
CAE Technical Library エンジニアレポート - CAE技術情報ライブラリ
2011.11.01
閉空間の空気の重要性
2007年のヨーロッパLS-DYNAユーザー会で、側面衝突におけるドア内の空気の影響について報告がなされました※。側面衝突では、ドアのトリムがダミーに傷害を及ぼすので、トリムの変形が問題となります。この報告によると、ドア内の空気の影響で、解析上は40mmもトリムの変位が増加するそうです。この現象は実験でも観察され、解析上の重要なポイントの1つになっています。
このように、閉空間における空気やガスの影響が重要となる場合、LS-DYNAではどのようなモデル化手法があるのでしょうか。LS-DYNAではエアバッグ関連の手法を使用することにより、このモデル化が可能となっています。今回はエアバッグの手法を中心にご紹介し、さらに最新の機能である粒子法をご説明します。
- ※ "Investigation into the rising air pressure inside the door during side impact"、Michael Machens、Wilhelm Karmann GmbH、6th European LS-DYNA Users' Conference
閉空間のガスの取り扱い方法
閉空間のガス取り扱いモデル
閉空間における空気やガスの影響を考慮する場合、以下の機能が必要です。
- 閉空間の体積の計算
- ガスのダイナミクス(内圧計算方法)
- 部材への圧力負荷
LS-DYNAには3つの手法があります。
- Control Volume法(CV法)
- 流体‐構造連成法(FSI法)
- 粒子法(Particle法)
各手法ごとに特色があります。特徴をご理解いただき、最適な方法を選択してください。
CV法 (内圧一定法) |
流体-構造連成法 (FSI法) |
粒子法 (Particle法) |
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体積の計算 | 閉空間を構成するセグメントを定義。グリーンの定理を利用して、セグメント面積と座標から体積計算 | ガスの流れを計算するためのソリッド要素で体積を計算。 | 粒子のランダムな動きを計算するので、体積の計算は基本的に不要。必要に応じて、CV法と同じ計算を行う。 |
内圧計算法 | 閉空間内にあるガスのエネルギーから圧力を計算するため、閉空間内の圧力はどこでも同じ値となる。 | ガスの流れや圧力をLS-DYNAの流体解析機能(ALE)で計算。 | ガスの流れを粒子に代表させて計算。粒子1つ1つはランダムな動きであるが、統計的な処理を行うことでガスの流れを解析する。 |
部材への圧力負荷 | 計算された圧力を圧力荷重と同じように部材の内側から負荷。 | 計算されたガスの圧力をFSI機能で、閉空間の部材に負荷する。 | 粒子が閉空間の部材と相互作用(衝突)して圧力が伝わる。 |
長所 | 計算時間が短い | ガスの圧力計算の精度が高い。 | 狭い空間での粒子の通り抜けが解析可能(折りたたまれたエアバッグの基布間のガス流れなど) |
短所 | 閉空間内での圧力が均一のため、エアバッグに適用した場合、展開挙動が実際とは異なる。 | 計算時間が非常に長い(CV法の数十倍)。狭い空間では、非常に細かいメッシュが必要となる。 | 流体的な流れを表現するために多くの粒子が必要になる。 |
粒子法(Particle法)
ガスの運動やそれによる圧力・温度などを粒子(particle)を用いて計算する手法です。正確には「Corpuscular」法といいます。
- 粒子を使用することのメリット
- 圧力・温度を計算するためのメッシュが不要。
狭い空間なども粒子が通り抜けることができます。
-折りたたまれたエアバッグの基布の間までガスが流れることができます。 - 短所
- 計算精度が使用する粒子の数に依存します(粒子数が多いほど精度が高い)。
粒子法を使用したエアバッグ展開解析のアニメーション
「Corpuscular」法で使用する基礎式
下記に示す基礎方程式を組み合わせて、ガスの状態やエネルギーを計算します。
分子運動論からCorpuscular法へ
Corpuscular法では、分子の運動を数少ない粒子で計算することになります。このため、振動の低減など様々な工夫が加えられています。
粒子法の新機能
閉空間内に存在するガスや空気の初期状態を再現するオプションが追加されました。この機能により、最初からガスや空気で充満された閉空間の解析が可能になりました。
Digi-Tireへの粒子法の適用
弊社で開発・販売しているDigi-tire(FEMタイヤモデル)の内圧に粒子法を適用して見ました。CV法より0.4気圧内圧が高い結果となりました。
まとめ
粒子法を中心に、閉空間のガス(空気)の挙動を解析する手法をご紹介しました。粒子法を使用すれば、これまで難しかった初期空気の影響なども考慮できるようになります。解析精度向上のためにも是非ご利用ください。