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2009.06.01

折紙工学とLS-DYNA

カテゴリー
: 構造解析
関連製品
LS-DYNA

日本人であればだれしも「ツル」や「カブト」などの折紙に、小さい頃から親しんできたものと思います(図1)。紙1枚から様々な「かたち」を生みだす折紙は、日本の伝統的な工芸創作技法のひとつと考えられています。折紙の特徴として思い浮かぶのは、1枚の紙(2次元形状)から軽量な立体(3次元形状)が作り出せること、折り目に沿って折りたたむことで、立体的な形状をコンパクトに収納できることなどではないでしょうか。このような特徴を数理科学、あるいは工学的な観点から見直すことにより、折紙は単に遊びや装飾の領域から実用的で機能的な材料や構造物を製造するための基礎技術となりうることが次第に明らかとなってきました。著名な応用例としては東大名誉教授三浦公亮氏が人工衛星の太陽電池パネルを展開する方法として開発された折りたたみ手法があります。これは現在日本だけでなく、海外でも「ミウラ折り(Miura-ori)」として知られ、観光ガイドマップの折りたたみにも応用されています。

図1 伝統的な折紙 図1 伝統的な折紙

このようなアイディアを拡大し、平面/空間充填構造を実現するための手法のひとつととらえることで、さらに幅広い応用の可能性がみえてきました。こうした折紙技術の応用に注目して体系的に研究を推進するため、日本応用数理学会「折紙工学研究部会」や、日本機械学会「RC235 計算力学援用による折紙工学の推進とその応用に関する調査研究分科会」などが組織されています。これらの研究会の責任者である東京工業大学大学院理工学研究科・萩原一郎教授によると、そもそも「折紙工学」という名称は、2002年に東京工業大学・野島武敏特任教授が提唱したのが始まりとのことです。野島先生はすでにテレビや新聞、雑誌など多様なメディアを通じて折紙工学の考え方やその応用技術について紹介されていらっしゃるのでご覧になった方も多いのではないでしょうか。野島先生には昨年(2008年)10月に開催しました弊社のLS-DYNA Users Weekの中でも特別講演としてご講演いただきました[1](図2)。

図2 2008年10月7日LS-DYNA Users Weekにおける野島先生のご講演より 図2 2008年10月7日LS-DYNA Users Weekにおける野島先生のご講演より

さて、折紙工学の立場からすると、折紙構造は必ずしも1枚の紙から構成されるものばかりではなく、より一般的な平面/空間充填構造(立体折紙)も含まれます。これまでも折紙を数学的に取り扱った研究は少なからず存在します。しかしこのような研究の中では、折紙を折る過程で紙の厚みが考慮されていなかったり、また紙は折線上に仮想的なヒンジをもつ一種の剛体パネルとして仮定され、折りたたむ過程での変形を考慮していないなど理想化されているものも少なくありません。実際に折紙を何らかの工業製品として加工する場合は、当然のことながら材料の板厚を考慮に入れ、成形可能性について検討する必要があります。そのような成形性の検討を行わない限り、どんなにエレガントな幾何形状であっても理念にとどまり、実現することはできません。

そこで材料の成形性や生産技術に関するリサーチのために、大変形や塑性加工などの非線形問題を取り扱うことのできるLS-DYNAが大いに役立てられることとなります。

軽量空間充填構造トラスコアパネル

現在、航空機や鉄道車両の床材などの軽量化構造として、ハニカムパネルが広く用いられています。ハニカムパネルは用途に応じて様々なコアサイズ、パネル寸法のものが比較的容易に製作でき、また強度部材として大きな曲げ剛性をもっています。しかしせん断変形を受けた場合や、面内の圧縮荷重については強度的に十分でなく、またハニカムコアと表面材とが接着剤で固着されているため、火災時に接着剤が燃焼するという危険性があります。そこで折紙工学の応用という観点から、ハニカムコアと同程度の曲げ剛性をもち、せん断強度、面内圧縮特性に優れ、さらに難燃性の金属材料だけで製作可能な軽量構造物としてトラスコアパネルが着目されています[2](図3)。トラスコアパネルは正四面体、正八面体による空間充填形状の研究の中から考案された構造材料であり、ハニカムコアの代替物として様々な利用が考えられています。

図3 三角錐コアの稜線どうしを接合することによって強固な構造物となるトラスコアパネル 図3 三角錐コアの稜線どうしを接合することによって強固な構造物となるトラスコアパネル

トラスコアは実際の製品開発に当たっては加工可能性が問題となります。材料がプラスチックであれば成形は容易ですが、建造物や輸送機器等の部材として用いるには金属薄板で成形する必要があります。そこで金属薄板の成形限界内で望まれる形状が加工可能かどうかを検討しなければなりません。金属薄板の成形手法としては一般にプレス成形、ハイドロフォーミング、超塑性成形等が用いられますが、できればなるべく製造コストの安いプレス成形で加工できることが望ましいといえます。そこでプレス成形により実現性の高いトラスコア形状を想定して、LS-DYNAによる成形シミュレーションを行いました。

トラスコアパネルの成形シミュレーション

図4に示す底面の辺長82mm,高さ23mm(アスペクト比 =0.28)となる三角錐形状のトラスコアをシミュレーションの対象としました。材料は深絞り成形用鋼板SPCEであり、降伏関数はHillの'48年降伏関数を用いています。これはLS-DYNAに材料モデルタイプ37(*MAT_TRANSVERSELY_ANISOTROPIC_ELASTIC_PLASTIC)として標準実装されています。モデルのセットアップにはプレス成形シミュレーションシステムJSTAMPを用い、物性データはJSTAMPの材料データベースに登録されているものを用いました。

最初にプレス成形による板厚分布を見積もるため,簡易的なプレス成形モデルを作成し,単工程のみでトラスコア形状を成形する予備解析を行いました。モデル形状を図5に示します。プレス成形条件として、ダイを固定、ホルダー圧(保持力)156.8 kNを設定の後、パンチに強制速度を与えて加工しました。その結果図6に示す板厚減少率の分布が得られました。これをみると頂部周辺に60%を超える板厚減少の領域が生じており、SPCEの成形限界(板厚減少率30%程度)をはるかに超えているため、実際にはわれが発生する可能性が高いことを示しています。また図6 (b)の節点変位ベクトルの分布をみると、ブランクの周辺部は端部から三角錐領域への流れ込みが見られますが、中心付近では隣接している各トラスコアの領域が張出し的に単独で伸展し、トラスコア周囲からの板の流入がほとんどみられません。この結果から単工程でトラスコアパネルを成形することは非常に厳しいことがわかりました。

図4 トラスコアパネル形状および寸法 図4 トラスコアパネル形状および寸法

図5 単工程によるトラスコアパネルのプレス成形モデル 図5 単工程によるトラスコアパネルのプレス成形モデル

図6 単工程成形シミュレーション結果 図6 単工程成形シミュレーション結果

次に単工程成形シミュレーションの結果をふまえ、多工程による成形を試みました。すなわち三角錐形状のトラスコアをいきなり成形するのではなく、予備成形によりある程度の張出し成形をした後、本成形で三角錐形状を成形するというものです。予備成形の形状については様々なパターンが考えらますが、ここでは半球状に加工することとしました。図7にモデルの初期形状を示します。パンチは予備成形パンチ、位置合わせのためのガイドピン、本成形用の三角錐形状パンチより構成されます。まず第1工程で予備成形パンチのみが所定の位置に置かれ,ダイとホルダーにはさまれたブランクが予備成形パンチに押しつけられて成形されます。このときブランクは予備成形パンチのみによって張出し成形されます。次の第2工程ではブランクがトラスコアのワンピッチ分先送りされ、予備成形パンチによって2列目の半球が成形されます。ガイドピンの高さと径は予備成形パンチよりわずかに小さいため、ガイドピンは成形には寄与しません。第3工程ではブランクがさらにトラスコアのワンピッチ分先送りされるので、第1工程で成形された最初の半球部分が三角錐パンチ上に来て、三角錐パンチによって加工されます。同時に予備成形パンチによって3列目の半球部分が成形されます。第4工程以降はこれの繰り返しとなり、予備成形された半球部分が順に三角錐形状に本成形されていきます。

この成形プロセスで得られたブランクの状態と板厚減少率を図8に示します。第1工程では1列目の予備成形の半球が成形されています。このとき等二軸引張りに近い成形であるため、ほぼ半球全体が一様な伸びを示しています。2工程目では2列目の予備成形が行われ、第3工程では1列目が三角錐形状に加工されています。第3工程以降は予備成形と本成形が同時に進行していきます。この工法による最終的な板厚減少率は28.4%となりました。これはSPCEのわれの一般的な基準である30%に達していないことから、この工法によりSPCE材のトラスコアパネルの加工が可能であることが判断できました。なお、このシミュレーション結果をもとにトラスコアパネルの試作が行われ、実際に成形可能であることが実証されています。

図7 トラスコアパネルの多工程成形シミュレーションモデルと成形手順 図7 トラスコアパネルの多工程成形シミュレーションモデルと成形手順

図8 多工程成形シミュレーション結果 図8 多工程成形シミュレーション結果

まとめ

今回の"How to Use LS-DYNA"では、今注目を集めている折紙工学から考案された実用的な構造物のひとつである軽量高剛性構造トラスコアパネルの成形性検討へのLS-DYNAの応用についてご紹介しました。トラスコアパネルは今後、車両床材、OAフロア等の建築資材など様々な分野への応用が期待されています。本記事では触れていませんが、ご紹介した以外でもLS-DYNAの高精度なシェル要素、コンタクト機能、さらにはスポット溶接などの機能もトラスコアパネルの成形性や剛性評価に役立っています[4]。今後もLS-DYNAはその多様な機能を活かし、新しい発想に基づく成形技術や製品開発を忠実にモデル化し、シミュレーションによる仮想試作を行なうための手段として活用されていくことでしょう。

謝辞
金型CADデータをご提供いただいた城山工業株式会社五島 庸様、鈴木晴夫様、トラスコアパネルの画像データをご提供いただいた東京工業大学大学院特別研究員斉藤一哉様に謝意を表します。
参考文献
  • [1] 野島武敏, 折紙の数理化とその学術的応用(主に折紙の工学化について), LS-DYNA Users Week講演予稿集, JSOL, 2008
  • [2] 斉藤一哉, 野島武敏, 平面/空間充填形に基づく新しい軽量高剛性コアパネルのモデル化, 日本機械学会論文集(A編), Vol.73, No.735, pp.1302-1308, 2007
  • [3] 戸倉 直, 萩原一郎, トラスコアパネルの製造シミュレーション, 日本機械学会論文集(A編), Vol.74, No.746, pp.1379-1385, 2008
  • [4] 戸倉 直, 萩原一郎, 成形シミュレーションで得られる加工硬化を考慮したトラスコアパネルの曲げ剛性の検討(A編), 日本機械学会論文集, Vol.75, No.753, pp.588-594, 2009
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