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異なる材料を接合するための解析技術(前編)

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: 技術情報 / セミナー・イベント
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LS-DYNA

JSOL主催の第6回樹脂・複合材解析セミナー 発表した講演の内容を紹介します。

今回とりあげるのは、「異種材料を接合する技術」についての講演です。

近年、自動車に代表される輸送機器の車体軽量化ニーズが増加しています。重量を軽量化しつつ、車体剛性も高めるためには鉄よりも軽い軽金属や樹脂、複合材といったさまざまな材料を適切に配置する必要があります。そのため、異なる材料同士を強く結合することが非常に重要です。

薄肉化による軽量化から材料置換へ

これまでの軽量化は、主に、鉄を高強度化して、その分を薄くすることで重量を軽くしていくという方向性でした。しかし、各部材が薄くなることで相対的に車体の剛性が低くなり、高速走行時の安定性や乗り心地などの向上が難しくなってきました。そこで、鉄よりも質量密度の軽いアルミ二ウムやマグネシウム、樹脂や樹脂複合材などへの材料置換によって、部材の厚みを確保しつつ軽量化を図る設計方針が欧州製の高級車を中心に採用されています。ただし、これらの材料にはいくつかの課題があります。たとえば鉄に比べてライフサイクルコストが非常に高いこと、また、自動車組立ラインで使われる抵抗スポット溶接の適用が困難であることも課題です。抵抗スポット溶接の代替として、接着剤やレーザー溶接、摩擦攪拌接合などが採用されていますが、JSOLでは近年、リベットやドリルといった副資材を用いて異種材料を接合する機械接合のための解析技術構築を推進しています。本レポートではその中で代表的なセルフピアッシングリベット(Self Piercing Rivet/SPR)を用いた事例をご紹介します。

鉄とアルミニウムの接合解析・実機比較

まず、厚みが1mmの鉄(590MPa鋼)と1.5mmのアルミニウム(6061-T6)をSPR締結した事例を取り上げます。LS-DYNAではR8から2Dで解析した結果データを3Dメッシュにマッピングする機能が実装されました。SPRは軸対称形状であるため、2D軸対称でリベットを打鋲する工程を計算し、結果を3Dデータにマッピングして、3Dの締結強度を計算する工程を実行します。打鋲工程後の残留応力を考慮することで、より高精度な締結強度解析が可能となります。次の図に一連のフローを示します。

図1. SPR打鋲-締結連携解析フロー 図1. SPR打鋲-締結連携解析フロー

打鋲試験では、実測による板材の材料特性、切断面の断面写真ならびに打鋲時の最大荷重を使用しました。本事例では、その他、ダイやSPRの形状、材料特性は断面写真や文献などを参照して構築しています。精度良い解析結果を得るためにはできるだけ多くの実機データを取得していることが望ましいです。

実機の締結試験では抵抗スポット溶接の締結強度を評価するためにせん断引張と十字引張試験(どちらもJIS規格準拠)を実施し、さらに追加でピール(剥離)試験も実施しました。試験データは材料や打鋲試験のばらつきを考慮して、N=5(1つの試験で5つデータを測定)のデータを取得しています。より再現精度を高めるために、十字引張試験については試験治具までを形状再現し、試験片と治具の接触を考慮しています。試験片は治具で拘束されていますが、荷重を負荷していくと、この接触面で滑りが発生することが試験時に指摘されています。実際に、十字引張試験では、試験後の治具と試験片の挟み込み位置が動いていることを確認しました。このように、試験片だけでなく、試験機の特性なども解析においては精度を左右する重要な要素となりえるため、注意が必要です。

次の図は、荷重−変位特性の実機との比較です。十字引張試験の最大荷重がやや低く予測されていますが、おおむね実機の特性が再現されています。実機で確認された、SPRの滑り抜けによる荷重低下も、LS-DYNAで再現できています。

青実線:DYNA
黒点線:試験
滑り抜け
DYNA
滑り抜け
実験
十字
引張
動画を
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SPR締結解析_十字引っ張り試験の荷重履歴 SPR締結解析_十字引っ張り試験の解析 SPR締結解析_十字引っ張り試験結果
ピール動画を
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SPR締結解析_ピール試験の荷重履歴 SPR締結解析_ピール試験の解析 SPR締結解析_ピール試験結果
せん断動画を
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SPR締結解析_せん断試験の荷重履歴 SPR締結解析_せん断試験の解析 SPR締結解析_せん断試験結果
図2. SPR締結解析の精度検証

SPG法による解析

ここまではLS-DYNAに備わる従来の有限要素法による手法を用いた事例をご紹介しました。このSPRの特徴はリベットで上板を貫通し、下板に食い込むことで強固な締結力を生み出すことです。このプロセスを解析で精度良く再現するためには、上板を貫通する際の母材破断が重要になります。しかし、従来の有限要素では破断を要素削除という形で表現するため、破断が進行すると、初期に比べて母材の質量が減少します。そのため実機に比べて大きな荷重低下を招き、解析精度の低下につながることが、特に3次元解析において問題となります。

この問題の打開策として、LS-DYNAを開発するLSTC社の技術者はSmoothed Particle Galerkin法(以降、SPGと表記)を開発しました[1]。SPGは粒子法に基づいているため、質量を減少させずに母材破断を表現できます。

図3. SPGの概要 図3. SPGの概要

SPGの入力は有限要素と同じメッシュデータですが、LS-DYNA実行前の初期化の際に、メッシュデータを粒子に自動変換します。粒子同士は近くの粒子とバネでつながったような状態となり(Bond生成)、このバネを介して周囲との間で力の伝達を行います。周りの粒子との間でバネが多数ある状態から、変形が進み、ユーザーが入力した閾値を超えた段階からバネが外れていきます。周りの粒子との間にバネがなくなるとその粒子は荷重伝達能力を失いますが、粒子そのものは質量をもったまま残っているため全体の荷重低下はほとんどありません。バネがゼロになると、粒子は剛体粒子のような振る舞いとなります。以下は、SPGをSPRの打鋲解析に応用した動画です。

動画4. SPG打鋲解析 動画:SPG打鋲解析

SPGはバージョンR8から使用可能です。新しいバージョンでは機能の改善・追加が行われていますので、最新リリース版(2019年3月現在、R10.1)もしくは開発版の利用を強く推奨します。
JSOLは今後も実機データの更なる取得とともに、SPGを用いた解析の精度検証を推進していきます。

次回のエンジニアレポートでは、樹脂複合材と金属の接合解析技術を取り上げる予定です。

なお、本講演の資料はユーザー専用ページで公開しています。
資料ダウンロード(ユーザー専用)>>

  • セミナー名: 樹脂・複合材解析セミナー 第6回
  • 講演名  : 複合材料の強度・衝撃CAE(2)異種材料の接合解析技術
参考資料
  • [1] Youcai Wu, C.T.Wu, Wei Hu; “Parametric and Convergence Studies of the Smoothed Particle Galerkin (SPG) Method in Semi-brittle and Ductile Material Failure Analyses”, 15th International LS-DYNA Conference 2018, Dearborn, Michigan, USA
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