico, FTSS] の講演が行われました。またJSOLにおいても、三菱自動車工業(株)様と共同でFlex-PLIモデルの開発報告を行いました ["Development of a Flex-PLI LS-DYNA Model", S. Hayashi, JSOL Corporation]。

JSOL 林の発表 “Development of a Flex-PLI LS-DYNA Model” JSOL 林の発表
"Development of a Flex-PLI LS-DYNA Model"

Optimization 18講演

最適化については多目的最適化、ロバスト設計が多くの講演を占めましたが、これらに加え、形状最適化の発表がいくつか行われました。いわゆる形状最適化は LS-DYNA、それも、特に衝突のような高度な非線形現象への適用は難しいとされていましたが、形状をパラメーター化し、CAD→自動メッシャーという流れによる実現 ["Geometry Based Topology Optimization - Improving Head Impact Performance of an Engine hood" D.Weiss, Daimler]、SFE などの専用ツールによるシステム化 ["Topology & Geometry Based Structure Optimization using Implicit Parametric Models and LS-OPT", H.Zimmer, SFE Concept] などの報告がありました。いずれも、自動メッシュの方法、プロセスインテグレーションなど、まだ完全に自動化はできておらず、いくつかの課題は残されているようですが、形状最適化についてひとつの指標になったものと思われます。

一方、線形解析では一般的になっているトポロジー最適化を非線形で行う、という意欲的な発表が LSTC からされました ["A Topology Optimization Tool for LS-DYNA Users: LS-OPT/Topology"] 。まだ、上下にかかった荷重を支えるに十分な荷重を求めるのに、中実の直方体からいかに密度を削るか、という基本的な事例ではありましたが、今後の新たな可能性を示すものと思われます。

その他のセッションより

Element Technology/Development セッションでは陰解法の並列化のスケーラビリティー向上について ["A Study of Implicit Performance in MPP" Dr. R. Grimes, LSTC]、また、新機能であるBEM(境界要素法)を用いた音場解析について ["Simulation of Acoustic and Vibroacoustic Problems in LS-DYNA using Boundary Element Method", Prof. M. Souli, University of Lille]LSTC から報告がありました。Impactセッションにおけるシャープペンシルの落下、SPH/ALE Application セッションにおける、ラベル貼付プロセスにおけるペットボトルの変形、航空機エンジンやアルミパネルへのバードストライク ["A Numerical - Experimental Investigations on Crash Behaviour of Skin Panels during a Water Impact Comparing ALE and SPH Approaches" , Professor M. Anghileri, Politecnico di Milano] など、多彩な事例が紹介されました。

まとめ

陽解法コードとして始まった LS-DYNA は近年、陰解法、ALE による流体機能に始まり、エアバッグ展開に向けて開発された粒子法、音場解析のために開発された BEM(境界要素法)などの新しいソルバーを取り入れ、さらにそれらを連成させることにより、従来到達することのできなかった領域をシミュレートすることができつつあります。また、材料破断、材料モデリングなど、さらなる精度向上をとげています。それらは LS-DYNA がこの領域で先鞭をつけてきた、高度な並列化により実現できています。そして、本ユーザー会を聴講し、これらの機能の発展と解析領域の増大は、LS-DYNA の各ユーザー様の、技術課題に対するチャレンジと克服のための努力が実を結んだ成果であると感じております。

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