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CAE Technical Library インタビュー - CAE技術情報ライブラリ

計測技術の進歩で活きる!Simpleware softwareとAnsys LS-DYNA連携
〜 現場で活用できる“熟練者のスキルの定量化” 〜

カテゴリー
:技術情報 / その他
関連製品
Ansys LS-DYNA / Simpleware Software

お話を伺った人

慶應義塾大学教授 理工学部機械工学科 博士(工学) 高野 直樹 氏

  • 慶應義塾大学教授 理工学部機械工学科 博士(工学) 高野 直樹 氏

インタビューのポイント

高野先生は、「統計的手法に基づく確率的なシミュレーション」の技術開発をとおして“熟練者のスキルの定量化”に取り組まれています。
複合材料の構造設計や3Dプリンティングによる積層造形などの工業製品にくわえ、高度なスキルが求められるバイオメカニクスによる医療用デバイスの開発までも対象に、5年先、10年先を見据えた新しいCAEの技術を研究されています。「現場で活用できる状態で提供したい」と語る先生に、最新の研究状況を伺いました。

慶應義塾大学様導入事例(Simpleware Software)

― まず、先生の専門分野をお聞かせください。

高野 一般的な言葉で言うと、「計算力学」が私の専門です。ここ10年ぐらい「確率的なシミュレーション法」の開発を、主たる研究テーマにしています。分かりやすく言えば、人間が成長することで個体差が生まれるように、工業材料でも製造プロセスの中でバラつきが発生する。そういった事象を数理的に表現し、シミュレーションする手法の開発をしています。

― 「確率的なシミュレーション」とはどういったことでしょうか。

高野 例えば「3Dプリント」のような新しい製造法は失敗の連続です。職人さんが長い時間を掛けて培ったスキルや失敗の経験を総動員して、何とか作っているのが現状です。そのような職人さんのスキルや経験値を、数学とか数理的に表現したい、というのが私の希望になります。

高野 直樹 氏

また、医学の分野でも、さまざまな長い経験の中で培われたスキルを持っておられるゴッドハンドと呼ばれるような手術の名医のスキルを、数理的に表現してシミュレーションしたいと思っているんです。

「3Dプリント」にしても、まだ国内で盛んになってからそれほど時間は経っていません。技術の伝承が起こりつつある企業さんにシミュレーションで貢献したいと思いますし、彼らのスキルの獲得に負けないスピードで研究していきたいとも思っています。

― 製造分野では、どのように活用されているのでしょうか。

高野 製造でも失敗例は大量にあると思うのですが、人間は「知りたい欲」が強いので、失敗しても記録を残す前にすぐ直し、次をやりたいと思ってしまう。結果的に、失敗例は利用できる形でほとんど残っていないのが実情だと思います。私はそういう失敗をシミュレーション上できちんとデータベース化して、発生確率を含めて確率的に扱うことで、知のデータベース、技術の伝承につながる「ナレッジのデータベース」が作れないかと思っているところです。

― 使われるユーザーのことを強く意識されているということですね。

高野 そうです。例えば、私が新しい手法を提案した際、スーパーコンピューターを使ってさらに高速性能を追求する方向に発展することは、もちろん可能ですが、通常のコンピューターパワーやメモリーでも解ける、という方向性に割と力を入れています。そのために、普段からJSOLさんや企業のエンジニアの方、NPO団体と会話する機会をなるべく作るようにしています。

― JSOLの技術サポートはいかがでしょうか。

高野 信頼しています。30年ぐらい知っているので、Simpleware Softwareを使わせてもらったときもそうですが、技術サポートは素晴らしいし、とても信用しているのは間違いありません。

JSOLさんは、実験を大学との共同研究のような形でやっていらっしゃる。ソフト会社で、実験データと比較してユーザーさんに示すというのは、なかなか無いことですよ。
例えば、ヨーロッパの会議でJSOLのエンジニアさんと一度ご一緒したことがありました。JSOLさんが作成されたユーザーサブルーチンを組み込んだAnsys LS-DYNAを使った成形シミュレーションの事例を紹介されていていましたが、大変注目されていました。ヨーロッパの研究者たちが使っていたソフトで一番多かったのがAnsys LS-DYNAでしたし、JSOLさんの技術力の高さを、そんなところでも実感しました。

― 現在は、Simpleware Softwareを使ってどのような研究をされているのでしょうか。

高野 今度やろうとしているのが「入れ歯」です。ここに「3Dプリント」で作った、チタン合金の「入れ歯」の実物があります。健康な歯にカチャッとはめますが、微妙なカーブをお医者さんたちが設計されていて、そこの精度がすごく求められている。そのため、歯形の細かい計測ができるツールが、どうしても必要になります。
また、「入れ歯」だと、患者さんが洗浄のために着脱するので、何回の着脱に耐えられるか、疲労試験も行っています。大体、1日3回として、10年で1万回と言われていますが、シミュレーションでその疲労寿命の予測ができるものを開発しています。

― Ansys LS-DYNAとの連携もお考えとお聞きしました。

高野 直樹 氏

高野 はい、歯科矯正ですね。最近の歯科矯正はプラスチックの「アライナー」と呼ばれる器具を使って、矯正する治療法が一般に行われるようになったらしく、これを研究しています。例えば、マイクロCTを使って厚さ計測をしたり、八重歯に装着したときにどんな力が発生して矯正が進んでいくかをシミュレーションしたりしています。歯の矯正は、歯と顎骨に力が加わることで代謝が起こり、歯が動くという仕組みですが、これを無理やり八重歯の人にはめると、プラスチックがゆがんで元に戻ろうとするので、力が発生する。それをシミュレーションで予測したいんです。
計測では限界があるので、シミュレーションで細かいデータを取ろうとしています。Simpleware SoftwareとAnsys LS-DYNAにつなげば、CT画像からシミュレーションまでを一気通貫に実行できそうなので、研究を続けていこうと思っています。

― 今後、Simpleware Softwareはどのような分野で活用できそうだとお考えですか。

高野 ナノ領域、FIB-SEM(正式名はFocused Ion Beam)、電子顕微鏡、SEMなどでしょうか。透過型電子顕微鏡(TEM)のトモグラフィー技術を使えば、1ナノの分解能まで3次元像が作れるので、既にありとあらゆるイメージング技術から力学のシミュレーションまでをつなぐことは、できていますね。医療分野だと、コラーゲン繊維を捉えることができる、SHG(Second harmonic generation)装置があり、コラーゲンレベルでひずみをシミュレーションで予測しようという基礎研究を行っています。

― 製造分野ではいかがでしょうか。

高野 ナノレベル、ミクロ構造を持った材料はたくさんあるので、すべてに使えると思います。最近、CT技術がどんどん上がっていて、ある会社さんでようやくCTが撮れるようになり、JSOLさんに紹介していただいた材料メーカーさんと、共同研究をやらせていただきました。高分子系の材料やゴム、繊維強化プラスチックのほか、コラーゲンのような変わった材料を測るための装置が出てきたので、金属、セラミックス、高分子がカバーできれば、工業材料の多くはカバーできていると思います。

CT技術の向上とともに、対象にする材料もどんどん増え、もっと普及すると思っています。昔は撮れなかったFRPも撮れるようになってきました。そういったミクロ構造を見るところまで研究を進めていらっしゃらない企業さんも、これからは必要性があって増えていくと思います。

― 最後に、Simpleware Softwareのシミュレーションを使った、将来展望などはありますか。

高野 直樹 氏

高野 私は今、材料やバイオの中でも、個体差による骨のバラつきを扱った確率的シミュレーションをやっています。そういう限定される分野では、バラつきの原因が、CTじゃないと見られないミクロ構造にあるケースに多く遭遇します。恐らくまだ、企業の中では基礎研究ということで、なかなかそこまで手を出すケースは少ないのかなと思うのですが、Simpleware Softwareを研究室で使うようになって、ルーティンワーク的に世の中で使えるようなやり方を考案できれば、ミクロ構造観察という武器が企業に浸透するのではないかと思います。

私は昔から目に見えないものを見るのがすごく好きです。それが解けない疑問を解決してくれると思っていますし、生体や材料開発の中でいうと、それが糸口になることがたくさんあることを、研究や実例を通じて紹介していきたいとも思っています。また、バイオでは分子生物学的な研究の方が脚光を浴びていますが、もっとマクロな世界のスケールでもいろいろなことを説明できるので、マイクロCTを用いた3次元解析をより多く伝えていけたらなと思っています。

インタビュー協力

慶應義塾大学 理工学部機械工学科

慶應義塾大学 理工学部機械工学科

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