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EVの電磁界解析事例:
人体防護ガイドラインへの適合性の評価

カテゴリー
: 技術情報
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EMC Studio

EV(電気自動車)やHEV(ハイブリッド車)の市場は順調に拡大を続けており、2025年には、世界的な「電動車」市場が2017年の4倍近く、2035年には2017年の約10倍に拡大するという予測もあります。今回のエンジニアレポートでは、電気自動車(EV)に関係した最新トピックとして「電磁界からの人体防護」を取り上げ、電磁界解析ソフトウェアEMC Studioで電磁界に対する人体防護ガイドラインへの適合性を調べた最先端の事例を紹介します。

背景: 電気自動車の電磁環境と人体防護

EVには、車体駆動用のモータ、電力変換用のインバータやコンバータをはじめ、高出力の電動部品や回路が多数搭載されています。これらが動作すると、周辺の空間に電磁界が発生します。強い電磁界を浴びることは人体に影響することが確認されており、EV市場の拡大とともに安全性に対する消費者の関心も高まっています。

電磁界からの人体防護の指針として、ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)のガイドラインをはじめとする安全性評価ガイドラインが作られ、人体内部の電界や人が立ち入る空間の電磁界を一定のレベル以下に抑えることが推奨されています。電動車市場の大規模な拡大を前に、環境だけでなく人にもやさしいEVの開発を推進するため、防護ガイドラインへの適合性を定量的かつ網羅的に確認しようという動きが自動車関連の各社に広がりつつあります。

電磁界解析ソフトウェアEMC Studioはこのようなニーズにいち早く対応し、電磁界の人体防護ガイドラインへの適合性を推定する、最先端のモデリング機能とソルバーを提供しています。今回は、いま最も注目されるワイヤレス充電システムを例に、EMC Studioによる人体防護の計算の具体例を紹介します。

解析事例: ワイヤレス充電時に体内に発生する誘導電界

ワイヤレス充電システムは、車体に搭載されたコイルと路面に埋め込まれたコイルの間で電磁界を通じて充電が行われる仕組みです。所定の場所に車を停めるだけで充電が可能になるため、近い将来の実用化を目指して開発が進んでいます。ただし、ほかの高電圧部品とは異なり、空間に意図的に電磁界を発生させることから、人体への影響をより慎重に評価すること求められます。

図1に、EVのワイヤレス充電時の漏えい電磁界解析モデルの外観を示します。車体、車載用の充電コイル、路面側の送電コイルの形状をメッシュ化し、各部に材料特性と充電時の回路条件を設定しています。そして、成人男性の人体モデルを合計3体、車体のすぐ左横に配置しています。EMC Studioには、体組織ごとに異なる電気特性(誘電率、電気伝導率)をもたせた詳細な人体ボクセルモデルがあらかじめ用意されており、姿勢をマウス操作で簡単に変更できる機能も搭載されています。

図1. EVのワイヤレス充電時の漏えい電磁界解析モデル 図1. EVのワイヤレス充電時の漏えい電磁界解析モデル

図2は、耳付近を通り身体を前後に分けるような断面における100 kHzの電界分布の結果を、各人体位置についてコンター図で示したものです。

図2. 100 kHzの体内電界分布(計算結果)のコンター図 図2. 100 kHzの体内電界分布(計算結果)のコンター図

この図から、コイルに近い足元だけでなく、コイルから離れた頭部にも電界が誘導されることがわかります。また、コイルに最も近い位置Bよりもコイルからの距離が遠い位置Aのほうが、強い電界が生じる傾向も見られます。このように、直感的な予想が難しい現象を推定できることは、シミュレーションならではのメリットと言えます。

図3は、解析で確認された体内における電界の最大値を、ICNIRPガイドラインが定める値(基本制限)と比較した結果です。今回の条件下では、十分なマージンをもってガイドラインに適合していることが確認できます。

図3. 体内電界(計算結果)の最大値とICNIRPガイドラインの比較 図3. 体内電界(計算結果)の最大値とICNIRPガイドラインの比較

このように、試作車を作る前の段階で、実際の状況を想定したガイドライン適合性評価を行えることは、シミュレーションの大きな利点です。生体内の電界は実測する自体がきわめて難しいため、必然的にシミュレーションなどの理論的なガイドライン評価手段が必要とされます。

人体防護を目的とする電磁界解析は、今後さらに重要になっていくと思われます。電磁気学的な意味で人にやさしいEVの開発に、EMC Studioの先進機能をぜひお役立てください。EMC StudioおよびEV関連の解析ソリューションについては、こちら からお問い合わせください。

JSOLは、自動車の電子システム、アンテナ、電装品、センサーの開発・設計を、電磁界解析ソフトウェアEMC Studioでバックアップしています。今回ご紹介した人体暴露解析事例以外にも、電磁界解析事例をこちら に多数掲載しています。

参考文献
  • 名古屋支社 調査・編集(2018)「HEV、EV関連市場徹底分析調査 2018年版」 富士経済.

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