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CAE Technical Library エンジニアレポート - CAE技術情報ライブラリ

2008.11.04

EFG最新開発状況のご紹介

カテゴリー
: 構造解析
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LS-DYNA

メッシュフリー解法のひとつであるElement Free Galerkin (EFG)法がLS-DYNA Version 970より実装され、加工問題や衝突問題などに適用されています。EFGは通常の有限要素法(FEM)とは異なり、要素(メッシュ)を直接用いることなく、物体内の応力やひずみを計算する手法であり、また一般にFEMよりも高次の形状関数を用いているため材料の大変形や、応力、ひずみの急激な変化に追随でき、安定に計算できる手法として知られていますが、その一方で計算時間が非常にかかることが大規模モデルへの適用のネックになっています。またFEMと比較して大変形問題に適しているといっても、やはり限界があります。そこで、Version 971ではこのようなこれまでのEFGの弱点を克服するための改良が施されています。ここでは10月7〜8日に開催された弊社LS-DYNAユーザー会議2008の中でLS-DYNA開発元LSTC社から発表されたEFG機能の最近のアップデートの内容についてご紹介します。

EFGに関する最近の機能拡張

3次元アダプティブEFGフォーミュレーションに関しては前バージョンではシリアル/SMP版のみの実装および陽解法での使用に限定されていましたが、最新バージョンではこれらの制約がなくなっています。すなわちEFGはSMP、MPP、陽解法、陰解法ですべて使用することができ、さらに熱伝導解析との併用も可能となっています。これに加え、EFG機能に対し、計算効率化と計算の安定化を目的として最近実装された機能とその主な用途を以下に示します。

2-1 境界条件設定の高速化

FEMとEFGは手法の違いはありますがいくつかの共通点もあります。図1に示すように、FEMでは節点情報(例えば節点変位)を基に対象領域内(FEMの場合は要素)の変位場を形状関数を用いて補間します。これに対しEFGではサンプリング点の情報を基にしてやはり対象領域内の変位場をEFG形状関数を用いて補間して表します。

図1 FEMとEFGの対象領域と補間関数 図1 FEMとEFGの対象領域と補間関数

FEMの形状関数はそれが属する節点位置では1、それ以外の節点位置では0の値をもちますが、EFGの形状関数はそのような性質をもっていません。

このように変位場を形状関数で表すということは共通なのですが、形状関数の性質が異なります。そのため例えば変位境界条件を与えたい場合、FEMでは境界節点に直接変位拘束を与えることができますが、EFGではできません。そこでEFGでは境界条件を与えることができるように形状関数を変換する必要があります。そのための手法がLS-DYNAの入力データ*SECTION_SOLID_EFGのIEBTとして用意されています。LS-DYNA Version 971からはここにIEBT=4 (高速変換=Fast transformation)とIEBT=7(修正最大エントロピー法=Modified maximum entropy method)が加えられました。IEBT=4は形状関数をサンプリング点で値が1となる簡単な関数に置き換えて境界条件の変換を行なう手法です。またIEBT=7は1950年代に確率論の世界で提案された確率分布の計算手法である最大エントロピー法に基づいており、形状関数を確率分布関数とみなす手法です。簡単なモデルでパフォーマンスの比較を行なってみました。従来のデフォルトであるIEBT=1(完全変換)との比較を図2に示します。CPU時間はIEBT=1のときを1.0として正規化しています。この例ではアダプティブリメッシュされたときの要素数およびステップ数に大きな違いがないので、IEBTオプションの違いによる高速化はIEBT=4のとき約1.7倍、IEBT=7のとき約3.8倍となることがわかりました。ただしIEBT=7は現在発行されているVersion 971のマニュアルには記載されていません。Version 971のマイナーアップデート時に正式に追加される予定です。

図2 EFGのIEBTオプションのCPU時間の比較 図2 EFGのIEBTオプションのCPU時間の比較

2-2 安定化EFG法による高速化

EFGの計算コストがかかる大きな原因のひとつは領域積分の計算にあります。領域積分法は*SECTION_SOLID_EFGのパラメーターIDIM(Domain Integration Method)で指定しますが、Version 971ではここに高速な領域積分法オプションとしてIDIM=-1;安定化EFG法(stabilized EFG method)が追加されました。この手法はFEMでいうところのアワーグラスコントロールつき1点積分スキームに相当します。デフォルトではIDIM=2(2点Gauss積分)が使用されます。この新しい積分法のパフォーマンスを従来法と比較しました。さらにFEMの要素タイプ1(低減積分要素)および2(完全積分要素)との比較もあわせて示しました。図3に使用したモデルとCPU時間の比較を示します。FEM要素タイプ1のCPU時間を1.0として比較しています。このようにIDIM=-1オプションによりEFGの計算時間はFEMの要素タイプ1と2の中間にまで短縮されました。

図3 領域積分法の違いによるCPU時間の比較 図3 領域積分法の違いによるCPU時間の比較

2-3 カーネル関数スイッチによる安定化手法

材料が極度に圧縮される状況ではEFGであっても積分領域が壊れ、計算がストップすることがあります。そこでこれを避けるためにカーネル関数をLagrangeカーネルからSemi-Lagrangeカーネルにスイッチする手法が組み込まれています。これはALE流体解析で用いられるoperator-split法をカーネル関数の更新に適用したものです。通常のLagrangeカーネルからSemi-Lagrangeカーネルへのスイッチは*SECTION_SOLID_EFGのパラメーターTOLDEFで行ないます。図4にフォーム材の圧縮解析にカーネル関数スイッチを適用した例を示します。この例ではTOLDEF=0.01に設定されていますが、これは材料の圧縮が1%に達した時点でスイッチをアクティブにすることを意味しています。

図4 Semi-Lagrangeカーネルへのスイッチなし(左)とあり(右)の場合の比較 図4 Semi-Lagrangeカーネルへのスイッチなし(左)とあり(右)の場合の比較

カーネルスイッチを用いた場合、計算はより圧縮された状況に追随できています。

まとめ

最近実装されたEFGに関する機能のいくつかをご紹介しました。EFGの弱点であった計算時間も、最新のオプションにより大幅に改善され、ほぼFEMと同等レベルまでになっています。本年10月の弊社ユーザー会議ではLS-DYNA開発元LSTC社から次期バージョンにおけるEFG機能についても開発状況に関する発表が行なわれました。この中では本稿でご紹介したもの以外にメッシュフリー法によるシェルや亀裂進展の解析機能についても紹介されました。今後もLS-DYNAのEFGとその関連機能は従来のFEMでカバーしきれない工学問題への適用を目指して開発が続けられていくことでしょう。

最後に、ここで紹介したEFG最新機能をお試しいただく場合は近日中にリリース予定のLS-DYNA Version 971 R3.2以降のバージョンをおすすめします。

参考資料
  • C. T. Wu, et al., LS-DYNA Meshfree Method in Solids and Structures : Current, Future and Its Industrial Applications, LS-DYNA Users Week 2008, 2008年10月7, 8日講演資料より
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