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JSTAMPとAnsys nCode DesignLifeによる
プレス金型疲労解析のケーススタディ

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Ansys nCode DesignLife / JSTAMP

プレス加工は金型の形状を素材に転写することで安価に・素早く加工できる生産技術です。生産性が高く大量生産に適しているため、産業界では幅広く利用されています。量産用のプレス金型は、製品によっては耐用ショット数が100万を超えるオーダーとなり、金型の耐久性が求められます。

しかし、金型の耐久性を十分な根拠を持って事前に評価することは容易ではありません。そこで、本記事では、JSOLが提供するCAEツールを活用して、金型の耐久性評価という課題に向き合ってみたいと思います。具体的には、プレス成形シミュレーションシステム:JSTAMPが有する弱連成/強連成金型たわみ機能と、疲労解析ツール:Ansys nCode DesignLifeを利用した、プレス金型の疲労解析のケーススタディをご紹介します。

テストケース

自動車部品の一種、Fenderの絞り成形金型を利用してテストを行います。テストケースは2つです。
ひとつは疲労解析の入力をできるだけ簡略化したケースです(以後、Case Aと呼びます)。CaseAでは、まずJSTAMPで通常の成形解析、すなわち剛体シェル要素の金型モデルを使った成形解析を行います。続いて、得られた最終ステップの接触力を、JSTAMPの弱連成金型たわみ機能を利用して金型モデルにマッピングし、陰解法による金型の構造解析を行います。最後に、金型の構造解析の結果をAnsys nCode DesignLifeに入力し、一定振幅の疲労解析を行います。Case Aの一連のスキームを図1に示します。陰解法による金型構造解析は計算時間が短いため、金型構造設計の初期段階などで、設計変更の影響を素早く確認し、繰り返し構造性能と疲労の評価を行いたいときに便利な手法と言えます。

図1:Case Aの解析スキーム 図1:Case Aの解析スキーム

もうひとつは、疲労解析の入力を実働荷重に近づけることを想定したケースです(以後、Case Bと呼びます)。CaseBでは、JSTAMPの強連成金型たわみ機能(※)を利用して素材の成形と金型の変形を陽解法で同時に計算します。すなわち、成形途中の金型構造の応答も評価できます。ここで出力された複数のステップの結果を、後続の疲労解析の入力とします。図2にCase Bのスキームを示します。金型構造解析を主役にみると、成形解析を含む分計算時間は増えますが、金型挙動の変化をつぶさに捉えられるため、より丁寧な評価を行いたいときに適した手法と言えます。

図2:Case Bの解析スキーム 図2:Case Bの解析スキーム

Case A、B の違いを改めてまとめると、Case Aでは陰解法による単一ステップの構造解析結果を利用して疲労解析を行います。1ショットあたりの荷重はこれを倍率0〜1で単調に変化させたものです。すなわち、全体の荷重サイクルとしては片振り一定振幅の振動で表されます。一方Case B では、1ショットの荷重として複数のステップの構造解析結果が参照され、1ショットの中での部位ごとの応力の変動が考慮されます。この繰り返しが全体の荷重サイクルになります。こうした荷重定義方法の違いによって疲労解析の結果にどのような差が生じるか見ていきます。

なお、疲労解析では応力寿命法を利用し、Goodmanの平均応力補正を適用しています。金型の材質はFCD400と仮定し、S-N線図は物質・材料研究機構(NIMS)が発行している疲労データシートから作成しました。図3にS-N線図を示します。

図3:S-N線図(FCD400) 図3:S-N線図(FCD400)

解析結果

それでは解析結果を紹介します。なお、本結果はあくまでFeasibility Studyのためのバーチャルテストであるため、評価値の絶対評価というよりは、両者の相対的な差に着目します。

図4に疲労解析で得られたPunchの疲労寿命ショット数のカラーマップを示します。最短の疲労寿命ショット数はCase Aで2.661E19、Case Bで3.447E14となっています。(あくまで参考値ですが、どちらの結果も疲労強度としては良好な結果と言えます。むしろ過剰品質とも取れるので、さらに設計を効率化することもできそうです。)相対比較ではCase Bの方が疲労寿命はかなり短くなっています。最小値の位置は両者で少し異なりますが、どちらもPunchのプロファイルライン下部のリブ境界となっています。また、全体の分布を見ると、Case Bの方が危険部位の多い結果となっています。

図4:Punchの疲労寿命

図4:Punchの疲労寿命

(a) Case A (b) Case B
図4:Punchの疲労寿命

図5にHolderの疲労寿命ショット数を示します。寿命はCase Aで4.923E21、Case Bで6.567E18となっており、こちらもCase Bの方が寿命を短く評価しています。位置はどちらもダブルビード部です。

図5:Holderの疲労寿命

図5:Holderの疲労寿命

(a) Case A (b) Case B
図5:Holderの疲労寿命

図6にDieの疲労寿命ショット数を示します。寿命はCase Aで2.126E18、Case Bで1.716E15となっています。やはりCase Bの方が寿命を短く評価しています。Case Aではダイフェースの裏側に位置するリブで最小値を示す一方で、Case Bではスライドとの拘束部となっており、位置にも明確な違いが現れました。

図6:Dieの疲労寿命

図6:Dieの疲労寿命

(a) Case A (b) Case B
図6:Dieの疲労寿命

考察

それではこうした違いが生じる原因について考察してみます。まず、両者は疲労解析のinputとしている構造解析結果の算出プロセスが異なっています。図7は、Case Aで利用した陰解法の構造解析結果と、Case Bで利用した陽解法の解析結果の最終ステップです。ここでは最も寿命が短かったPunchの相当応力のカラーマップを示します。Case Aは通常の成形解析の最終ステップの接触力を使って構造解析を行いましたが、それとCase Bの強連成たわみ機能の最終ステップを比較しても、結果に差があることがわかります。このように、算出プロセスの違いにより構造解析結果に定量的な差異が生じ、それが疲労解析における応力振幅の差に転嫁されたと考えられます。

図7:構造解析の結果(相当応力)

図7:構造解析の結果(相当応力)

(a) Case A (b) Case B
図7:構造解析の結果(相当応力)

次に、Case Bの強連成金型たわみ解析の結果を利用して、成形途中の応力の変化についても確認します。図8は、それぞれのツールで高い応力値を示していた部位における相当応力の時刻歴です。時刻歴を見ると、部位によって応力が上昇するタイミングや速度が異なることや、時間の経過とともに変化していることがわかります。例としてPunchのグラフをみると、4つのポイントで応力の上昇タイミングが異なっているのがよく分かります。また、一部は成形途中でいくつかピークを迎え、終了間際では下降していることもわかります。
こうした挙動が、Case Bの疲労解析におけるサイクルカウントに影響を及ぼしていると考えられます。

図8 (a) 相当応力の履歴(Punch) 図8 (a) 相当応力の履歴(Punch)

図8 (b) 相当応力の履歴(Holder) 図8 (b) 相当応力の履歴(Holder)

図8 (c) 相当応力の履歴(Die) 図8 (c) 相当応力の履歴(Die)

以上の通り、今回のテストでは、構造解析結果の定量的な差異に起因する応力振幅査定の違いと、過渡応答データの有無によるサイクルカウントの違いという2点を主たる理由として、疲労解析の結果に違いが生じていると考えています。
また、裏を返せば応力の発生状況が単調な金型では、Case AとCase Bであまり差が出ない可能性も考えられます。

おわりに

本記事では、JSTAMPとAnsys nCode DesignLifeによるプレス金型の疲労解析を紹介しました。2つの荷重定義方法でケーススタディを行い、結果の違いを確認しました。なお、今回ご紹介した内容はバーチャルテストの事例であるため、どちらの方法が優れているかを結論付けるものではありません。また、耐用ショット数の予測精度を上げるためには、実機や計測データとの比較など、多くの検証が必要です。

一般的には、疲労破壊はばらつきのある現象であることから、製品の寿命は不確かなものかもしれません。さらに、先述のように金型の設計段階で疲労強度を体系的に評価するのはとても難しいことです。本記事で紹介したような手法を拠り所として疲労強度の議論を深めて、疲労耐久設計を標準化する一助となれば幸いです。

※強連成金型たわみ機能についてはこちらの記事をご参照ください。

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