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劇中の土質屋山田さんはどれくらい正しいのか
〜水と土の衝撃吸収性能を検討する〜

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: 技術情報
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LS-DYNA

CAEブログ『マジンガーZ の「バーチャル実験」〜LS-DYNA による格納庫の衝撃・安全解析と超合金Zの物性評価〜』で紹介した、格納庫の上の汚水処理槽の「水」を「土」に置き換えると、本当に防御力は向上できるのか? という課題に対して数値解析による検証を行った事例を紹介します。

図1  ALEを用いた水の解析結果CG動画(blender®による) 図1 ALEを用いた水の解析結果CG動画(blender®による)

水と土が入った汚水処理槽のモデル化

映画『前田建設ファンタジー営業部』の劇中では水と土粒子モデルで汚水処理槽の形状が異なります。水が入った処理槽では床から水を抜くようにスライド式になっているためV字型になっており、土が入った槽ではリフトアップ式のため開閉する必要がないことからフラットな床面となっております。水と土の槽の幅はどちらも8,000 x 8,000mm、水深は4,333mmとしました。

解析モデルでは、飛来物が大きく移動し接触する可能性があることを考慮しました。水のモデル化はALEを用いて水相当の物性値を与えてモデル化し、土はDEMを用いて土粒子をモデル化します。使用する手法の選択には『流体解析機能の使い分けと使い方』(ユーザー限定)を参考にしております。

図2  水と土の解析モデル 図2 水と土の解析モデル

ALEについては『地球帰還船の不時着水時の衝撃解析 − ALE 流体構造連成解析 −』(JSOL解析事例)および『有人安全性に関する研究―衝撃荷重下の乗員傷害リスク評価手法の開発手順―』(JAXA)などでLS-DYNAによる着水解析の使用例をご覧いただけます。一方、LS-DYNAのDEMを用いた土の解析は例が少ないため、各パラメーターの導出のポイントを簡単にご紹介します。

DEMの時間増分を決定

初めにDEMにおける時間増分を決定します。

DEM要素の物性値として入力したヤング率およびポアソン比は時間増分に影響し、後述するペナルティ剛性にも影響するため、適切な値を入力する必要があります。
粒子同士が接触した1ステップ後に、粒子の直径以上の変位量があった場合には、本来押し返したい方向とは逆方向に押し返してしまう、いわゆるすり抜けが発生します。すり抜けが発生すると解析精度が低下してしまうため、それが発生しないように粒子径と最大速度から時間増分を決める必要があります。
今回は、経験的な数字に基づき、接触時のめり込み許容量を半径の1/2以下にした場合に50回程度、半径の1/2内で反力を与え続けることができる時間増分を算出し、その時間増分が上限となるように設定しました。

DEMのペナルティ剛性を決定

DEM同士の接触は粒子間にバネとダンパーがあり、荷重の中にある貫入量にかかる係数がペナルティ剛性です。

ペナルティ剛性は接触対それぞれの半径(板厚)、質量、速度、剛性、境界条件のすべてを考慮して決める必要があります。つまりどのような物体をモデル化しているか、どのような現象を解きたいかによって変えなければなりません。
今回は物性と粒子の大きさが同じ粒子を仮定し、ペナルティ剛性によって吸収可能なエネルギー > 衝突直前の運動エネルギーという制約式を使用しました。

土粒子の初期配置の計算

DEMの時間増分とペナルティ剛性を決めることができたため、続いてDEMの初期配置の計算に移ります。

DEM要素の作成はLS-PrePostにより領域と半径を入力することで作成可能です。しかし作成されたDEM要素は密な状態ではないため、重力をかけると堆積高さが変化してしまいます。さらに粒子はバウンドします。イメージとしてはたくさんのスーパーボールを箱に一気に落としたような状態です。そのため、安定した状態になるまで多くの計算時間を要するといった課題があります。

図3  土粒子堆積時の課題 図3 土粒子堆積時の課題

堆積高さは、初期配置の高さに依存しているため、いくつか初期配置の高さを変えた計算を実施し、堆積高さを計測、目標の堆積高さになるような粒子の初期高さを算出しました。

図4  初期高さによる堆積高さの検討 図4 初期高さによる堆積高さの検討

続いて粒子のバウンドの対策です。DEM要素全体に質量減衰を与えることで粒子のバウンドを抑えることができます。

図5  減衰による安定姿勢までの収束時間の短縮 図5 減衰による安定姿勢までの収束時間の短縮

減衰のない0.0の結果に比べ、減衰を与えた0.9の結果は反力の振動を早い時刻で抑えることができており、0.0の振動の中心値付近で収束していることがわかります。なお、ここでの減衰とは粒子間のダンパーに与える減衰ではなく、粒子の運動自体に与える減衰を指しています。
ここまでで、土粒子が安定した状態の計算結果がでました。この安定状態を初期配置として引き継ぐことで、土粒子が堆積した状態をモデル化することができます。

水と土の衝撃吸収性能の解析

土粒子の堆積した状態をモデル化できたため、飛来物に対する水と土の衝撃吸収性能を検討する解析を実施します。飛来物は以下の図にあるような状態で配置します。飛来物の境界条件は初速度:100km/h、回転速度:3.3567rad/s、侵入角:45°、重力を考慮して計算します。なぜこのような境界条件になったのかについては『第2回:出撃! 山田さんって正しいですか!?(前編)』を参照してください。

図6  飛来物の解析条件 図6 飛来物の解析条件

初期状態および飛来物の設定が完了したため、水と土の飛来物に対する衝撃吸収性能の計算を実施します。以下が解析結果アニメーションです。

図7  水と土の解析結果アニメーション動画 図7 水と土の解析結果アニメーション動画

水では飛来物が処理槽の側面に接触しているのに対して、土では衝撃を吸収できていることがわかります。 次に飛来物の加速度履歴を比較します。

図8  飛来物の加速度グラフ 図8 飛来物の加速度グラフ

加速度履歴から、飛来物の加速度が高く出ているほど速度が急激に変化していることが分かります。土ではグラフの前半で加速度が全体的に高く出ることで、飛来物の衝撃を吸収できておりますが、水では0.4秒付近で加速度ピークが出ており、壁面に接触したことで飛来物の速度が大きく変化したことがわかります。

防御力は水より土が上なのか その答え

映画『前田建設ファンタジー営業部』劇中で提示された、汚水処理槽の「水」を「土」に置き換えると防御力は向上するのか? という問いに対して、「水」を「土」にすることで防御力が高くなるということが、数値解析により証明できました。

このプロジェクトでは、架空の現象を「バーチャル実験」するというコンセプトのもと、LS-DYNAに実装されているFEM、ALE、DEMといった複数の手法を組み合わせて解析を行いました。なかでも、DEMによる土のモデル化についてはこれまでLS-DYNAでの適用例があまり見られませんでしたが、本プロジェクトによりLS-DYNAによる実用的な土質のモデル化の可能性を見出しました。また、CAE解析結果を直感的にわかりやすく見せる方法として解析結果のCGアニメーション化に挑戦し、最初にご紹介した動画にあるように、スケール感や質感をリアルに表現することができました。

これからもJSOLは豊富な経験と知見を生かしながら、新たな挑戦を続けてまいります。

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前田建設ファンタジー営業部
劇中の土質屋山田さんはどれくらい正しいのか」編

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公式サイト

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