
CAE Technical Library 注目機能紹介 - CAE技術情報ライブラリ
自動車衝突をはじめとするさまざまな衝撃分野のシミュレーションに利用されているAnsys LS-DYNAは、one code strategyをコンセプトに、追加オプション不要の1つのモジュールでマルチフィジックスを解くことができる連成機能をこれまで開発してきました。近年では、電気−熱−構造の連成によるバッテリーの短絡や発熱予測への適用も始まっています。
図1 Ansys LS-DYNAの各分野における機能と連成一覧
精度の高いバッテリー解析を行う場合には、充放電特性の入力が欠かせません。バッテリーに限らず、一般的にシミュレーションを実施する際には、扱う現象に合わせて物性値(もしくは特性値)を入力する必要があります。必要となる物性値はシミュレーションで使っているモデルによってさまざまですが、材料試験の結果と手計算では物性値を決められない場合もあります。このとき活躍するのが、最適化ソフトウェアによるパラメータ同定技術です。
最適化ソフトウェアは、一般的に、設計空間内の最適な応答値を探索するために利用されます。パラメータ同定に利用する場合は、求めたい物性値を変数として変化させ、得られた応答が目標値に最も近くなる値を同定することができます。しかしながら、最適化ソフトウェアは、その数こそ増えているものの、『誰でも簡単に最適化によるパラメータ同定が行えるようになっている』とはまだ言いきれません。最適化ソフトウェアの普及のためにクリアすべき課題を、ここでは技術面から3つ列挙します。
- ● 試験結果の前処理用エクセル等、最適化フローに含まれない部分は別途用意する必要がある
- ● 最適化フロー構築や最適化アルゴリズムの選定には知識と経験が必要となる
- ● ユーザーひとりひとりが最適化ソフトの操作方法を習得しなければいけない
これらの課題を解決するために有効な手段として、Ansys optiSLangの主力機能であるプロセスインテグレーションがあります。プロセスインテグレーション(PI)とは、名前の通りプロセス=処理、をインテグレーション=構築、するための考え方です。Ansys optiSLangには多くのプロセスを表現するためのブロックがあらかじめ用意されており、これらのブロックをつなぎ合わせることで、自由にフローを構築し、最適化によるパラメータ同定を行うことができるようになっています。
図2 Ansys optiSLangとAnsys LS-DYNAの連携イメージ
本記事では、Ansys optiSLangのプロセスインテグレーションの活用例として、バッテリー充放電特性の同定事例を紹介します。(Ansys optiSLangの概要はこちら。)
PIによるバッテリー充放電特性の同定
パラメータ同定手順の例として、バッテリー充放電特性のフィッティング手順概要を図3に示します。バッテリーセルのBMS(バッテリーマネジメントシステム)を開発するためには、バッテリーの充放電特性を回路モデルとして表現する必要があります。今回は、Ansys LS-DYNAに実装されるRandles回路(図4)と呼ばれる等価回路を利用しました。HPPC試験から得られる各充電率における電圧の時刻歴データから、OCV、R0を求めた後、最も良く充放電カーブを表現できるR10、C10を最適化により同定します。これらの手順をAnsys optiSLangのプロセスインテグレーション機能で表現したものを図5に示します。
図3.バッテリー充放電特性フィッティングフロー
図4.Randles回路モデル
図5.Ansys OptiSLnagによるプロセスインテグレーション例
Ansys OptiSLnagによるプロセスインテグレーションの特長として、通常はエクセル等を使って最適化フローの外部で行うことが多い、HPPC試験からのOCV、R0の取得処理も含まれていることが挙げられます。ユーザーは処理の内容や使用するプログラムに依らず、既定の項目を入力するだけで、任意の処理をAnsys optiSLang上で管理することができ、結果を手間なく得られるようになります。さらに、シミュレーションや最適化に入力した値そのものの妥当性も検証が可能で、必要に応じて変更・修正を行えます。
また、Ansys optiSLangで作成したプロセスのプロジェクトファイルはメンバー同士で共有することができます。共有されたプロジェクトファイルを利用することで、複雑な操作やフローの構築、アルゴリズムの選択に悩まされることなく、パラメータ同定を行うことができるようになります。各担当者は自分が関係する、もしくは関心のあるプロセスを変更することで、カスタマイズすることも容易です。
最後に、同定したパラメータとフィッティング後の結果を図6に示します。同定前後での各充電率のパラメータを見ると、SOC40%以上の範囲でC10が初期値から大きく変わっていることが分かります。その結果、1C充電曲線も試験結果によく一致するようになりました。
図6.同定後パラメータ(左)とフィッティング後の結果(右)
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