ここしばらくコラムにしては内容が重すぎたので、少し、やわらかいところで、次の三つの中途半端な言葉をとりあげてみたい。
1)「生か死か、それが問題だ」
ここまでは良く知られているハムレットのセリフだ。その後に続くセリフは?となると、これが意外と知られていない。さらに続けると
「どちらが男らしい生き方か、じっと身を伏せ、不法な運命の矢玉を堪え忍ぶのと、それとも剣をとって、押しよせる苦難に立ち向かい、とどめを刺すまであとには引かぬのと、一体どちらが。 ・・相手の寛容をいいことに、のさばりかえる小人ばらの傲慢無礼・・この辛い人生の坂道を不平たらたら、汗水をたらしてのぼって行くのも・・」(ハムレット、新潮社、福田恆存訳)
こうした現代のサラリーマンの心情にも通じる言葉をシェークスピアはハムレットに言わせている。いや、徳川家康も「人の一生は重き荷を背負うて遠き道を往くがごとし」といっている(意味は少し異なるが)。ローレンス・オリビエや江守徹ならずとも一度でいいから舞台でハムレットの役を演じてみたいものだ。もっとも、今の私は脳細胞がRead Only Memory化しはじめているので一行ぐらいしかセリフを憶えられない。あーそれが問題だ。
2)リンカーンの宣言
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[写真] リンカーン像の台座に刻まれたゲッチスバーグ宣言の最後の部分
Government of the people by the people for the people
この文章も実は途中までであり、このあとにshall not perish from the earth. がつづく。実は、前の部分はリンカーンよりも以前から言われていたセリフだ。このあとの部分がついてはじめてリンカーン自身の言葉となる。下の写真はリンカーン像の台座に刻まれたゲッチスバーグ宣言の最後の部分。(9.11事件で、このそばのペンタゴンにも飛行機がつっこんだ。その一月前に開催されたSMiRTの会議のときに撮ったもの。)写真の5行目ぐらいから声をだして読まれることをぜひお勧めする。なんだか自分が大統領になったような気分になりますよ。
3)温故而知新(故きをたずね新しきを知る)
論語のこの言葉は色紙に書かれたりする。また、古い家なら横長の額縁にかざられたりする。そのあとの「可以為師矣(以て師と為るべし)」は省略されるのが普通だ。しかし省略しては意味が異なってしまう。つまり、師たるものは古いことも研究して、そこから新しいアイデアを引き出す能力がなければならない、と孔子は言っている。一般人に言っているのではなく師たりうる者の必須条件を言っている。
ところで私は孔子を尊敬しているわけではない。特に「礼にあらずば動くことなし」は嫌いな言葉だ。礼にあろうがなかろうが、無理やり押しかけていっておせっかいをやく。
在職時代、学生にとってはさぞ迷惑であったことだろう。又、「巧言令色すくなし仁」などは孔子が私に向かって言っているような気がしてならない。私の多弁癖は、小学校時代によく廊下に立たされた「筋金いり」だ。
以上、三つの中途半端な言葉を取り上げた。それは、できうる限り原典を引用することをお勧めしたかったことによる。孫引きで分りにくかったことが、原典では同じように苦しんでいたことが素直に書かれている場合もある。この人と同じところでひっかかっていたのか、と発見できたときの感激はなかなかのものである。