[解析事例] 金型鋼材による冷却効率と変形への影響
- 事例カテゴリ
- 冷却/変形
Moldex3Dを使用した金型鋼材を変化させた際の冷却効率違いと変形傾向違いを検証した事例
概要
射出成形品の型開き後の変形量は、成形品形状、成形条件、製品冷却時の温度不均一、突き出し時の影響など様々な原因により変化します。これらの変形要因のうち、温度不均一については、冷却管配置を変更する、金型鋼材を変更するなどして、冷却効率を向上させることにより、対策が行われています。しかしながら、これらの対策を実際の成形に反映する場合、金型の改造や作り直しが必要となり、コスト的、時間的にも実機でのトライ&エラーは現実的ではないため、実装前の初期検討としてCAE解析が用いることが有効です。Moldex3Dでは、金型に含まれる各部品の形状を全てフル3Dでモデル化することにより実際の挙動を忠実に再現し、充填から型開きまでのプロセス中の金型温度変化を詳細にシミュレーションすることが可能であり、実際に成形を行うことなく、冷却配管や金型材質違いによる冷却効率の違いを検証することができます。
本事例では、Moldex3Dを用いて金型内部の入れ子(モールドインサート)の材質を変更した場合の解析を行い、材質違いによる冷却効率変化と成形品の変形量の差異について検証した事例をご紹介します。
検証項目
- ・基準ケースにおける充填挙動・変形傾向
- ・モールドインサートの鋼材違いによる成形品の変形傾向・変形量の違い
- ・モールドインサートの鋼材違いによる成形品表面・金型断面の温度分布
解析モデル
解析モデル概要
金型鋼材の材質違いによる冷却効率の違いを検証するため、図1の解析モデルを作成し、検証を行いました。製品形状は板厚3mmのシンプルな平板形状で、製品キャビティを囲うようにモールドインサートが配置されており、更にそれを囲うように金型プレートが配置されています。金型プレートの材質として、S55Cを使用し、モールドインサートの材質としてはP20、アルミニウム(Al)の2通りで解析を行い、結果比較を行いました。その際、金型プレートがS55C、モールドインサートがP20のケースを基準ケースとしました。
各材質の熱伝導率は表1に示す通りであり、アルミニウムの熱伝導率はP20の5.8倍であり、S55Cを基準とすると、P20の熱伝導率は0.6倍、アルミニウムの熱伝導率は3.5倍となっています。
解析上の成形条件は設定流動時間1.63秒を満たすように1速でフローレートを設定し、保圧時間は25.0秒間、保圧圧力は40MPaの1圧で維持されるように設定し、両鋼材のケースで十分な冷却が行われるよう、冷却時間は240sに設定しました。解析順序についてはCt/F/P/Ct/W(Ct:非定常冷却、F:充填、P:保圧、W:変形)で解析を行っています。
図1. 解析モデル概要図
表1. 各金属鋼材の物性値
検証結果
基準ケース(金型プレートがS55C、モールドインサートがP20のケース)について、以下で充填挙動・変形傾向を説明します。
成形品の充填挙動
流動解析で得られた樹脂の充填挙動を図2に示します。本事例の製品形状は単純な平板形状であるため、1点のゲート位置から同心円状に樹脂の充填が行われ、ゲート位置の対向側両端部が最終充填位置となっていました。
図2. 充填挙動
成形品の変形解析結果
変形解析で得られた成形品の変形解析結果を図3に示します。ゲート部を中心にX方向、Y方向・Z方向に等方的に収縮するような単純な変形傾向となっており、X方向の反りは非常に少ないです。
図3. 総変形量(10倍表示)
次に、図4(a)の線分1,2,3で変形量を比較することにより、図4(b)の各方向の線形収縮率を見てみます。線形収縮率より、面内方向の収縮はほぼ同程度でX方向の収縮はZ方向よりも小さく、いずれの方向においても収縮率は1%以下であることがわかります。
図4. 線形収縮率測定のための線分配置
続いて、保圧終了時の製品断面の体積収縮率分布(図5)を確認すると、製品形状における収縮率はほぼ一定値であることがわかります。
図5. 保圧終了時の成形品の収縮率分布
モールドインサート鋼材違いによる結果比較
成形品キャビティのキャビ側表面・コア側表面に図6に示すように、長手方向(Y方向)を30等分するようにプローブノードを配置し、解析結果の比較を行いました。また、製品中央部のゲート位置を中心として、正規化表面位置Wを定義します。
図6. プローブ配置と正規化表面位置W
1) 冷却終了時の成形品表面温度分布
基準ケース(金型プレート・モールドインサートともにS55Cのケース)の冷却終了時の製品表面の温度分布(図7)を確認すると、キャビ側中央表面付近が80.2℃程度であるのに対し、端部は79.9℃程度となっており、ほぼ温度差がないほど十分に冷却がされています。
図7. 冷却終了時の成形品表面の温度分布
続いて、キャビ側表面・コア側表面のプローブノードによって取得した値から、モールドインサート材質違いによる製品表面温度分布・キャビ側-コア側温度差分布(図8)を算出・比較します。(グラフの系列名はインサート鋼材名)
図8. モールドインサート材質違いによる製品表面温度比較
いずれのケースにおいても、成形品表面温度は79.8℃から80.2℃の範囲に収まっており、冷却終了時において十分な冷却が行われていることがわかります。P20とAlの両ケースでプローブ位置での温度分布を比較すると(図8)、P20のケースでは成形品中央と端部で分布ができているのに対して、Alのケースでは平坦な温度分布となっており、P20ケースと比較して均等に冷却ができていることがわかります。 上記より、インサート鋼材をP20からAlに変更することにより、製品をより均等に、すばやく低い温度まで冷却できていることがわかります。
2) 金型断面温度分布
充填終了時(図9)・保圧終了時(図10)・冷却終了時(図11)の金型断面温度分布を示します。モールドインサートがP20のケースでは、保圧終了時において製品キャビティ周辺が90℃付近の高温で分布しており、製品位置を中心に局所的に高温になっていることがわかります。一方、モールドインサートがAlのケースでは、同時刻における製品位置付近の型温は85℃付近とP20のケースに比べて低温となっており、より効率良く冷却が行えていることがわかります。
図9. 充填終了時の金型断面温度分布
図10. 保圧終了時の金型断面温度分布
図11. 冷却終了時の金型断面温度分布
3) X方向変形量
基準ケースにおける、製品表面・断面のX方向変形量分布を図12(a)(b)に示します。キャビ側表面で負の変形、コア側表面で正の変形をしており、製品全体としてはX方向にも収縮していることがX方向変形量分布から分かります。また、製品端部に近づくにつれてX方向変形量が大きくなるように分布していることから、反り変形が発生していることが分かります。
図12(a). 基準ケースでのX方向変形量(キャビ側表面視点)
図12(b). 基準ケースでのX方向変形量(コア側表面視点)
次に、(a)キャビ側表面プローブ (b)コア側表面プローブにおける、モールドインサート鋼材を変更して解析を行った際のX方向変形量分布を図13に示します。キャビ側表面、コア側表面における各ケースの変形量分布をみると、P20のケースに比べてAlのケースは端部での反り変形が小さく、全体としても形状の歪みが小さくなっていることが分かります。
図13. 基準ケースでのX方向変形量(コア側表面視点)
結論
この事例では、Moldex3Dを用いて、モールドインサート鋼材を変更した際の冷却効率・型開き後の変形量の比較検証を行いました。検証結果より、鋼材をより熱伝導率の高い材質に変更することで、冷却効率が良くなることが可視化/数値化により効果確認ができ、成形品全体を均一に冷却できることにより、形状の歪みを抑制できることがわかりました。
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