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プラスチック成形加工学会第26回秋季大会で講演した内容を紹介します。
今回取り上げるのは、「トポロジー最適化の射出成形金型への適応」についての講演です。
本講演では、射出成形金型の材料コスト削減を目的としてトポロジー最適化を実施した事例を紹介しました。
トポロジー最適化について
構造最適化には、主に、寸法最適化、形状最適化、トポロジー最適化の3種類があります(表1)。本講演で取り上げたトポロジー最適化では、細分化された領域内の材料の密度をパラメータとして最適化を行います。そのため、メッシュの変更を伴うことなく自由度の高い最適化を行い、熟練技術者でも容易ではない、新たな最適化構造を得ることができる手法です。そこで、本事例では材料コストの削減に効果的なトポロジー最適化を用いて射出成形金型の構造最適化を行いました。
寸法最適化 | 形状最適化 | トポロジー最適化 | |
---|---|---|---|
最適化パラメータ | 板厚などの寸法 | 対象物の形状 | 細分化された領域内の材料密度 |
特長 | 変更内容がシンプル。 最適化が比較的容易。 | 寸法最適化より良い 最適化結果 | メッシュの変更が不要。 最適化の自由度が高い。 |
問題点 | 結果が初期形状に依存する。 最適構造を得ることが困難。 | FEMによる強度解析にはメッシュの再作成が必要。 最適化に要する時間が長い。 | 構造が複雑となる場合がある。 |
片持ち梁の最適化例![]() |
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射出成形金型について
射出成形は高温の樹脂を金型内に射出し、冷却する手法で、多くの樹脂製品の製造に使用されています。金型には、高圧力で射出される高温の樹脂に耐える強度が要求されます。一般的に、金型の強度と材料コストはトレードオフの関係にあるため、熟練技術者が経験則に基づき材料コストを抑えつつ必要な強度を有した金型を設計していました。しかし、近年の熟練技術者の減少により、経験の少ない技術者が設計・開発を行う必要が生じています。そこで、経験の少ない技術者でも金型に必要な性能を保ちつつ、コストを抑えた金型を開発することを可能とするために、数値計算による構造最適化が注目されています。
最適化問題の設定
図1に、射出成形金型と、この金型で作成する歯車製品の形状を示します。この金型を対象としてトポロジー最適化を実施しました。また、最適化計算のフローを図2に示します。まず射出成形時に金型に負荷される圧力を樹脂流動解析ソフトのMoldex3Dを使って計算し、算出された外力をLS-DYNAに外力として入力して構造解析を実行しました。射出成形時に金型にかかる圧力は衝撃的であるとみなせるため、耐衝撃性を考慮した計算が可能なトポロジー最適化エンジンLS-TaSCと連携させて、金型のトポロジー最適化を実施しました。 本最適化問題では、制約条件を上型と下型の開き量(変位量)とし、材料コストを低減させるため目的関数を質量最小化としました。


トポロジー最適化の実行
前述した最適化問題の設定で、LS-TaSCを用いてトポロジー最適化を実行しました。最適化の過程と最終結果形状を図3に示します。金型の荷重条件・拘束条件が対称であるため、最適化後の金型は平面方向に対称の構造をもちます。四隅の固定箇所(上型と下型を止めるピンを再現)と中央の製品表面付近に構造を残すことで、金型の剛性を維持しています。

最適化結果
図4に、目的関数と制約条件の最適化計算履歴を示します。反復計算20回目以降は目的関数である質量が同レベルで推移しているため、解は収束したと判断できます(実際には反復計算を50回実行しました)。制約条件(上型と下型の変位)は上限値近傍にあり、最適化が適切に実行されたことが確認できます。図5は、金型の初期設計と最適化設計の比較です。左は金型の形状比較、右は金型の質量比較グラフを示します。最適形状では、金型の質量が7.5kgから2.8kgに低減されました。
このように、トポロジー最適化によって、金型として必要な強度を維持しながら、約62%の軽量化が可能であることが確認されました。


射出成形用の金型を対象としたトポロジー最適化の事例を紹介しました。最適化により、金型の開き量を制約値の範囲内に抑えつつ従来の矩形金型に対して62%の軽量化を行うことができました。この結果は、トポロジー最適化は金型作成コストの削減に有効であることを示しています。トポロジー最適化は、さまざまな工業製品で適用されています。CAEを導入することで、熟練の技術者だけでなく比較的経験の浅い技術者にも最適設計を比較的容易に行うことができるため、工業製品のコスト削減に対して有効な手法であると考えられます。