[解析事例] 高度な材料データを使用した射出成形圧力予測の改善
- 事例カテゴリ
- 充填
圧力依存性粘度を考慮した射出圧力実機比較検証
SABIC(サウジ基礎産業公社)はサウジアラビアのリヤドに本社を置く多角的な化学製品の世界的リーダー企業です。アメリカ、ヨーロッパ、中東、アジア太平洋地域などグローバルに事業を展開し、化学品、汎用・高機能プラスチック、農業資材、金属など、それぞれ異なる種類の製品を製造しています。SABICの専門事業は特殊エンジニアリング熱可塑性樹脂と化合物、複合材、熱硬化性樹脂と添加剤、付加製造ソリューションなど高度に差別化された製品の生産です。幅広い産業に対応するため、多機能な物理的特性を備えた製品を提供しており、ブランドポートフォリオにはULTEM™ 樹脂、LNP™ コンパウンド、NORYL™ 樹脂、LEXAN™ コポリマー、EXTEM™ 樹脂を含みます。
SABICのGlobal Application Technology Centersは製品エンジニアと材料加工の専門知識を活用して、設計、用途開発、テストなどの具体的な要望に対応し、お客様の革新的な製品の早期市場投入を支援します。材料データチームは、最先端の材料特性評価ラボ、予測エンジニアリング能力、部品レベルのテストを用いて、用途設計に使用される材料データを検証しています。
概要
最近の業界動向として、射出成形品の薄肉化が進み、高充填樹脂の使用も増加しています。このため、より新しい解析手法、材料モデル、CAEソルバー機能を開発し、正確なプロセスシミュレーションを行うことが求められています。
CAEシミュレーションの結果は、部品、金型、成形機、プロセス設計について確信を持って意思決定できるよう正確である必要があります。
SABICは実際の成形シナリオをCAEで再現する体系的なアプローチと詳細な手順を開発し、樹脂粘度の特性評価を改善しました。これにより、評価する樹脂の射出圧力を実際の値の10%以内で予測できるようになりました。
これにより、設計チームは部品、金型、プロセス開発時に確信を持って意思決定を行うことができ、再作業を減らし、開発期間を短縮し、開発コストを最適化することができます。
課題
複雑なマルチドメイン問題をCAEで再現する場合、部品、工具、材料、成形機を適切な境界条件として表現する方法について総合的に検討する必要があります。金型表面温度や溶融樹脂温度の測定といった重要な側面を検討し、CAEでの入力として使用しながらその不確実性を低減しなければなりません。金型内のレオロジーに関する詳細な調査を通じて、射出速度が成形品の圧力に与える影響を調査し、最適な成形条件を導き出すようにしなければなりません。成形機スクリューのバレル内で発生する圧力損失は大きいので、エアショットの研究を通じて把握する必要があります。これらの研究はすべて、プロセスに関する洞察をもたらし、CAEでモデルを設定するための基礎を築くものです。これらは、部品、材料、流路、溶融樹脂および金型の初期温度条件からなる実際のプロセスを代表するCAEモデルを作成するのに役立ちます。
従来、高分子材料の粘度特性評価では、温度とせん断速度の影響を含めて行われてきました。現状の解析では、圧力が粘度に与える影響は考慮されていませんが、特に非晶性樹脂の場合は圧力が関係しポリマー粘度を著しく増加させます。非晶性樹脂では、ポリマーが受ける圧力が高くなるとTgが上昇します。これは、圧力の増加により自由体積が減少し、粘度がさらに増加するために起こります。改善された手法では、使用するCross-WLF粘度モデルのD3パラメーターで表される粘度への圧力の影響を考慮しました。
Fig. A
上のFig. Aは、成形実験とCAEの射出圧力のギャップを示しており、ここでの材料ファイルにはD3(圧力依存性)が考慮されていません。
ソリューション
SABICチームはこれに対し体系的なアプローチをしました。
1. 材料特性評価
従来の Cross-WLF パラメーターに加え、Cross-WLF モデルの圧力依存項 D3 も、高い射出圧力下での樹脂の流動挙動を正確に推測するために重要です。SABIC は D3 の測定方法のノウハウを持っています。
2. 実験セットアップ
SABICは乾燥剤式ドライヤーを使って必要な設定通りに材料を予備乾燥させ、科学的成形技術を使ってプロセス設定を最適化した後、設定を1時間(60サイクル)かけて実行しプロセスを安定させ、測定前に平衡状態に到達させました。
3. データ記録
溶融樹脂温度と金型温度などの入力は、それぞれサーマルプローブを使用したパージとキャビティ表面のチェックによって測定されます。ストロークや速度などのスクリューの動きに関するパラメーターはすべて、成形機から圧力変化の時間に対する連続曲線で取得されます。
4. CAEモデル
部品と、ゲート、コールドランナー、ホットドロップを含む供給システムは、すべて3D要素を使用してモデル化されました。圧力やフローパターンなどいくつかの重要な結果に対するモデルのメッシュ感度を理解するために、決定前に相当な労力が費やされました。成形機のスクリューバレルで発生する圧力損失を含めるために、成形機のノズル前部の形状をフィードシステムモデルに組み込み、最終的に部品の形状と統合します。これらすべてを3次元要素でメッシュ化し、FEMモデルの基礎を形成します。金型内に設計されたベントも測定し、CAEモデルとしてモデル化します。
5. ポスト処理
Moldex3Dで典型的な充填と保圧の研究を含む成形過程シミュレーションを実施しました。CAEシミュレーションで使用された材料データの粘度モデルにD3が含まれていない場合、成形実験とシミュレーション(CAE)のピーク圧力の比較では、シミュレーションが約28.9%下回る予測となりました。粘度モデルにD3を含めることでピーク圧力の比較は大幅に改善され、実測圧力と良い一致を見せています。(シミュレーションではピーク圧力の測定値を僅かに(4.2%)下回っています。)
メリット
この解析モデルは、実際の状態をより忠実に再現しています。
- ・レオロジー特性を向上させた樹脂材料データ
- ・溶融樹脂温度と金型温度の正確な測定と組み込み
- ・詳細な材料測定と成形機ノズルも加味したより現実に即した流路モデル
- ・ベントの詳細情報を考慮した解析モデル
- ・成形機能力を考慮し、充填と保圧条件をより実際に近い形で考慮した成形条件設定
これらの結果、溶融樹脂特性や成形条件について最小限の誤差でCAEシミュレーションモデルができ、入力情報に基づいた意思決定を行うためのデータが得られます。
結論
成形実験を行う際に使用したアプローチは、体系的で科学的なアプローチで行われました。成形実験とシミュレーション(CAE)の相関を成功させる鍵は、材料挙動の特性評価、射出速度や溶融樹脂温度などの主要プロセスパラメーターの正確な測定と記録、完全な樹脂流路のモデリングにあることが実証されています。シミュレーションの領域では、実世界のシナリオをできるだけ忠実に表現する解析モデルを開発することが重要です。今回の評価により、検証の結果、射出成形シミュレーションにおけるピーク圧力の予測に良好な相関関係を確立できることが明らかになりました。これにより、部品、金型、プロセス開発において、設計チームが確信を持って意思決定することができるようになります。
SABICのような世界有数の材料サプライヤーは、正確な予測に不可欠なD3粘度係数などの高度な材料データを提供することができます。このような高度な材料データと適切なシミュレーション技術は、時間やコストの削減などに貢献します。
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