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き裂による特異応力場の新しい評価手法
〜特性テンソルを用いた溶接残留応力場における三次元き裂の評価〜

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:技術情報 / 機能紹介
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き裂による特異応力場の評価の課題

機械部品の破損の多くは、き裂による疲労破壊に起因しています。構造物の安全性や機能性を確保するためにも、き裂の挙動の予測は重要です。溶接部に発生するき裂に対しては、残留応力場がき裂の挙動に大きく影響されることが知られています。そのため、溶接構造物の評価では、残留応力を考慮することが重要となります。

き裂の進展に関わる評価は、応力拡大係数やJ積分を代表とする破壊力学パラメーターに基づいて行われます。数値計算におけるこれらの物理量の算出には、モデリング上の制限も多く、通常の応力解析と比較して評価の難易度は高くなります。「One codeで手間なく実現できる疲労き裂進展解析」でご紹介したAnsys MechanicalのSMARTは、これらの問題を解決し、より簡単にき裂進展解析を実施することができます。しかし、一方で、溶接構造物を対象とした場合には、残留応力場の考慮方法は一般的ではありません。

JSOLは大阪大学接合科学研究所にご協力いただき、特性テンソル法と呼ばれる新しい特異応力場の評価手法を開発しています。本手法では、応力解析結果から粗いメッシュで簡単に弾性体中のき裂の評価が可能です。また、溶接解析の結果を取り込むことで、残留応力の影響を考慮することも可能になります。今回は、補修溶接を想定した三次元残留応力場におけるき裂の評価を、特性テンソル法により実施した事例をご紹介します。

特性テンソル法

特性テンソル法は、大阪大学接合科学研究所の村川英一教授により提案された手法です。本手法では、き裂近傍の応力場から計算される特性テンソルと呼ばれるテンソル量を用いて、応力特異性を評価します。特性テンソルは応力解析結果から簡単に計算できますが、破壊力学パラメーターである応力拡大係数と比例関係となります。本手法を用いることで、特性テンソルから応力拡大係数を算出して破壊力学パラメーターに基づいた信頼性のあるき裂の評価が可能となります。

以下は、三次元き裂のき裂前縁で発生する混合モードの応力拡大係数を、特性テンソル法を用いて算出した事例です。き裂前縁に沿った応力特異場の変化を良好な精度でとらえています。また、特性テンソル法では、自動メッシュ生成と親和性が高い四面体二次要素を用いることが推奨されます。複雑なき裂の形状モデル化にも対応が可能です。

特性テンソル法による応力拡大係数の算出[1] 特性テンソル法による応力拡大係数の算出[1]

溶接残留応力場におけるき裂の評価

溶接残留応力場中のき裂の評価を特性テンソル法により実施します。今回は補修溶接を想定し、熱弾塑性解析による溶接解析を実施して残留応力場を取得します。材料はSUS306Lを想定し、温度に依存した材料特性を入力します。溶接解析については、Ansys LS-DYNA およびJWELDで実施することができます。

補修溶接を想定した溶接シミュレーション(応力分布(左)と温度分布(右))補修溶接を想定した溶接シミュレーション(応力分布(左)と温度分布(右))

き裂の評価においては、溶接解析と比較して高い解像度で応力分布を補足することが重要となります。そのため、特にき裂周辺においては、細かいメッシュを配置する必要があります。一方、溶接解析においては、局所的に小さいメッシュを用いることは計算時間の著しい増加につながります。また、き裂が発生する位置をあらかじめ特定しておく必要があるという制約も生じます。この問題を回避するため、溶接解析で得られた応力分布をき裂の評価用のメッシュにマッピングすることが推奨されます。以下は、溶接解析の結果を楕円き裂が導入されたメッシュにマッピングし、応力の再分配を行った結果です。溶接残留応力場により、特異応力場が形成されている様子がわかります。ここで示した解析結果のマッピングは、Ansys LS-PrePostで実施することができます。

溶接解析結果のマッピングと残留応力場による特異場の生成 溶接解析結果のマッピングと残留応力場による特異場の生成

溶接残留応力場に導入されたき裂前縁に沿って、応力拡大係数を算出しました。黒のマーカー(◆)は、残留応力場における応力拡大係数の推定法である重み関数法による推定値です。き裂の自由表面付近、き裂の最深部において、特性テンソル法で算出した応力拡大係数は重み関数法による値と良好に一致しています。本手法では、き裂前縁に沿って連続的に変化する特異性を簡単に評価することができることも特徴のひとつです。

溶接線止端部に導入したき裂の特異応力場(左)と応力拡大係数の算出値(右)CT : 特性テンソル法 WFM:重み関数法 溶接線止端部に導入したき裂の特異応力場(左)と応力拡大係数の算出値(右)
CT : 特性テンソル法 WFM:重み関数法

終わりに

本記事では、大阪大学接合科学研究所と共同で開発を進めている、溶接残留応力を考慮した新しいき裂の評価手法をご紹介しました。

Ansys LS-DYNAやJWELDを用いて溶接解析を実施し、Ansys LS-PrePostや当社で開発を進めてきた特性テンソル法を用いることで、簡単に溶接残留応力場中のき裂の評価が可能です。今回ご紹介しました評価技術にご興味がありましたら、こちらからお気軽にお問い合わせください。

材料・部品の破損に対する予測は、構造物の保守計画や製品設計にとって重要な技術となります。JSOLでは、本分野の技術開発を引き続き実施し、お客様のものづくりに貢献できるソリューションを提案してまいります。

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