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SAEジャーナル掲載:
異方性損傷進展を考慮した複合材モデルの構築

カテゴリー
: 技術情報
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LS-DYNA

本田技研工業株式会社様(以下、本田技研様)と株式会社本田技術研究所様(以下、本田技術研究所様)、JSOLが共著で投稿した論文が、昨年度に引き続きSAE International Journal of Advances and Current Practices in Mobilityに掲載されます。

掲載先

Hayashi, S., Kan, M., Saito, K., & Nishi, M. (2019). Material and Damage Models of Randomly-Oriented Thermoplastic Composites for Crash Simulation. SAE International Journal of Advances and Current Practices in Mobility, 1(2019-01-0814), 1420-1434.

Hayashi, S., Kan, M., Saito, K., & Nishi, M. (2020). Anisotropic Material Damage Model of Randomly Oriented Thermoplastic Composites for Crash Simulation “submitted for publication (SAE International Journal of Advances and Current Practices in Mobility)“

車体の軽量化が求められる中、本田技研様および本田技術研究所様では、軽量化効率が高く成形性や生産効率に優れたRO-FRTP(Randomly Oriented long Fiber Thermo-Plastics)の適用を研究課題の1つとして取り組まれてこられました。上記の論文では、RO-FRTPの損傷やその進展特性の詳細な分析をもとに数値シミュレーションで使用する損傷(ダメージ)モデルを構築し、高い予測精度を実現したことが報告されています。シミュレーションで使用する損傷モデルの実装には、LS-DYNAおよびユーザー物性機能をご活用いただきました。

この損傷モデルは、RO-FRTPのように面外異方性が強く、損傷挙動が複雑な薄板材料を扱う際に役立ちます。シェル要素を用いることで、計算コストを抑えながら、部品全体の変形モードやエネルギー吸収性能を高精度に予測できます。

衝突解析におけるRO-FRTPモデル化の課題

RO-FRTPは、約1インチの炭素繊維を樹脂シート内にランダムに配向させた複合材料です。繊維強化樹脂材料では、一般的に、マイクロクラックや繊維の破断などの微視組織の損傷や進展が、材料のマクロな剛性低下や非線形特性として現れます。衝突解析を代表とする大変形解析では、これらの現象の再現性が予測精度に大きく影響します。RO-FRTPにおいても、変形時における損傷特性の解明とモデル化がCAEを用いた設計の課題となっていました。

Fig.1 RO-FRTPの概念図 Fig.1 RO-FRTPの概念図

損傷進展の分析と損傷モデルの構築

本田技研様および本田技術研究所様では、さまざまな試験手法の考案や計測、シミュレーションを用いた詳細な分析を通し、予測精度に影響するRO-FRTPの損傷特性を同定しました。RO-FRTPの損傷特性には、圧縮・引張で進展の傾向が異なるといった変形モードの依存性が認められます。また、RO-FRTPでは、繊維が配向しない面外方向の特性と面内特性の差異が顕著であり、これらの特性は損傷の影響を受けて変化します。この面外・面内特性の変化は、三点曲げなどRO-FRTPの基本特性を再現する上で非常に重要です。さらに、面内の変形主軸とその直交方向で損傷の進展度合いが異なるなど、損傷進展の異方性が認められます。この特性は、ハット型ビームの軸圧潰のように、載荷方向と直角となる周方向の拘束力が反力に影響するような変形モードで重要です。

Fig.2 RO-FRTPの損傷特性(損傷の変形モード依存性と進展の異方性)Fig.2 RO-FRTPの損傷特性(損傷の変形モード依存性と進展の異方性)

ユーザー物性機能を用いた損傷モデルの構築

着目した特性から材料モデルの要件を精査し、LS-DYNAのユーザーサブルーチンを用いてRO-FRTPの特性(変形モード依存、面外特性、異方性進展)を再現する損傷モデルの構築を段階的に試みました。
損傷進展の変形モード依存性を考慮するため、GISSMO(Generalized Incremental Stress State dependent damage Model)[1] を応用した損傷モデルを導入しました。GISSMOは、応力状態に依存した破壊定義を可能とする蓄積型損傷モデルで、近年、金属材料を中心に衝突解析の分野で盛んに適用されています。本モデルをRO-FRTPの損傷進展に適用することにより、圧縮、引張、せん断といった異なる変形モードにおける損傷特性を再現することに成功しました。面外特性については、面内の損傷値を考慮しながら面外の損傷値を評価するアルゴリズムを実装することで、曲げ時の板厚方向における損傷進展を再現しました。これらの機能を実装した損傷モデルを用いることで、コンポーネントの三点曲げ解析では、試験を良好に予測することができました。

Fig.3 ハット型ビームの三点曲げ解析結果(荷重−変位関係と損傷値コンター)Fig.3 ハット型ビームの三点曲げ解析結果(荷重−変位関係と損傷値コンター)

異方性のある損傷進展特性については、面内応力の主軸とその直交方向の損傷値増分に相違を持たせることでモデル化しました。本特性の再現により、軸圧潰時におけるエネルギー吸収量の予測を大幅に改善しました。

Fig.4 動的軸圧潰解析結果(荷重―変位関係と損傷主軸コンター)Fig.4 動的軸圧潰解析結果(荷重―変位関係と損傷主軸コンター)

論文では、構築した損傷モデルの詳細やより多くの検証計算結果を掲載しております。論文は、下記サイトよりダウンロード可能です。ダウンロード方法などの詳細はリンク先をご確認ください。

Material and Damage Models of Randomly-Oriented Thermoplastic Composites for Crash Simulation

Anisotropic Material Damage Model of Randomly Oriented Thermoplastic Composites for Crash Simulation

参考
  • [1] Andrade, F. X. C., Feucht, M., Haufe, A., & Neukamm, F. (2016). An incremental stress state dependent damage model for ductile failure prediction. International Journal of Fracture, 200(1-2), 127-150.

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