
CAE Technical Library インタビュー - CAE技術情報ライブラリ
導入のメリット
- ・金型設計段階で可能になる製品製造の問題可視化
- ・高精度解析が可能にする試作レスと工期短縮・コスト削減
- ・説得力のある解析結果がもたらすコミュニケーションの円滑化
お話を伺った方
- 株式会社ニチリン 技術部 設計グループ
奥山 信輔 氏
― 現在、どのようなお仕事やプロジェクトを担当されていますか。
奥山 当社は自動車や住宅用のホースを製造・販売する会社で、私はCAEチームのリーダーを務めております。私自身の担当は流体解析や音響解析が中心ですが、樹脂部品の解析や振動解析などの技術開発、設計者への提案、解析技術者の育成も進めています。
当社での解析業務の立ち上げは1997年頃になります。構造解析を中心に開始しましたが、2015年ごろから新しいニーズに応えるために解析分野を拡大しました。振動解析や熱流体解析などですが、樹脂流動解析への取り組みもその一環です。私が入社したのも、ちょうどこのタイミングです。
― 「Moldex3D」を導入した経緯を教えてください。
奥山 従来は、試作で不具合が発生しても何が原因でこの不具合が出ているのかが、そもそも分かりませんでした。かといって、金型を作ってからではもちろん、遅い。やり直すのに時間もお金もかかりますので、金型を作る前にリスクを予測し、対応する必要性を感じ、樹脂流動解析の導入を決めました。ソフトの選定に関しては、導入後に使いこなせなければ意味がないので、入門版ソフトを対象にしました。また、当社の製品は配管用の小型の樹脂部品なので、丈夫に作る必要があり、かなり肉厚なんです。そのため、3D解析で、樹脂の内部まで可視化できることが必要でした。
複数社の入門版を比較して、樹脂部品の中まで再現性の高い可視化ができる点が当社の業務と合致すると判断しました。導入しやすい価格設定だったのがありがたかったです。
― 導入にあたり、何かハードルはありましたか?
奥山 当時の上司が解析の導入に積極的で、特にハードルがあったイメージはないですね。おそらく、上司はお客様からCAEの要望や必要性を聞いていたのと、時代の要請で樹脂部品のニーズが増えていったこともあって、どんどん入れていこうと考えたんだと思います。あとは、当社全体で軽量化やコストダウンを考えた場合、樹脂化が必須なので、導入については反対がなかったのかな、と思っています。
― 「Moldex3D」の導入後、利用方法も変化しましたか?
奥山 導入時は入門版を使用していましたが、導入から2年足らずで上位版にアップグレードすることにしました。2年使ってみて、入門版では使いたい機能が足りなかったことと、解析に対する信頼は十分にあったので、アップグレードには何の支障もありませんでした。保圧や反りの解析機能が追加されたことで、より詳細な品質予測が可能になりましたし、繊維強化樹脂の解析機能も活用し、複雑な材料特性を考慮した設計が進められるようになっています。
あと、「Digimat」と連携できることも大きかったですね。特に繊維を含む樹脂部品の解析では、「Moldex3D」と「Digimat」の親和性が非常に高く、繊維配向まで考慮した解析をするには、ベストの組み合わせだと個人的には思っていて、そこも「Moldex3D」を導入して良かったなと思った点ですね。
― 導入した結果、どのような効果を感じていますか?
奥山 「Moldex3D」の導入により、不具合発生リスクの低減はもちろん、原因究明にも役立ちました。ある製品の例ですが、類似部品ではボイド(空隙)ができなかったのに、発生したケースがありました。その原因を特定できず試行錯誤を繰り返していましたが、「Moldex3D」を活用することで、ゲート位置や樹脂の充填の仕方の違いによる影響を可視化することができました。もともと、解析結果からボイド発生のリスクがあることは分かっていたので、あらかじめ差し替えられるようにしていたおかげで、手戻りを最小限に抑えることができました。
実際、このような解析の結果があるのとないのとでは、お客様への説明にも影響が出ると思います。試験して大丈夫でしたというのは、今でももちろん必要ですが、解析結果のような理論的なものも揃っていると、お客様の納得が得やすいですし、説得力ある説明が可能になり、円滑なコミュニケーションにつながっていると思います。
当社社内でも同様の効果を実感しています。解析技術は当社の設計業務に深く根付いており、現在は設計者と解析担当者が協力しながら開発を進めているため、報告もスムーズですし、課題解決のスピードと精度が向上したと感じています。
― JSOLのサポート体制はどうでしょうか。
奥山 JSOLさんのサポートは非常に迅速で丁寧です。導入当初は多くの質問や要望を出しましたが、どの問い合わせにも迅速かつ的確に対応していただけました。また、解析業務を進める中で直面する課題に対して、具体的なアドバイスや資料提供を受けることができたため、社内での「Moldex3D」の活用をスムーズに進めることができました。特に、新しい材料のデータ取得や繊維配向の解析に関するサポートが、ただの手順の解説だけでなく、一緒になって取り組んでいただけたので、大変助かりました。
― 今後の業界動向や「Moldex3D」に期待することはありますか?
奥山 自動車業界では電動化の進展に伴い、配管や部品の設計が大きく変化しています。従来の油圧ホースが減少する一方で、バッテリー冷却用の配管や樹脂化した部品の需要が増えています。また、SDGsや環境保全の観点から、リサイクル可能な樹脂やバイオプラスチックの活用も進む中、CAEの重要性がさらに高まると考えています。当社はホース関係については、長い歴史もありますし、お客様から信頼をいただいていると思っています。しかし、樹脂部品になると、必ずしも先行ではないため、解析と一緒に提案することにより、この分野でもお客様からの信頼を得ていくことが、今後はより大事になると思います。
「Moldex3D」に期待することとしては、当社独自で集めることが難しい材料ライブラリのさらなる充実や、ボイドやヒケなどの成形不具合への判定機能でしょうか。2つとも難しい部分だと思いますが、ソフトメーカーさんの方がいろいろな情報を集めやすいと思うので、教育的なサポートや情報の充実も含め、お願いしたいところです。また、CAEの重要性が増すにつれ、自動化が重要だと考えています。Moldex3DにもPython APIがあるようですが、APIマニュアルだけで使うのは無理なので、教育やサポートがあるとありがたいです。
要望を出させていただいたとはいえ、「Moldex3D」は設計段階での課題解決やお客様への説得力ある提案に役立っており、当社の競争力向上にも大きく貢献しています。これからも「Moldex3D」を活用し、高精度な解析技術を磨き続けることで、新しい技術的可能性を広げていきたいと思っています。
インタビュー協力
自動車用各種ホース、住宅関連ホース、同部品等の製造販売
- 本 社 所 在 地 :
- 兵庫県神戸市中央区江戸町98番地1(東町・江戸町ビル)
- 設 立 :
- 1914年5月14日
- 資 本 金 :
- 21.58億円
- 従 業 員 数 :
- 347名 (連結:2,408名)
(※2023年12月31日現在)