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2018.11.08

不連続長繊維強化樹脂の圧縮成形シミュレーション技術の開発

カテゴリー
: 技術情報 / セミナー・イベント
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LS-DYNA / J-Composites

15th LS-DYNA Conference でJSOLが発表した講演の内容を紹介します。

今回取り上げるのは、「不連続長繊維強化樹脂の圧縮成形シミュレーション技術の開発」です。

炭素繊維強化樹脂CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)は、比強度および比剛性に優れる複合材として知られています。航空機分野ではすでに適用が進んでおり機体軽量化を実現していますが、自動車分野においても排出ガス規制の強化に伴って車両軽量化による大幅な燃費向上が求められており、適用拡大が期待されています。

量産車に要求される成形サイクルは1分以内と言われているため、炭素繊維強化熱可塑性樹脂CFRTP(Carbon Fiber Reinforced ThermoPlastic)を加熱してプレス成形する工法が注目されています。強度性能に着目した場合、連続繊維強化樹脂シートのように繊維が連続した強化形態は繊維の優れた機械特性を最も生かすことができますが、立体形状や複雑形状の製品成形には不向きです。そのため、自由な形状に成形することができる不連続長繊維強化熱可塑性樹脂の圧縮成形がクローズアップされています。
強度特性は繊維長に依存し、繊維長が10mm 以上で高強度、40mm 以上で高靱性を発現することが知られています。圧縮成形は長繊維を維持しながら複雑な形状に成形することができるため、高い衝突安全性能を有するCFRTP 部品を短時間で生産することができます。しかし、圧縮成形では繊維配向の局所的なうねりやウェルドラインが形成され、強度特性に影響します。そのため、繊維変形や充填挙動、成形荷重を予測する技術が求められていますが、これらを再現する解析手法は確立されていませんでした。
JSOLはこの課題を解決するため、LS-DYNAによる新しい解析手法を開発しました[1]

LS-DYNAによる不連続長繊維強化樹脂の圧縮成形シミュレーション

JSOLが開発した新しい解析手法では、不連続長繊維をビーム要素、マトリクス樹脂をソリッド要素でモデル化します。ビーム要素とソリッド要素は大変形解析を行いながら、各要素の動きを「ビーム・ソリッドカップリング計算」により強連成させて圧縮成形解析を行います。ソリッド要素の大変形解析では要素形状の崩壊を回避するため、メッシュフリーガラーキン法をベースにしたEFG(Element Free Galerkin)テトラソリッド要素のr-アダプティブ・リメッシュ機能を使用します。これにより、マトリクス樹脂の大変形挙動をソリッド要素で再現することができます。
ビーム・ソリッドカップリング計算は、ビーム要素がソリッド要素と節点を共有することなく、互いの要素の節点(カップリングポイント)の速度と加速度をコンストレイント法で連成させて動きを計算します。なお、コンストレイント法による連成計算はビーム要素の垂直方向に対してのみ行われ、ビーム要素の軸方向に対してはソリッド要素との相対的な移動量(すべり量)に応じて反対方向に抵抗力を負荷させるカップリングオプションを使用しました。このすべり抵抗力の計算は、JSOLが開発したユーザーサブルーチンにより行われます。よって、ここで紹介する圧縮成形解析は、このユーザーサブルーチンを組み込んだLS-DYNAを使用する必要があります。

ビーム・ソリッドカップリングによる不連続長繊維強化樹脂モデル
ビーム・ソリッドカップリングによる不連続長繊維強化樹脂モデル


十字リブ形状圧縮成形試験との比較

本解析手法を評価するため、十字リブ形状圧縮成形試験を行って解析と比較しました。複合材はROS系CFRTPシート(サンコロナ小田(株)製Flexcarbon™)を使用しました。ROS(Randomly-Oriented Strand)とは、多数のストランド(幅12mm の炭素繊維UDテープを長さ25mm で切断したもの)を2Dランダムで配向して積層させた複合材です。Flexcarbon™のマトリクス樹脂は熱可塑エポキシ、繊維体積分率は40% になります。

ROS系CFRTPシート:実物とLS-DYNAモデル
ROS系CFRTPシート:実物とLS-DYNAモデル

十字リブ形状圧縮成形試験の形状図と成形温度条件
十字リブ形状圧縮成形試験の形状図と成形温度条件

圧縮成形試験では十字リブ内にCFRTPが完全に充填され、LS-DYNA解析はこれを再現しました。さらに、ウェルドラインが実物と同様にLS-DYNA解析でも形成されることを確認しました。

圧縮成形最終形状:実物とLS-DYNA解析の比較
圧縮成形最終形状:実物とLS-DYNA解析の比較

LS-PrePostによるモーフィング(動画) 【動画】マトリクス樹脂(ソリッド要素)の変形(左)と炭素繊維(ビーム要素)の変形(右)


強度解析手法の開発

圧縮成形解析の次のフェーズとして、CFRTP成形品の強度を予測するための新しい解析手法の開発を進めています。繊維は圧縮成形解析で得られた最終形状のビーム要素を使用し、マトリクス樹脂は破壊挙動を高精度に計算することができるSPG(Smooth Particle Galerkin Method)要素でモデル化します。ビーム要素とSPG要素をカップリングする新機能(*CONSTRAINED_IMMERSED_IN_SPG)はLSTCにより開発が行われています[2]
JSOLは強度試験を独自に実施して新機能の検証を行い、LSTCの機能開発に協力しながら、新しい解析技術の構築を進めていきます。

強度試験:実物とLS-DYNA解析の比較
強度試験:実物とLS-DYNA解析の比較

J-Composites/Compression Moldingの開発

JSOLは、樹脂・複合材のプロセスおよびプロセスチェーン解析を支援するソフトウェアシリーズ J-Composites をリリースしています。今回開発しました不連続長繊維強化樹脂の圧縮成形解析技術は、J-Compositesシリーズのソフトウェアとしてリリースする計画を進めています。

  • [1] Shinya. Hayashi, Hao. Chen, Wei. Hu; “Compression Molding Analysis of Long Fiber Reinforced Plastics using Coupled Method of Beam and 3D Adaptive EFG in LS-DYNA”, 11th European LS-DYNA Conference 2017, Salzburg, Austria
  • [2] Wei Hu, C.T. Wu, Xiaofei Pan, Shinya Hayashi; “The Immersed Smoothed Particle Galerkin Method in LS_DYNA for Material Failure Analysis of Fiber-Reinforced Solid Structures”, 15th International LS-DYNA Conference 2018, Dearborn, Michigan, USA
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