シミュレーターと言えばパイロットの訓練装置などが思い浮かぶ。操縦席全体が何本もの油圧ジャッキで上下・前後・左右・ローリングなどをする疑似体験装置だ。
しかし、横浜にある「地球シミュレーター」は数百台の冷蔵庫大の箱が整然とならび冷却ファンの音がしているだけで、地球の動きを体感する装置ではない。地球の動きを体感するといえば、我々は地球の自転により音速ぐらいのスピードで振り回され、太陽の周りを秒速30kmほどでエッサエッサと走り続けているが、幸い限りなく等速運動に近いので何も感じない。もしそうでなけりゃ何かにしがみつかなければならないが・・。
「地球シミュレーター」は疑似体験でなく地球規模の気象予測や大規模解析など、通常のコンピュータでは扱いかねる数値シミュレーションなどに利用され人類に貢献してきている。
ところで、1995年の兵庫県南部地震では多くの建物が壊れた。それ以来是非とも解析したかったことがあった。鉄筋コンクリート建物の3次元解析である。通常の動的な解析は各階ごとを1質点で表わすいわゆる「串団子モデル」が用いられる。それはそれで要点をおさえた簡便なモデルであるが、どうも物足りない。特に近年になり鉄筋コンクリートの超高層マンションなども増えているが、それらは直下型巨大地震の洗礼をあまり受けていない。「串団子モデル」ではとらえにくい挙動が気になる。血液型がO(オー)型であるにも関わらず?鉄筋を一本一本きちんとモデル化してみたい。もちろん輪っかのように巻かれている細いフープ筋やあばら筋も忠実にモデル化したい。コンクリートは10cm程度のサイコロ状の有限要素に分割してっと・・杭や周辺地盤も併せて一体化したモデルを用いて解析してみたい。
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[図1] 海洋研究開発機構(JAMSTEC)と阪大との共同研究で用いた解析モデル
当然ながら、その解析のためにはパワフルなコンピュータが必要となる。
幸い、横浜の地に世界最速の座を2002年より2年半ちかく維持した「地球シミュレーター」があった。海洋研究開発機構(JAMSTEC)が中核となり開発したものだ。多少の紆余曲折はあったが、解析の重要性を訴えたのが理解してもらえてJAMSTECと阪大との共同研究としてスタートした(共同研究の略称名はGASSTプロジェクト)。
阪大のサイバーメディアセンターを中継として「地球シミュレーター」と我々の研究室との通信回線の確認、リモートバッジ利用のための種々の申請やパスワード関連の申請、解析アルゴリズムの並列化率やベクトル化率などの条件もなんとかクリヤーできた。
図1は解析に用いたモデルの一つである。解析にはLS-DYNAを用いている。その源流となるDYNA3Dはホルキスト博士により当初からベクトル演算を念頭にローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)で開発された陽解法による有限要素法である。彼は1987年にLSTC社を設立し、LS-DYNAはそこで年々拡張されているものである。