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2012.03.01

多軸応力場における樹脂材料破断モードの基礎検討

カテゴリー
: 構造解析
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LS-DYNA

樹脂材料は設計自由度が非常に高く、複雑な形状に加工することができます。自動車には多くの樹脂部品が使用されており、ピラーやドアトリムなどの内装部品は自動車衝突時の乗員傷害の軽減に、バンパーフェイシャなどの外装部品は歩行者保護に重要な役割を果しています。さらに最近は車体骨格構造の樹脂化による大幅な軽量化も検討されています。しかしながら、樹脂材料の振る舞いは複雑なため、自動車の強度設計を行ううえで樹脂材料の変形や破断を予測するCAE技術の開発に大きな期待が寄せられています。
自動車衝突において樹脂部品は大変形して破断が発生します。この時、複雑な荷重入力に伴う多軸応力場が発生して強度に影響を与えていると考えられます。多軸応力場における樹脂平板の変形と破断挙動について基礎的な検討を行うために面衝撃試験とLS-DYNA解析を実施しましたのでご紹介します。

ISO6603-2計装化面衝撃試験

計装化面衝撃試験はISO6603-2で規定された規格試験で衝撃エネルギーから樹脂の衝撃強さを評価することができます。さらにこの試験では樹脂平板に2軸引張変形が発生するため多軸応力場における破断挙動を検討することができます。図1に面衝撃試験機とストライカ、治具の各寸法を示します。

図1 ISO6603-2計装化面衝撃試験 図1 ISO6603-2計装化面衝撃試験

JSOLは樹脂材料の機械特性の基礎的な調査研究を行うためにポリプロピレンに対する面衝撃試験を実施しました。選択したポリプロピレンは比較的延性特性が高い材料になります。図2に衝撃試験で発生した2種類の破断モードを示します。この破断モードの違いはストライカと樹脂平板の接触摩擦力の違いにより発生することが分かりました。また、破断強度についても摩擦力が大きくなると増加することが計測されました。

図2 摩擦による破壊モードの違い(面衝撃試験) 図2 摩擦による破壊モードの違い(面衝撃試験)

これらの変形は典型的な破断モードとして知られており、左側がPetaling fracture、右側がCircumferential fractureと呼ばれます1)

解析計算

面衝撃試験を再現するLS-DYNAモデルを作成して解析計算を行いました。図3、4に示すとおり摩擦係数を変えて計算を行うと試験と同様に破断モードが変化して破断強度も上がることが分かりました。摩擦が大きい場合、ストライカと接触する領域の樹脂平板の変形が抑制されます。これにより、最大ひずみはストライカが衝突する中心部ではなく、中心から少し離れて同心円状に発生するため破断モードが変わります。

図3 摩擦による破断モードの違い(塑性ひずみ分布図) 図3 摩擦による破断モードの違い(塑性ひずみ分布図)

図4 摩擦によるストライカ荷重の違い 図4 摩擦によるストライカ荷重の違い

次に、摩擦以外で破断モードに影響を与えている因子として変形モード(応力3軸度)の影響度を検討しました。図5に示すとおり面衝撃試験では平板全体に2軸引張モードが発生しますが、延性材料では変形が進むにつれて1軸引張モードに移行する領域が現れます。

図5 変形モード(応力3軸度)分布図 図5 変形モード(応力3軸度)分布図

ここでLS-DYNA971 R5から*MAT_ADD_EROSIONに新しく追加されたGISSMO機能の「変形モード(応力3軸度)に依存した破断ひずみ」を使用して2軸引張時の破断ひずみを大きく設定して破断しづらくさせたところ、図6に示すとおり摩擦違いと同様に破断モードが変化することが分かりました。

図6 変形モード(応力3軸度)による破断モードの影響 図6 変形モード(応力3軸度)による破断モードの影響

まとめ

ストライカとの接触摩擦の有無により樹脂平板の破断モードや破断強度が変化することはISO6603-2計装化面衝撃試験の規格書にも書かれており、今回の検討においてこれを追試した形になりました。規格試験としては結果のばらつきを最小化するためにストライカに潤滑剤を塗布して摩擦を少なくして試験することが規定されています2)。しかしながら、実際の衝突現象ではある程度の摩擦が発生していると考えられるため、CAE解析において摩擦係数の考慮は破断モードや破断強度を予測するために重要であると考えます。さらに、破断ひずみが変形モード(応力3軸度)に依存している場合には多軸応力場において破断モードに影響を与えていることが今回の検討で明らかになったため、変形モード(応力3軸度)も考慮すべき重要な要因(材料特性)であると考えます。

今回、衝撃試験とLS-DYNA解析により多軸応力場における樹脂平板の変形と破断挙動について基礎的な検討を行いました。樹脂材料の破断を高精度に予測するCAE技術について今後も調査研究を進めていく予定です。

参考資料
  • 1) H. Daiyan, 2010, Low-velocity impact response of injection-moulded polypropylene plates - Part 1; Effects of plate thickness, impact velocity and temperature
  • 2) ISO 6603-2, 2000, Plastics-Determination of puncture impact behaviour of rigid plastics-Part 2; Instrumented impact testing

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