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CAE Technical Library 橘サイバー研究室 - CAE技術情報ライブラリ

vol.31トラス(Truss)とラーメン(Rahmen)のこころ

2013年12月09日

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院生だった私は、たまたま「ラーメン学」の背文字のついたファイルを机に置いていた。新任の教授秘書(正式には事務補佐員)が見て「あのー、ラーメンってあのラーメンですか?」とけげんな顔。質問の意味は分かっていたがわざと「そー、あのラーメン」と答えた。彼女は家に帰って「建築工学科ではラーメンの研究もしているのよ」と言って母親を驚かせたそうだ。

普通ラーメンと言えば「3分間じっと待つのだぞ」のあのラーメンだ。しかし、構造力学の分野では、ラーメンはドイツ語(Rahmen)で、ある種の骨組構造をさす。殆どのオフィスビルはこのラーメンもしくはそれに近いものである。ビルの工事現場で遊園地のジャングルジムを大きくしたような鉄骨を見かける。ああいったたぐいのほとんどがラーメンだ。

又、ラーメンと対比されるものにトラスがある。このトラス(Truss) はなぜか英語だ。トラスにはドイツ語にもFachwerk という立派な名前がついている。しかし例えば静定トラスを静定ファッハベルクと言うと「なんじゃそりゃー?」となってしまう。逆にラーメンだって英語にすると rigid jointed frame である。しかし不静定ラーメンを不静定リジッドジョインティッドフレイムと言うと、それだけで口のあたりがもごもご引きつる。英独混合でもトラスとラーメンが簡単で良いようだ。

  • [図1] トラスは斜材があるので利用者の動きの方向が決まっている橋梁などで用いられる画像拡大

    [図1] トラスは斜材があるので利用者の動きの方向が決まっている橋梁などで用いられる

  • [図2] このようなものもピン接合として扱われた[8]画像拡大

    [図2] このようなものもピン接合として扱われた[8]

何語かはともかく、コンピュータ解析の時代にトラスやラーメンなど古くさい・・と言うなかれ。コンピュータは、解析は得意だが、混沌とした設計空間から「原案を生み出す」ようなことはちょっと苦手だ。生み出す苦しみは構造設計家に与えられた幸せな作業でもある。色々と選択にせまられるが、そこは度胸、直感と経験からエイヤットと大筋を決めていく。設計者の好みも多分にはいる。だから生真面目なコンピュータはその支援にとどまらざるをえない[1]。

したがって良き設計者は、普段から引き出しの中身を知っておくことが必要だ。さらにはトラスやラーメンの解析法だけでなく、それらに含まれる「こころ」も知っておくことが必要ではなかろうか。

・・と、大上段に構えてみた。内心は若干うしろめたいが、ともかく次に進もう。

トラス構造は基本的には3角形の組み合わせよりなる骨組と言える(図1参照)。三角形は3辺の長さが決まれば形もきまる。それを組合せていけば全体の形も決まるという寸法だ。

よくある説明では、トラス構造は部材が回転可能な接合、つまりピン接合よりなる構造、とされる。しかし、実際にディテールの設計が回転できるようになっている場合は少ない。ガセットプレートが添えられ簡単な溶接やボルトで接合されたりしている場合も多い。(その極端な例は図2参照)

一方のラーメン構造は長方形の組み合わせよりなる骨組と言える。しかし、この場合は4辺の長さが決まっても、すぐ菱形にクシャットとなりたがる。だから柱や梁などは接合部をしっかりと剛につないでおかないとひどいことになる。工作の時間に額縁を作った経験があるかもしれない。ガタピシするので4隅に三角形の補強板を打ち付けたはずだ。(ちなみに、ドイツでRahmenの看板のある店は画材屋さんである。Rahmenは額縁も意味するからだ。お腹をすかしてあわてて飛び込んでも、画材屋のおっちゃんに「なんでっか?」と言われるだけである。)

ところで、講義のときに、一本のチョークを学生に渡して「二本にしてください」ということにしていた。その学生はポキンと折る。すかさず「なぜ折ったのですか? なぜひっぱらなかったのですか?」と聞く。学生は怪訝な顔。そこでコホンと咳払いをして「部材は一般に軸力よりも曲げに弱い。そのことは子供の頃から知っている」と言う。キャンプで焚き火をするとき、拾ってきた長い木の枝は膝を使ってボキンと曲げて折る。大袈裟に言えば外側面から各個撃破されるわけだ。もし力が断面全体にまんべんなく加わる軸力の場合だと攻撃力がにぶることになる。

このことをトラスとラーメンに置き換えてみよう。

外力が働くとトラスの部材には「主に」軸力が生じる。一方、ラーメンの部材には軸力、せん断力、曲げモーメントが生じる(これら断面力の説明は省略)。このラーメンに生じる曲げモーメントがチョークを折る話や各個撃破の話につながる。それゆえに曲げモーメントの生じない軸力だけのトラスはラーメンよりも材料強度からいって効率的な構造だといえるかもしれない[2]。
しかし、いざ、トラスの中で人が住むとなると、斜めの部材がじゃまだ。家具を置けなくなったりオデコをぶつけたりする。したがって居住空間としてはトラスよりラーメンに分がある。

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